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67 言っちゃったよ……
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結論から言うと、ケントの他に魔法を修得できた者はいなかった。
誰一人として宝玉に触れ続けることが出来なかったのだ。ケントの時のように放すことができないということがなかったため、長い者でも五秒でギブアップとなってしまっていたのだ。
そして、チャレンジは一回しか許されず、一度失敗してしまえば二度と挑むことは出来なかった。
「何で俺の時は強制だったんだ?」
ケントが素朴な疑問を口にする。
「あなたなら耐えられると思いましたので」
元管理者の思念が答える。ケントに管理者権限を委譲した結果、今しばらく意識を長らえることができるようになっていたのだ。
「もちろん他にも耐えられそうな方がいらっしゃれば、強制させてもらうかもしれませんが、あいにくそういう方はいらっしゃいませんね」
「確かにあれは死ぬかと思ったからな……」
あの時の苦痛を思い出すと、嫌な汗が吹き出てくる。もう一度やれと言われても断固拒否の構えである。
「無理をして死者を出すのは本意ではないので」
元管理者の言葉には全面的に賛同できたので、ケントは大きく頷いた。
だが、それでは納得できない者もいる。
「おかしいだろう。無理でもいいから試してみてくれ」
皇帝の言葉に、元管理者は嫌悪の念を向ける。ちなみに皇帝はわずか二秒で失敗していた。それでも諦めきれずに交渉を持ちかけてきていたのだ。
「絶対に嫌です。そういうこと言う人って必ず無茶苦茶しますから」
「何だってそう決めつけるんだ。俺は世界平和に貢献したいと思ってるんだぞ」
「いいえ。あなたは力を持つと変わる人です」
取りつく島もない。元管理者は頑なだった。
「あのな、俺は世界で一番大きな国の皇帝だぞ。今でも十分力を持ってるんだ。そんな心配は無用だと思うがな」
「それでもまだ絶対的なものではない。あなたもそれがわかっているから力を求めるのでしょう?」
痛いところを衝かれて、皇帝の顔が紅潮する。「何とかしろ」と言わんばかりにケントを睨んでくるが、ケント的には「無茶を言わんでくれ」というのが正直なところである。
その後も問答が繰り返されたが、埒があかないと見た皇帝は憤然とその場を後にしていった。
「子供みたいで嫌になっちゃう」
フローリアの言葉にケントは苦笑した。自分の親が駄々をこねる姿は、フローリアならずともあまり見たいものではない。
「無理なものは無理なのよ。何でそれがわからないのかしら」
そう言うフローリアは、自分で試してみた際には一秒未満の最短記録を樹立していた。
「世界で唯一使えるのがケントで、そのケントが味方なんだからそれでいいじゃない。ねえ?」
フローリアとしては、それが婚姻関係を結ぶ十分な理由になればそれで良かったのだが、去り際にその話をしようとしたら、聞く耳すら持ってもらえなかったのだ。そのため父の態度には不満しかなかった。
「ほとぼりを冷ましてからじゃないと、話は進められそうにないな。無理押ししようとしたら、それこそ話が壊れかねん」
諦念混じりにケントは言った。
「むー」
フローリアはぷくっと頬を膨らませた。その仕草には可愛さしかなかったのだが、続いて飛び出した言葉は、あまりにも物騒なものだった。
「いっそのこと、ケントの魔法じゃなくちゃ解決できないようなことが起きないかしら。そうすれば、実績で黙らせることができるのに」
「あーー」
ケントの顔から血の気が引いた。
それは思っていても口に出してはいけない類いの言葉だ。
間違いなく、立ったな……
ケントには嫌な予感しか感じられなかった。
誰一人として宝玉に触れ続けることが出来なかったのだ。ケントの時のように放すことができないということがなかったため、長い者でも五秒でギブアップとなってしまっていたのだ。
そして、チャレンジは一回しか許されず、一度失敗してしまえば二度と挑むことは出来なかった。
「何で俺の時は強制だったんだ?」
ケントが素朴な疑問を口にする。
「あなたなら耐えられると思いましたので」
元管理者の思念が答える。ケントに管理者権限を委譲した結果、今しばらく意識を長らえることができるようになっていたのだ。
「もちろん他にも耐えられそうな方がいらっしゃれば、強制させてもらうかもしれませんが、あいにくそういう方はいらっしゃいませんね」
「確かにあれは死ぬかと思ったからな……」
あの時の苦痛を思い出すと、嫌な汗が吹き出てくる。もう一度やれと言われても断固拒否の構えである。
「無理をして死者を出すのは本意ではないので」
元管理者の言葉には全面的に賛同できたので、ケントは大きく頷いた。
だが、それでは納得できない者もいる。
「おかしいだろう。無理でもいいから試してみてくれ」
皇帝の言葉に、元管理者は嫌悪の念を向ける。ちなみに皇帝はわずか二秒で失敗していた。それでも諦めきれずに交渉を持ちかけてきていたのだ。
「絶対に嫌です。そういうこと言う人って必ず無茶苦茶しますから」
「何だってそう決めつけるんだ。俺は世界平和に貢献したいと思ってるんだぞ」
「いいえ。あなたは力を持つと変わる人です」
取りつく島もない。元管理者は頑なだった。
「あのな、俺は世界で一番大きな国の皇帝だぞ。今でも十分力を持ってるんだ。そんな心配は無用だと思うがな」
「それでもまだ絶対的なものではない。あなたもそれがわかっているから力を求めるのでしょう?」
痛いところを衝かれて、皇帝の顔が紅潮する。「何とかしろ」と言わんばかりにケントを睨んでくるが、ケント的には「無茶を言わんでくれ」というのが正直なところである。
その後も問答が繰り返されたが、埒があかないと見た皇帝は憤然とその場を後にしていった。
「子供みたいで嫌になっちゃう」
フローリアの言葉にケントは苦笑した。自分の親が駄々をこねる姿は、フローリアならずともあまり見たいものではない。
「無理なものは無理なのよ。何でそれがわからないのかしら」
そう言うフローリアは、自分で試してみた際には一秒未満の最短記録を樹立していた。
「世界で唯一使えるのがケントで、そのケントが味方なんだからそれでいいじゃない。ねえ?」
フローリアとしては、それが婚姻関係を結ぶ十分な理由になればそれで良かったのだが、去り際にその話をしようとしたら、聞く耳すら持ってもらえなかったのだ。そのため父の態度には不満しかなかった。
「ほとぼりを冷ましてからじゃないと、話は進められそうにないな。無理押ししようとしたら、それこそ話が壊れかねん」
諦念混じりにケントは言った。
「むー」
フローリアはぷくっと頬を膨らませた。その仕草には可愛さしかなかったのだが、続いて飛び出した言葉は、あまりにも物騒なものだった。
「いっそのこと、ケントの魔法じゃなくちゃ解決できないようなことが起きないかしら。そうすれば、実績で黙らせることができるのに」
「あーー」
ケントの顔から血の気が引いた。
それは思っていても口に出してはいけない類いの言葉だ。
間違いなく、立ったな……
ケントには嫌な予感しか感じられなかった。
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