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82 親ドラゴン
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「ミギャア!」
「どわっ!?」
「きゃあっ!」
主に子ドラゴンの体重を受け止める形になったケントは悲鳴をあげた。子供とは言え、軽く百キロはくだらないであろうドラゴンのボディプレスは、ただでさえダメージ深いケントにはかなりの拷問となった。
ケントの様子など知らぬ気に、子ドラゴンははしゃいで二人にじゃれつく。
「ぐう……」
「ちょ、ちょっと、くすぐったいーー」
ケントがのびる一方で、顔を舐められたフローリアの声が裏返る。
それからしばらく、二人はテンションアゲアゲの子ドラゴンに弄ばれるのであった。
「そうだよな。おまえがいなきゃ勝てなかったよな」
「ミギャア!」
多分ドヤ顔してるんだろうな、とケントは思った。
「とりあえず良かったな、縄張り守れて」
「ミギャア」
礼を言われたように感じてケントは顔をほころばせた。言葉は通じていないはずなのに言っていることがわかるのが不思議だった。
「でもまあ、あの極限状態で意思疎通ができたんだ。これくらいはできて当たり前なのかもな」
「ミギャア」
頷く仕草に人間っぽさを感じて、ケントは嬉しくなる。種族の壁を越えて友達になれそうだと思ったのだ。
「なあ、おまえ、名前は何ていうんだ?」
さすがにこれには答えは返ってこないだろうと思いつつ、ケントは訊いた。
ところがーー
「その子の名前はゼロだ」
突然上空から声が降ってきた。
「「えーー」」
ケント、フローリアともに絶句する。
圧倒的な存在感を放つ、あらゆる生物の頂点に君臨する王者ーードラゴンがそこにいた。
子ドラゴンーーゼロが懐いているところを見ても、この二頭が親子であることは間違いなさそうだとケントは判断した。
そこまではいい。あまり良くはないのかもしれないが、だからと言って何ができるわけでもない。
問題は親ドラゴンが現れた理由である。もしもこのドラゴンが人類に牙を剥いたらーー
勝てるわけねえよ……
多分勝負にすらならない。
ヴァンパイアと対峙した時もケントは恐怖に震えたが、それとは比較にならないプレッシャーを感じていた。
今は穏やかにしているが、いつそれが裏返るかはわからない。そして、裏返ったその時が人類滅亡の刻になるだろう。
「ケント……」
ケントの袖を掴んでいるフローリアもドラゴンの強さを感じ取っている。何か下手なことをしてドラゴンを怒らせることのないように息をひそめて相手の出方を伺っていた。
子ドラゴンとの戯れが一段落したのか、親ドラゴンが二人に顔を向けた。
ビクン、と二人の背筋が伸びる。
「そう緊張することはない。誰もおぬしらを取って食おうとは思っておらぬ」
言葉とともに苦笑する雰囲気が伝わってきて、二人はひとまず胸を撫で下ろした。
「で、ではなぜこんなところにーー」
ケントは最大の疑問を率直に口にした。
「ゼロが暴走したので追いかけてきたのだ。あのヴァンパイア、あれで古代種の一体だからな。まだこいつでは歯が立たん」
「古代種……」
やっぱやべーヤツだったんだ、とケントは今更ながらに冷や汗を流した。
「間に合わんかとも思ったのだが、まったくもって予想外の展開になっておるではないか。おぬし、ヒトとしては随分面白い存在だな」
「そ、そうですか」
自覚はあったが、胸を張るのも何か違う気がして、ケントは乾いた笑みを見せた。
「我としてはおぬしに興味が湧いたわけだ。そこでーー」
ドラゴンは一旦言葉を切って、のぞきこむようにケントと視線を合わせた。
「おぬし、我の加護を受けぬか?」
「どわっ!?」
「きゃあっ!」
主に子ドラゴンの体重を受け止める形になったケントは悲鳴をあげた。子供とは言え、軽く百キロはくだらないであろうドラゴンのボディプレスは、ただでさえダメージ深いケントにはかなりの拷問となった。
ケントの様子など知らぬ気に、子ドラゴンははしゃいで二人にじゃれつく。
「ぐう……」
「ちょ、ちょっと、くすぐったいーー」
ケントがのびる一方で、顔を舐められたフローリアの声が裏返る。
それからしばらく、二人はテンションアゲアゲの子ドラゴンに弄ばれるのであった。
「そうだよな。おまえがいなきゃ勝てなかったよな」
「ミギャア!」
多分ドヤ顔してるんだろうな、とケントは思った。
「とりあえず良かったな、縄張り守れて」
「ミギャア」
礼を言われたように感じてケントは顔をほころばせた。言葉は通じていないはずなのに言っていることがわかるのが不思議だった。
「でもまあ、あの極限状態で意思疎通ができたんだ。これくらいはできて当たり前なのかもな」
「ミギャア」
頷く仕草に人間っぽさを感じて、ケントは嬉しくなる。種族の壁を越えて友達になれそうだと思ったのだ。
「なあ、おまえ、名前は何ていうんだ?」
さすがにこれには答えは返ってこないだろうと思いつつ、ケントは訊いた。
ところがーー
「その子の名前はゼロだ」
突然上空から声が降ってきた。
「「えーー」」
ケント、フローリアともに絶句する。
圧倒的な存在感を放つ、あらゆる生物の頂点に君臨する王者ーードラゴンがそこにいた。
子ドラゴンーーゼロが懐いているところを見ても、この二頭が親子であることは間違いなさそうだとケントは判断した。
そこまではいい。あまり良くはないのかもしれないが、だからと言って何ができるわけでもない。
問題は親ドラゴンが現れた理由である。もしもこのドラゴンが人類に牙を剥いたらーー
勝てるわけねえよ……
多分勝負にすらならない。
ヴァンパイアと対峙した時もケントは恐怖に震えたが、それとは比較にならないプレッシャーを感じていた。
今は穏やかにしているが、いつそれが裏返るかはわからない。そして、裏返ったその時が人類滅亡の刻になるだろう。
「ケント……」
ケントの袖を掴んでいるフローリアもドラゴンの強さを感じ取っている。何か下手なことをしてドラゴンを怒らせることのないように息をひそめて相手の出方を伺っていた。
子ドラゴンとの戯れが一段落したのか、親ドラゴンが二人に顔を向けた。
ビクン、と二人の背筋が伸びる。
「そう緊張することはない。誰もおぬしらを取って食おうとは思っておらぬ」
言葉とともに苦笑する雰囲気が伝わってきて、二人はひとまず胸を撫で下ろした。
「で、ではなぜこんなところにーー」
ケントは最大の疑問を率直に口にした。
「ゼロが暴走したので追いかけてきたのだ。あのヴァンパイア、あれで古代種の一体だからな。まだこいつでは歯が立たん」
「古代種……」
やっぱやべーヤツだったんだ、とケントは今更ながらに冷や汗を流した。
「間に合わんかとも思ったのだが、まったくもって予想外の展開になっておるではないか。おぬし、ヒトとしては随分面白い存在だな」
「そ、そうですか」
自覚はあったが、胸を張るのも何か違う気がして、ケントは乾いた笑みを見せた。
「我としてはおぬしに興味が湧いたわけだ。そこでーー」
ドラゴンは一旦言葉を切って、のぞきこむようにケントと視線を合わせた。
「おぬし、我の加護を受けぬか?」
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