婚約破棄 ~ガチでやられると結構キツい~

オフィス景

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11 手紙

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 来客に備えて諸々の準備を進めているケントは、久しぶりにリラックスした表情をしていた。

「ここのところずっとバタバタしてたもんな」

 婚約破棄以来、毎日が慌ただしすぎた。国の運営というのがこれほどのものだとは、まさに見るとやるとじゃ大違いといったところである。

 それでも性に合っていたのだろう。大変は大変だったが、それを楽しんでいる自分がいることにケントは気づいていた。

 転生者であるケントには、異世界の記憶、知識がある。それを活用して皆の生活を楽にしたり、食べ物を美味しくしたりするのは、とても楽しかった。恩恵を受けた人たちが喜ぶ顔を見るのが好きだった。

 やり甲斐を感じながら充実した毎日を過ごしていたが、ケントの心身とも休息を欲していたらしい。休むと決めたら、どっと疲れを感じていた。

 それでも友人たちとの再会は楽しみで、大変な準備も苦にはならなかった。

 疲れたのは、というかケントの心身にダメージを与えたのは、一通の手紙だった。

「…アルミナ……?」

 婚約破棄以来音信不通だったアルミナがケントに宛てた手紙を送って来たのだった。

「何だよ今更……」

 読みたくなどなかった。そのままゴミ箱へ直行させたかった。何なら燃やしてしまってもよかった。

 だが、ケントは期待してしまったのだ。

 一方的で理不尽極まりなかった婚約破棄。到底納得などできなかったそれに対する謝罪が綴られているのではないかと。

 元サヤに戻りたいとはケントは思っていない。ただ、なかなか消えずに抱えている割り切れない思いをどうにかしたいと思っているだけだ。

 一言謝罪があれば、気持ちの整理もできるはずーーケントはそう考えていたのだ。

 ゆっくりと封を切り、手紙を読み始める。





親愛なるケントへ



 元気かな?

 わたしは元気だよ。

 あなたがわたしとの婚約を破棄してからもう半年になるね。すごく長く感じるような、あっという間だったような不思議な感じがするね。

 不思議と言えば、一番不思議なのは、隣にいるのがあたりまえだったあなたがいないこと、かな。

 わたしたち、どうしてこうなっちゃったんだろう。

 あんなに愛し合っていたのにね。

 わたしは、悪いのはケントだと思う。

 あなたの気持ちをちょっと試してみただけだったのに。

 あたりまえだけど、あんなの本気じゃなかったよ。

 ケントがあの場で引き留めてくれればよかったんだよ。

 それだけでよかったのに、ケントは何も言ってくれなかった。

 あれくらいのことで、あんなに怒るなんてどうかしてると思う。器の小さい人は嫌いだよ。

 でも、もういいの。

 ケントの本当の気持ちはわかったから。

 聞いたわ。帝国に乗り込んだ話。乗り込んで、皇女将軍相手に渡り合って、ラスティーンへの侵攻を止めてくれたって。

 あれって、わたしのためにしてくれたことなんだよね。

 素直に謝れないから行動で示したってことなんでしょ。

 うん。ちゃんと伝わったよ。

 だから、許してあげる。

 許してあげるから、戻っておいで。

 待ってるね。



                                       あなたのアルミナより





 ナニコレ…キモチワルイ……

 真剣に吐き気を覚えて、ケントは胸をさすった。

「…これ、どこまで本気なんだ……?」

 嫌がらせとしてはかなりレベルが高い。現にケントは大きなダメージを受けている。

 ただ、文面からは本気の臭いがぷんぷん漂ってくる。

 これを本気で言っているのだとすればーー

 怖い。

 ただただ怖い。

「…一から十まで俺が悪いことになってるよな」

 事実がかなり歪にねじ曲げられているが、意図的なものなのか、それとも天然なものなのか、にわかには判断ができなかった。

 それでも、ひとつだけはっきりわかったことがある。

「…駄目だろ、これは」

 もうアルミナが同じ人間だとは思えなかった。言葉が通じる相手ではなくなっているようだ。

「薄々わかってはいたつもりだったけど、ここまでとは……」

 勘違い、無責任、自己中。このあたりがアルミナの精神を構成しているようだが、正直まともに相手にできない、というか、相手にしてはいけないということがわかってきた。

 この本性を知らぬまま結婚してしまっていたらーー

 本気で背筋が寒くなる。

 手遅れになる前にアルミナが自爆してくれたのって、俺にとってはラッキーだったってことか。

 そう結論付けて、ケントは苦笑いしつつ胸を撫で下ろした。

 これ以上アルミナに惑わされることはない。二度と交わることはないだろう。

 思い定めることができたケントの顔は、それなりに晴れやかなものだった。
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