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77 力の差
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退却を始めるのとほぼ同時、ドラゴンのものと思われる叫びが響いた。
思わず振り返ったケントとフローリアの視界に映ったのは、全身から血を噴き出しながら倒れるドラゴンの姿だった。
「「!!」」
相当の距離があった。だから気のせいだと言われればそうだったかもしれないが、ケントもフローリアもドラゴンと目が合ったと感じていた。
ドラゴンは助けを求めていた。少なくとも二人はそう受け取った。
「ケント!」
「おう!」
一瞬の意志疎通。
次の瞬間、二人は身を翻し、戦場に向けて駆け出していた。本能的な恐怖を上回る使命感に衝き動かされ、二人は駆けた。
「気づかなかったけど、あのドラゴンまだ子供だよね」
「多分な」
「あんな顔されたら、助けないわけにいかないわよね」
「そういうこと!」
認識を共通させて、二人はスピードアップする。
「先行する! 援護お願い」
「おう」
風魔法を使ってフローリアは加速していく。
ヴァンパイアがフローリアに向き直った瞬間、ケントは全力の火魔法をファイアボールとして放った。
牽制になればと放った火魔法だったが、ヴァンパイアにとってはまるっきり脅威にはならなかったようだ。めんどくさそうな右手の一振りで、ケントの魔法はきれいに霧消してしまう。
だが、それくらいでケントは気落ちしない。
「だろうと思ったよ!」
端っから一撃で通用するとは思っていなかったのだ。想定通りなのだから、気落ちするはずもない。
「これならどうだ!」
続いてケントが繰り出したのは、火魔法の連射。十を超える火球がヴァンパイアを襲う。一撃で駄目なら手数で勝負というわけだ。
「ウゥラララララララァーーーッ!」
無酸素運動の限界に挑戦する勢いでケントは火球を連射する。
「す、すごい……」
隙を衝いて攻撃しなければいけない立場のフローリアだったが、ケントの人間離れした魔法に度肝を抜かれ、呆然と立ち尽くしてしまう。
火球は狙い違わず全弾がヴァンパイアを直撃する。爆炎が上がり、一帯の視界が一時的に利かなくなる。
「どうだっ!」
手応えを感じたケントは吼えた。
これで駄目ならお手上げである。
ゆっくりと晴れていく煙の中に人形のシルエットが見えてきた。
「…嘘だろ……」
さすがに無傷ではないものの、致命的なダメージには程遠い様子である。
「どうすればいいのよ……」
フローリアの表情に絶望がよぎる。
「まだだ!」
ケントの声にはまだ張りがあった。サイクロプスロードと戦った時もそうだったが、この男は諦めるということを知らないのかとある意味感心してしまう。
「フローリア、風魔法を全力でぶっ放してくれ!」
「どうする気!?」
「そこに俺の火魔法を合わせる!」
「わかった!」
カウントダウンに合わせてそれぞれの魔法を全開で撃ち出す。
一人で撃ち出した時に比べて倍以上の規模のファイアトルネードがヴァンパイアを直撃した。
「これなら!」
しかし、確信しかけた勝利は、秒で覆された。炎が消えた後、ヴァンパイアはまだ両足で大地を踏みしめていた。先程よりダメージは大きそうだが、効いたとは思えなかった。
「マジかよ……」
さすがのケントも声のトーンが下がる。最大火力が直撃してこのダメージでは、勝ち筋がまったく見えなかった。
「ふはははははは」
ヴァンパイアが高笑いを響かせた。
「おもしろいな、人間。なかなかの威力だ。この時代にこれほどの使い手がいるとは思わなかったぞ」
言葉だけでなく、ヴァンパイアは本当に楽しそうだった。
「本物の魔法を見せてやろう」
そう言うと、ヴァンパイアは右の掌を上に向けた。掌から浮いたところに黒い玉が生まれ、徐々に大きさを増していく。
ヤバい。あれは絶対ヤバいやつだ。
ケントの理屈ではなく、本能が理解した。あれを食らったら、間違いなく命に関わる。
ヴァンパイアの掌から黒玉が放たれた。渦を巻くように回転しながら二人に向かって飛んできた。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
左右に飛んだ二人の真ん中で黒玉が炸裂した。二人共に軽々と吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「…ぐ、う……」
かろうじて意識は保ったケントだったが、受けたダメージはかなり深刻だった。
動くのを拒否しようとする身体に鞭打って、ケントはフローリアの姿を探した。
離れたところに倒れたフローリアはピクリとも動かない。気を失っているだけなのか、それとも最悪の事態になっているのか、ケントの位置からはわからなかった。
