18 / 179
18 値切っちゃダメ
しおりを挟む
「こんなのはどうだ?」
目の前に出されたのは、一振りの懐剣だった。
「…うお……」
一目見ただけで、素人の俺にも凄まじいレベルの業物だとわかる。そして、施された装飾の見事さ。工芸品っていうより、美術品って言った方が合ってそうだ。
「すご…こんなの初めて見た……」
色々見ているであろうジェシカがそう言うのだから、やっぱりすごいんだろう。
欲しい。すごく欲しい。でも……
「これって、いくらするの……?」
ジェシカの声が震える。
そう。到底俺に手が出せるような代物ではない。
「さて、お主ならこれにいくら出す?」
「……」
困った。マジで困った……
いくら出すって言われても、俺に値なんてつけられない。第一、売ってもらえそうな金額なんて出せるわけがない。
「…無理です」
悔しかったが、そう言うしかなかった。
「無理とは?」
「これだけすごいもの、俺じゃ適正金額なんてわかりません」
「値段交渉する気もないのか?」
「あ、交渉ならわたしがーー」
ジェシカが言いかけたのを遮る。
「いや、ダメだ」
「え……?」
「これには、作った人の魂がこもってる。職人の魂がこもった品を値切るなんて、絶対にしちゃダメだ」
ジェシカに向き直る。
「同じ物を買うなら安く買わなきゃ損だって言う人がいるよな。一面的には正しいんだけど、これはそういう買い方をしていいものじゃない」
「では、どうだと言うんだ?」
ガンテスさんは真っ直ぐに俺の目を見てきた。
「これに値段をつけられるのはガンテスさんだけです。ガンテスさんが自分のプライドに値段をつけるんだから、その値段をリスペクトできない人には、買う資格がありません」
「では、お主はこれをワシの言い値で買うと言うのか?」
「死ぬ気で働いて金貯めます」
「…面白い男だな、お主は」
ガンテスさんはニヤリと笑うと、鞘に納めた懐剣を俺に向かって放った。
「おわあっ!?」
慌ててキャッチする。落として傷でもつけてしまったら、一大事だ。
「持っていけ、と言うとお主はごねそうだな。それでは贈り物にならんとか言いそうだ」
「…え? あ、はい……」
咄嗟にはガンテスさんの言葉の意味を理解できず、呆けてしまった。
「そうだなーー有り金を全部置いていけ」
そうすれば命だけは助けてやる、と続きそうだなとバカなことを考えたところで我に返った。
「え、えええぇーっ!?」
「何だ? 高いか?」
「んなわけないですよ。逆です。安すぎますよ」
「ワシのつけた値段をリスペクトするんじゃないのか?」
あっさり揚げ足を取られて、何も言えなくなってしまう。
「…本当にいいんですか?」
「おう。職人のプライドを理解できる男なら金の問題ではない、というのもお主なら理解できるだろう?」
「ありがとうございます」
最大限の感謝をこめて、深々と頭を下げる。
「お主とはそのうち酒を酌み交わしたいな」
「是非に」
ドワーフの酒か。ちょっと怖いが、ツブされるならそれでもいい。この人となら美味い酒が飲めそうな気がする、って俺まだ未成年じゃん……
ガンテスさんの工房を辞去すると、ジェシカが興奮した様子で話してきた。
「ホントにすごいことですよ。ガン爺が初対面の人に作品売るの初めて見ました。よっぽど気に入られたんだと思います」
「ありがたい話だよなーージェシカもありがとうな。いい人紹介してくれて」
「お役に立てて何よりです」
「じゃあ、俺行くな。早くシルヴィアにこれ渡したいから」
「お気をつけて」
「ありがとうーーじゃあ、またな」
軽く挨拶して、俺は王都へと走り出した。
目の前に出されたのは、一振りの懐剣だった。
「…うお……」
一目見ただけで、素人の俺にも凄まじいレベルの業物だとわかる。そして、施された装飾の見事さ。工芸品っていうより、美術品って言った方が合ってそうだ。
「すご…こんなの初めて見た……」
色々見ているであろうジェシカがそう言うのだから、やっぱりすごいんだろう。
欲しい。すごく欲しい。でも……
「これって、いくらするの……?」
ジェシカの声が震える。
そう。到底俺に手が出せるような代物ではない。
「さて、お主ならこれにいくら出す?」
「……」
困った。マジで困った……
いくら出すって言われても、俺に値なんてつけられない。第一、売ってもらえそうな金額なんて出せるわけがない。
