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3 何でこうなるの?
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「何でこうなるの?」
心の底からのため息が漏れる。
「悪いけど、しばらくの間面会の申し込みは全部断ってもらえる?」
「かしこまりました」
執事のレイモンドが一礼して部屋を出ていく。レイモンドに任せておけば、上手く取り計らってくれるはず。
「はあー……」
これで少しは落ち着けると、あたしはベッドに身を投げ出した。
あのグダグダな婚約破棄騒動から既に一週間が経過していた。
普通なら傷心に浸るところなのだろうが、大変不幸なことに、あたしにそんな暇は与えられなかった。
婚約破棄の翌朝からあたしに対する面会の申し込みが殺到したのだ。その量はそれこそ半端なく、その予約を捌くのに今日までかかってしまったというわけだ。
面会の内容は新たな婚約ーーなわけはなく、全て仕事のオファーだった。
自分で言うのもなんだけど、あたしはあの王妃教育をクリアした人間である。大体どんな仕事でもこなせる自信はある。みんなもそれをわかっているからこそのオファーなのだろう。
でも。
でもよ。
でもなのよ。
誰もあたしの傷心をいたわってはくれないわけ!?
婚約破棄されたのよ?
女としてダメ出しされたのよ?
あんな馬鹿にとは言えーーいえ、違うわね。あんな馬鹿に言われたからこそ傷口は深いのよ。あんなのからも見限られちゃうの、って。
「しばらくどこかへ旅に出ようかしら」
何の気なしに呟いてみたけど、意外にいい案のような気がしてきた。
行くとしたら、誰もあたしのことを知らないところに行きたいわね。
となると、国外か……
さすがに気楽にはいけない気がするけど、ここでとどまっているよりは建設的よね。
よし、決めた。
思い立ったが吉日って言うもんね。これから出かけよう。
そして、あたしは国を出た。
【side 侯爵家】
『探さないでください』
残されていたのはたった一言の書き置きだけだった。
「何だ、これは!?」
書き置きを見たカートライト侯爵は卒倒しそうになった。
傷心であろう娘にどう接していいかわからず、とりあえず様子を見ていたところにこの書き置きである。錯乱するのも無理はなかった。
「これはどういうことだと思う?」
「気分転換ではないでしょうか?」
侯爵と違い、レイモンドには慌てた様子はない。
「…おまえ、何でそんなに落ち着いてんの?」
「逆に伺いますが、何をそんなに心配しておられるので?」
執事の落ち着きが逆に侯爵の焦りを助長する。
「家出だよ!? しかも、これって下手すりゃ自殺するパターンだよ!? 何で落ち着いてられるんだ!」
「落ち着いてください。お嬢様は自殺などしませんから」
「なぜそう言い切れる?」
「考えてみてください、お嬢様の性格を。自殺なんてするよりも相手をぎゃふんと言わせようとすると思いませんか?」
「…それはまあ…確かに」
不承不承という感じだったが、侯爵は頷いた。
「でも、盗賊とかに遭ったりしたらーー」
「百人までなら返り討ちにするのではないですか?」
「まさかそんなーーするかもしれんな……」
王妃教育の一環として受けた武術の腕は騎士団に入れてもトップクラスだと言われていた。そこらの盗賊風情では傷ひとつつけられないだろう。
「うーむ…しかしなあ……」
頭では理解したが、感情がついてこない。侯爵的にはそんな感じだった。
「…むしろ心配すべきは行く先々の方々かと」
「…どういうことだ?」
「お嬢様のことです。必ずトラブルを引き寄せることでしょう。そして、お嬢様自身はご無事だとしても、周りの方々はそうはいかないのではないかと……」
「……」
あまりと言えばあまりの話だが、いまいち娘を弁護する言葉が見つけられない侯爵であった。
心の底からのため息が漏れる。
「悪いけど、しばらくの間面会の申し込みは全部断ってもらえる?」
「かしこまりました」
執事のレイモンドが一礼して部屋を出ていく。レイモンドに任せておけば、上手く取り計らってくれるはず。
「はあー……」
これで少しは落ち着けると、あたしはベッドに身を投げ出した。
あのグダグダな婚約破棄騒動から既に一週間が経過していた。
普通なら傷心に浸るところなのだろうが、大変不幸なことに、あたしにそんな暇は与えられなかった。
婚約破棄の翌朝からあたしに対する面会の申し込みが殺到したのだ。その量はそれこそ半端なく、その予約を捌くのに今日までかかってしまったというわけだ。
面会の内容は新たな婚約ーーなわけはなく、全て仕事のオファーだった。
自分で言うのもなんだけど、あたしはあの王妃教育をクリアした人間である。大体どんな仕事でもこなせる自信はある。みんなもそれをわかっているからこそのオファーなのだろう。
でも。
でもよ。
でもなのよ。
誰もあたしの傷心をいたわってはくれないわけ!?
婚約破棄されたのよ?
女としてダメ出しされたのよ?
あんな馬鹿にとは言えーーいえ、違うわね。あんな馬鹿に言われたからこそ傷口は深いのよ。あんなのからも見限られちゃうの、って。
「しばらくどこかへ旅に出ようかしら」
何の気なしに呟いてみたけど、意外にいい案のような気がしてきた。
行くとしたら、誰もあたしのことを知らないところに行きたいわね。
となると、国外か……
さすがに気楽にはいけない気がするけど、ここでとどまっているよりは建設的よね。
よし、決めた。
思い立ったが吉日って言うもんね。これから出かけよう。
そして、あたしは国を出た。
【side 侯爵家】
『探さないでください』
残されていたのはたった一言の書き置きだけだった。
「何だ、これは!?」
書き置きを見たカートライト侯爵は卒倒しそうになった。
傷心であろう娘にどう接していいかわからず、とりあえず様子を見ていたところにこの書き置きである。錯乱するのも無理はなかった。
「これはどういうことだと思う?」
「気分転換ではないでしょうか?」
侯爵と違い、レイモンドには慌てた様子はない。
「…おまえ、何でそんなに落ち着いてんの?」
「逆に伺いますが、何をそんなに心配しておられるので?」
執事の落ち着きが逆に侯爵の焦りを助長する。
「家出だよ!? しかも、これって下手すりゃ自殺するパターンだよ!? 何で落ち着いてられるんだ!」
「落ち着いてください。お嬢様は自殺などしませんから」
「なぜそう言い切れる?」
「考えてみてください、お嬢様の性格を。自殺なんてするよりも相手をぎゃふんと言わせようとすると思いませんか?」
「…それはまあ…確かに」
不承不承という感じだったが、侯爵は頷いた。
「でも、盗賊とかに遭ったりしたらーー」
「百人までなら返り討ちにするのではないですか?」
「まさかそんなーーするかもしれんな……」
王妃教育の一環として受けた武術の腕は騎士団に入れてもトップクラスだと言われていた。そこらの盗賊風情では傷ひとつつけられないだろう。
「うーむ…しかしなあ……」
頭では理解したが、感情がついてこない。侯爵的にはそんな感じだった。
「…むしろ心配すべきは行く先々の方々かと」
「…どういうことだ?」
「お嬢様のことです。必ずトラブルを引き寄せることでしょう。そして、お嬢様自身はご無事だとしても、周りの方々はそうはいかないのではないかと……」
「……」
あまりと言えばあまりの話だが、いまいち娘を弁護する言葉が見つけられない侯爵であった。
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