身を起こそうとしたケントの目に近づいて来るヴァンパイアが映る。
状況は絶望的だった。
思わず振り返ったケントとフローリアの視界に映ったのは、全身から血を噴き出しながら倒れるドラゴンの姿だった。
「「!!」」
相当の距離があった。だから気のせいだと言われればそうだったかもしれないが、ケントもフローリアもドラゴンと目が合ったと感じていた。
ドラゴンは助けを求めていた。少なくとも二人はそう受け取った。
「ケント!」
「おう!」
一瞬の意志疎通。
次の瞬間、二人は身を翻し、戦場に向けて駆け出していた。本能的な恐怖を上回る使命感に衝き動かされ、二人は駆けた。
「気づかなかったけど、あのドラゴンまだ子供だよね」
「多分な」
「あんな顔されたら、助けないわけにいかないわよね」
「そういうこと!」
認識を共通させて、二人はスピードアップする。
「先行する! 援護お願い」
「おう」
風魔法を使ってフローリアは加速していく。
ヴァンパイアがフローリアに向き直った瞬間、ケントは全力の火魔法をファイアボールとして放った。
牽制になればと放った火魔法だったが、ヴァンパイアにとってはまるっきり脅威にはならなかったようだ。めんどくさそうな右手の一振りで、ケントの魔法はきれいに霧消してしまう。
だが、それくらいでケントは気落ちしない。
「だろうと思ったよ!」
端っから一撃で通用するとは思っていなかったのだ。想定通りなのだから、気落ちするはずもない。
「これならどうだ!」
続いてケントが繰り出したのは、火魔法の連射。十を超える火球がヴァンパイアを襲う。一撃で駄目なら手数で勝負というわけだ。
「ウゥラララララララァーーーッ!」
無酸素運動の限界に挑戦する勢いでケントは火球を連射する。
「す、すごい……」
隙を衝いて攻撃しなければいけない立場のフローリアだったが、ケントの人間離れした魔法に度肝を抜かれ、呆然と立ち尽くしてしまう。
火球は狙い違わず全弾がヴァンパイアを直撃する。爆炎が上がり、一帯の視界が一時的に利かなくなる。
「どうだっ!」
手応えを感じたケントは吼えた。
これで駄目ならお手上げである。
ゆっくりと晴れていく煙の中に人形のシルエットが見えてきた。
「…嘘だろ……」
さすがに無傷ではないものの、致命的なダメージには程遠い様子である。
「どうすればいいのよ……」
フローリアの表情に絶望がよぎる。
「まだだ!」
ケントの声にはまだ張りがあった。サイクロプスロードと戦った時もそうだったが、この男は諦めるということを知らないのかとある意味感心してしまう。
「フローリア、風魔法を全力でぶっ放してくれ!」
「どうする気!?」
「そこに俺の火魔法を合わせる!」
「わかった!」
カウントダウンに合わせてそれぞれの魔法を全開で撃ち出す。
一人で撃ち出した時に比べて倍以上の規模のファイアトルネードがヴァンパイアを直撃した。
「これなら!」
しかし、確信しかけた勝利は、秒で覆された。炎が消えた後、ヴァンパイアはまだ両足で大地を踏みしめていた。先程よりダメージは大きそうだが、効いたとは思えなかった。
「マジかよ……」
さすがのケントも声のトーンが下がる。最大火力が直撃してこのダメージでは、勝ち筋がまったく見えなかった。
「ふはははははは」
ヴァンパイアが高笑いを響かせた。
「おもしろいな、人間。なかなかの威力だ。この時代にこれほどの使い手がいるとは思わなかったぞ」
言葉だけでなく、ヴァンパイアは本当に楽しそうだった。
「本物の魔法を見せてやろう」
そう言うと、ヴァンパイアは右の掌を上に向けた。掌から浮いたところに黒い玉が生まれ、徐々に大きさを増していく。
ヤバい。あれは絶対ヤバいやつだ。
ケントの理屈ではなく、本能が理解した。あれを食らったら、間違いなく命に関わる。
ヴァンパイアの掌から黒玉が放たれた。渦を巻くように回転しながら二人に向かって飛んできた。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
左右に飛んだ二人の真ん中で黒玉が炸裂した。二人共に軽々と吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「…ぐ、う……」
かろうじて意識は保ったケントだったが、受けたダメージはかなり深刻だった。
動くのを拒否しようとする身体に鞭打って、ケントはフローリアの姿を探した。
離れたところに倒れたフローリアはピクリとも動かない。気を失っているだけなのか、それとも最悪の事態になっているのか、ケントの位置からはわからなかった。
身を起こそうとしたケントの目に近づいて来るヴァンパイアが映る。
状況は絶望的だった。
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