婚約破棄? 上等じゃない! 王妃教育が完璧だから恐れるものは何もないわ!

オフィス景

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5 旅の醍醐味は食事

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 戦いが終わり、剣を納める。

 負傷者は出たものの、味方に死者は出なかった。

「助かりました。ありがとうございます」

 護衛のリーダーさんから礼を言われた。

「いえ、自分にできることをしただけですから」

 むしろモヤモヤしたものを吹き飛ばせたので、こちらが礼を言いたいくらいだ。

「それにしても見事な剣だ。誰か名のある師匠に着かれたのか?」

「ええ、まあ」

 苦笑混じりに答える。なかなか王妃様直伝とは言いづらいので、ちょっと濁らせ気味に。

「そうですか。それは頼もしい限りだ」

 幸いリーダーさんは深く追及する気はなかったようで、この場はこれで終わった。

 そして、その後は新たな賊が出ることもなく、無事に目的地へと到着した。

「さて、どうしようかしらね」

 少しこの街に滞在するか、それとも一気に国境を越えてしまうか。ちょっと悩む。

「でも、続けて馬車の旅っていうのもちょっとキツいわね」

 具体的には、激しい揺れのせいでお尻が悲鳴をあげている。馬車の旅が日常になると、それに対応するためにお尻が大きくなるって聞いたことがあるけど、できればそれはご勘弁願いたい。

 というわけで、少しの間この街でお尻を休めることにした。

「どうせならご飯が美味しいところがいいかな」

 こんな時に頼りになるのは嗅覚だ。美味しいものの匂いを嗅ぎ分ける力には自信がある。

 通りを歩き始めていくらもいかないうちに鼻がピクッと反応した。

 香ばしい香りが鼻をくすぐる。空腹が刺激され、自然とその方向に吸い寄せられる。

 そこは、表通りから少し外れた小さな宿だった。

 華やかさには欠けるが、清潔感には溢れている。そんな佇まいにあたしは好感を持った。

「いらっしゃいませ。お泊まりですか?」

 扉をくぐると、女将さんとおぼしき女性が声をかけてきた。優しそうな笑顔がチャーミングな女性である。

「はい」

「お食事はどうします?   こちらでもご用意できますし、素泊まりにして街で食べてもらうこともできますが」

「美味しそうな匂いに惹かれて来たので、ぜひこちらで」

「あら、それはありがとうございます。ご期待に沿えるように頑張りますね」

 通された部屋はベッドがあるだけの簡素なものだったが、特に不満はなかった。

 夕食の時間まで少し街を見て回ろうと思っていたのだけれど、自分で思っていた以上に疲れていたらしい。ちょっとベッドに横になったら、そのまま意識を手放してしまった……



 目を覚ましたのは、階下から漂ってくるいかにも美味しそうな匂いのせいだった。

「ああ、もう夕食時なのね」

 結構な時間眠ってしまったようだ。ただ、そのおかげで頭は非常にすっきりしていた。お腹も空いた気がする。

 まだ早いかなと思いつつも腹の虫を抑えられず、食堂へと下りていく。

「ああ、ちょうど準備できたところだよ」

    テーブルに並んだメニューは分厚いステーキによく煮込まれたシチュー、見るからに新鮮そうなサラダだった。もちろん王宮の料理に比べれば見劣りするのだが、そもそも比べるものではない。十分に美味しそうだ。

「運が良かったね。ちょうどボアが食べ頃になっててね」

「え?   これボアの肉なんですか?」

 ボアは割とポピュラーな魔物である。お肉を食べるとは知らなかった。

「ちょっと臭みがあるって言われるけど、ウチの特製ソースで食べればそんなの気にならないからね。ぜひ食べてみて」

「はい!」

 ちょっとだけ怖さはあったが、そもそも料理の匂いに惹かれて選んだ宿である。尻込みする場面ではない。

 野菜から食べるのが健康的だと聞いたことがある。でもここはボアステーキからだろう。

 ナイフの入りは想像していたよりも遥かにスムーズだった。

「え?」

 思わず声が出るレベル。

 続けて溢れる肉汁に視覚が刺激され、間髪入れずに香ばしい匂いが嗅覚を直撃してくる。

 期待が最高潮に高まったところで、切り分けたステーキを口に運ぶ。

「~~~~~!」

 あまりに美味しいと語彙は失われるものらしい。

 これでも侯爵令嬢だ。それなりにいいものを食べ、舌も肥えている。それでもこのステーキは衝撃的だった。

 感想を言うよりも二口目を優先してしまう。

 二口目も感動は薄れなかった。

 これは本物だと悟った後はもう止まらなかった。多分家でやったらマナー的に怒られそうな勢いで、あたしはすべての料理をきれいに食べ尽くした。

 大満足していると、突然店の入口が乱暴に蹴り開けられた。

「おうおう、今日こそはここを立ち退いてもらうぜ!」

 現れたのはどうみてもならず者。詳しい事情はわからずともこいつらに理はないなと思わせるチンピラだった。

 …何よ、こいつ……

 せっかく美味しいものを食べていい気分だったのを台無しにするような無礼者に、正直イラッときた。


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