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66 魔法の有効利用

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「魔法はどこまで明かすの?」

 フローリアに訊かれて、ケントは唸り声をあげた。

「できれば秘密にしておきたいな」

「まあ、そうだよね」

「秘密にするの?」

「ああ。どんな反応されるかわからんからな。だから、他言無用で頼むぜ」

 ケントの言葉にアリサは黒い笑いを浮かべた。

「口止め料の代わりに色々手伝ってね」

「お、おう」

 何をさせられるのかと、ケントはちょっとだけ引いた。

「熱くすることはできるわけよね。逆に冷やしたりすることはできるの?」

「できる、と思う」

 答えを聞いたアリサの表情が崩れる。

「うふふ、とーっても面白いことになりそうね」

 アリサの笑顔はケントの心をざわつかせるものだった。

「ああ、何だかものすごい勢いでインスピレーションが湧いてくるわ。こうしちゃいられない。ちょっと失礼するわね」

 言い残してアリサは走っていってしまった。

「…アリサはどこまでもアリサね」

「だな」

「怖がるとは思ってなかったけど、利用方法を考えつくなんて、さすがに想定外だったわ」

「助かるけどな」

 ケントは肩をすくめて見せた。

「しかも、いいヒントをくれたしな」

「ヒント?」

 フローリアは小首を傾げた。

「ああ。これなら親父たちをうまく丸めこめるんじゃねえかな」



「おう、どえらいもんを手に入れたって言うじゃねえか。どんなもんだ?」

 皇帝に凄まれたケントは、持って来たものを二人の前に置いた。

「エール?」

 揃って訝しげな顔になる皇帝とダスティン王。

 それもそのはず。二人の前に置かれたのは何の変哲もないエールにしか見えなかったのだ。

「ワシはエールは好まん」

 皇帝は露骨に嫌な顔をする。

「騙されたと思って飲んでみてくださいーーお気に召さなかったら、フローリアとの結婚、白紙に戻します」

「ケント!?」

 そんな話は聞いていなかったフローリアの声が裏返った。

「もう撤回できんぞ」

 言いながら皇帝はグラスを掴んだ。あれやこれやと言う前にさっさと片を付けてしまおうという魂胆だ。

 がーー

「何じゃこりゃあ!?」

 一口飲んだところで皇帝は咆哮した。発せられた威圧感は、一瞬ケントを硬直させた。

「美味すぎる!」

 残りのエールを一息に飲み干した皇帝はケントを睨み付ける、

「これはエールじゃねえ!   何だ、これは!?」

「いえ、間違いなくエールですよ」

 ケントはしてやったりの笑顔を浮かべる。

「ただ冷やしただけです」

「冷やした?   言われてみれば確かに冷てえが、それだけで大して美味くもねえエールがこんなにも美味くなるもんなのか?」

「はい」

「なるほど。これは美味いなーーしかし、どうやって冷やしたんだ?   こんなにも暑い時期に」

 ダスティン王に訊かれて、ケントは小さく頷いた。

「魔法を使いました」

「「魔法?」」

「はい。実はーー」

 ケントはことのあらましを語った。

 二人とも余計な口は挟まず真剣な表情で聞き入っていたが、ケントの話が終わったところで、皇帝は物騒な笑みを浮かべた。



「実に興味深いなーーちょっとその場所へ案内してくれや」
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