「…無理です」
悔しかったが、そう言うしかなかった。
「無理とは?」
「これだけすごいもの、俺じゃ適正金額なんてわかりません」
「値段交渉する気もないのか?」
「あ、交渉ならわたしがーー」
ジェシカが言いかけたのを遮る。
「いや、ダメだ」
「え……?」
「これには、作った人の魂がこもってる。職人の魂がこもった品を値切るなんて、絶対にしちゃダメだ」
ジェシカに向き直る。
「同じ物を買うなら安く買わなきゃ損だって言う人がいるよな。一面的には正しいんだけど、これはそういう買い方をしていいものじゃない」
「では、どうだと言うんだ?」
ガンテスさんは真っ直ぐに俺の目を見てきた。
「これに値段をつけられるのはガンテスさんだけです。ガンテスさんが自分のプライドに値段をつけるんだから、その値段をリスペクトできない人には、買う資格がありません」
「では、お主はこれをワシの言い値で買うと言うのか?」
「死ぬ気で働いて金貯めます」
「…面白い男だな、お主は」
ガンテスさんはニヤリと笑うと、鞘に納めた懐剣を俺に向かって放った。
「おわあっ!?」
慌ててキャッチする。落として傷でもつけてしまったら、一大事だ。
「持っていけ、と言うとお主はごねそうだな。それでは贈り物にならんとか言いそうだ」
「…え? あ、はい……」
咄嗟にはガンテスさんの言葉の意味を理解できず、呆けてしまった。
「そうだなーー有り金を全部置いていけ」
そうすれば命だけは助けてやる、と続きそうだなとバカなことを考えたところで我に返った。
「え、えええぇーっ!?」
「何だ? 高いか?」
「んなわけないですよ。逆です。安すぎますよ」
「ワシのつけた値段をリスペクトするんじゃないのか?」
あっさり揚げ足を取られて、何も言えなくなってしまう。
「…本当にいいんですか?」
「おう。職人のプライドを理解できる男なら金の問題ではない、というのもお主なら理解できるだろう?」
「ありがとうございます」
最大限の感謝をこめて、深々と頭を下げる。
「お主とはそのうち酒を酌み交わしたいな」
「是非に」
ドワーフの酒か。ちょっと怖いが、ツブされるならそれでもいい。この人となら美味い酒が飲めそうな気がする、って俺まだ未成年じゃん……
ガンテスさんの工房を辞去すると、ジェシカが興奮した様子で話してきた。
「ホントにすごいことですよ。ガン爺が初対面の人に作品売るの初めて見ました。よっぽど気に入られたんだと思います」
「ありがたい話だよなーージェシカもありがとうな。いい人紹介してくれて」
「お役に立てて何よりです」
「じゃあ、俺行くな。早くシルヴィアにこれ渡したいから」
「お気をつけて」
「ありがとうーーじゃあ、またな」
軽く挨拶して、俺は王都へと走り出した。
1
あなたにおすすめの小説
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので
eringi
ファンタジー
「悪いが、お前のスキル『ゴミ掃除』は魔王討伐の役には立たない。クビだ」
勇者パーティの雑用係だったアレクは、戦闘の役に立たないという理由で、ダンジョンの最深部手前で追放されてしまう。
しかし、勇者たちは気づいていなかった。
彼らの装備が常に新品同様だったのも、野営地が快適だったのも、襲い来る高レベルモンスターの死体が跡形もなく消えていたのも、すべてアレクが『掃除』していたからだということに。
アレクのスキルは単なる掃除ではない。対象を空間ごと削り取る『存在抹消』レベルの規格外チートだったのだ。
一人になったアレクは、気ままに生こうと辺境の廃村にたどり着く。
そこでボロボロになっていた伝説のフェンリル(美少女化)を『洗浄』して懐かれたり、呪われたエルフの姫君を『シミ抜き』して救ったりしているうちに、いつの間にかそこは世界最高峰の温泉宿になっていて……?
一方、アレクを失った勇者パーティは、武器は錆びつき、悪臭にまみれ、雑魚モンスターの処理すら追いつかず破滅の一途をたどっていた。
「今さら戻ってきてくれと言われても、俺はお客さん(美少女)の背中を流すのに忙しいんで」
これは、掃除屋の少年が無自覚に最強の座に君臨し、幸せなスローライフを送る物語。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる