婚約破棄? 上等じゃない! 王妃教育が完璧だから恐れるものは何もないわ!

オフィス景

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7 悪玉退治

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 お馬鹿さんたちの根城はすぐにわかった。繁華街の一等地。思わずびっくりするくらい立派な店構えをしている。

「これって、相当悪どいことをしてるってことよね」

 元から遠慮するつもりはなかったけど、この感じなら良心が咎めることもなさそうだ。

 早速店舗に乗り込む。

「お邪魔するわね」

「あ、おまえは!」

 さっき撃退したチンピラがいた。鼻に大きな絆創膏を貼っているのが笑える。

「あ、兄貴、こいつです。さっき俺の仕事の邪魔をしたのは」

「なに?」

 兄貴と呼ばれた男がこっちを睨んでくる。チンピラよりはマシだけど、これも小物ね。

「おいおいおい、こんな可愛らしいお姉ちゃんにやられたってのか? 何やってんだ、おまえは。もっぺん見習いからやり直すか?」

「見かけに騙されたんすよ。油断さえしなけりゃこんな女にーー」

「へえ、試してみる?」

「うーー」

 チンピラが明らかに怯む。口ではどう言おうが、実力差は理解してるみたいね。

 兄貴分にもそれはわかったみたいで、苦々しい顔で舌打ちした。

「おまえは引っ込んでろーーで、ねえちゃん、何の用だい」

「決まってるでしょ。あの宿に対するインチキな借金の件よ」

「インチキとは随分な言い草じゃねえか。ありゃあ証文だってしっかり残ってる、れっきとしたもんだぜ」

「わかってる? 証文の偽造は重い罪に問われるわよ」

「は、そいつは余計な心配ってもんだ。見てみるかよ」

 兄貴分は自信満々に証文を出してきた。

 一見すると、体裁は整っているように見える。書式、文言的にもおかしなところはない。国が定めているお金の貸し借りに関する規定の書式に沿って作られている。これでは素人は騙されてしまうだろう。

「どうだ、まともな証文だろうが」

「そうね。表面上はまともに見えるわね」

「引っかかる言い方をするじゃねえか。どこに文句があるってんだ」

「これで騙せるのは素人までよ。あたしを騙すことはできないわ」

「何だと?」

「お金の貸し借りについては決められた書式があるのは知ってる?」

「これがその書式じゃねえか」

「これが?」

 わざと挑発的に言ってみる。

 狙い通り、兄貴分はすぐに頭に血を上らせた。

「素人が知ったような口きいてんじゃねえ!」

「どっちが素人なんだか」

 大仰に肩をすくめて見せる。

「ああ、てめえ、適当なこと言ってんじゃねえぞ」

 凄んでくるけど迫力に欠けるわね。

 もしかして本気でわかってないのかしら?

 それじゃあレクチャーしてあげましょうか。

「端的に言います。これは正規の契約書ではありません。当然、無効です」

「ああ、何を根拠に」

「これ、偽物よ」

「はあ?」

「言ったわよね。証文の偽造は重罪だって。この一件だけでこの商会は取り潰しになるわね」

「な、何をふざけたことをーー」

 こちらが自信に満ちているため、兄貴分は不安を覚えたようだ。

「確信犯なのか、それとも上から言われただけなのかは知らないけど、あなた自身が罪に問われるのは間違いないわ。覚悟しておくのね」

「これのどこが偽物なんだ」

 まだ虚勢を張っている。まあ、だいぶ動揺はしてるみたいだけど。

「じゃあこれを役所に持ち込んで鑑定してもらう?」

「何?」

「本物はね、偽造防止の透かしが入ってるのよ。お金の貸し借りをする時には、契約内容を役所に申請して、専用の用紙に記載されたものが交付されるんだけど、勝手に作ったわよね」

「す、透かし?」

 兄貴分のみならず、居合わせたチンピラどもの顔色が悪くなり始める。

「ええ。知らなかったかしら?」

「き、聞いたことねえぞ、そんな話」

「勉強不足ね」

 バッサリ切り捨てると、兄貴分の目が据わった。

「なるほど。このまま帰すわけにはいかねえみてえだな」

「どうするつもりかしら?」

 展開は読めてるけど、一応訊いてみる。

「女一人で乗り込んで来たのが間違いだ」

 立ち上がったチンピラどもがあたしを囲む。

「何を笑ってやがる?」

 兄貴分が訝しげに訊いてきた。

 あら、笑ってた?

 しょうがないわよね。こっちの方が得意分野なんだから。

 口角が上がるのが自覚できた。

 じゃあ、お仕置きタイムといきますか。

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