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12 決意表明
久しぶりに会う元クラスメイトは、なぜだかとても眩しく見えた。馬車から降りたアリサは、迎えに来てくれていたケントを見て、目を瞬かせた。
「よく来たな。歓迎するぜ」
「おう、世話になるぜ」
アリサの後から降りてきたティエリーが歩み寄り、ケントと握手を交わす。
「…ずいぶん変わったか?」
「ん? そうか?」
「ああ。かなり逞しくなった気がする」
「うん。すごく男っぽくなった感じがする」
ナスチャにまで言われて、ケントは困ったように首を傾げた。
「自分としては何も変わってないと思うんだが……」
「そんなことないって。あれ見てごらんよ」
ナスチャが指差したのは馬車から降りたところで固まっているアリサだった。
一目ではっきりわかるほどうっとりした顔でケントを見つめている。視線に熱があったら間違いなく火傷する熱さだ。
「ケントのことを誰より知ってるはずのアリサが見とれちゃうくらいだからね。大分いい方向へ進化してると思うわよ」
「むむう……」
ケントは困惑顔で唸った。
「何よ、嬉しくないの?」
「そういうわけじゃないんだが……」
成長を認めてもらえるのは嬉しいが、それに付随する諸々が重すぎるというのがケントの本音だった。
「まあここで立ち話してるのも何だから、中に入ってくれ」
そう言って、ケントは友人たちを迎え入れた。
「んー、美味しい!」
ほっぺたを押さえたアリサが歓声をあげた。
夕食の席。友人たちのリクエストにより、豚肉のショウガ焼き、魚の煮付けなど、ショーユ味の献立プラスミソ汁が食卓に並んだ。
「これよ。この味なのよ」
味つけにショーユとミソをふんだんに使った料理はアリサが夢にまで見たものであり、普段にも増した健啖家ぶりを発揮していた。
「相変わらずアリサは美味そうに食うなあ」
「だって、ずっと食べたかったんだもん……ダメ?」
「ダメなわけねえじゃん。ダイエットだ何だと騒いでるよりずっといいよーー少なくとも俺はアリサの美味そうに食ってる姿は好きだぞ」
ケントの言葉に、アリサは激しくむせた。
「だ、大丈夫か!?」
「そ、そんな…わたしのこと好きだなんて……」
身をくねらせてアリサは舞い上がる。
「ちょ、ちょっと待て。それは言葉をかいつまみすぎじゃないか?」
そういうつもりはまったくなかったケントは思いっきり狼狽した。
「えー、わたしのこと、嫌い?」
「うお、そう来たか……」
ケントは言葉に詰まってしまう。
いつになく積極的なアリサにたじたじにされてしまったケントは助けを求めたが、ナスチャもティエリーも目を合わせようとしない。
薄情者め……
好きか嫌いかで訊かれれば、もちろん好きだ。だが、それはアリサが求める「好き」とは違うことくらいはケントにもわかる。
「…んーと、上手く伝えられるかわかんねえけど、とりあえず聞いてくれるか?」
ケントの真剣な表情に、アリサも居住まいを正した。
「アリサの気持ちはすげえ嬉しい。ありがとう。でも、今その気持ちに応えることはできない。ごめん」
「!」
絶句したアリサに代わって、ナスチャが口を開く。
「ケント、今はって言ったけど?」
「情けねえ話だけど、まだ怖いんだよ。次に同じことがあったら、多分立ち直れない」
「わたし、そんなこと絶対しないよ!」
「うん。そうだろうなーー俺も頭ではわかってるんだけどさ、気持ちがついてこないんだよ。我ながら女々しいとは思うんだけど、ダメなんだ」
「……」
「だから、今は誰ともつきあおうって思えないんだ」
「フローリア姫は?」
「何でここでフローリアの名前が出てくる?」
ケントの眉間に皺が寄る。
「すごく仲良くなったって聞いたから。もしかしたら婚約するかもしれないって……」
「そういうのって、流れちゃマズい情報じゃないのか? 駄々漏れじゃんか」
ケントは頭痛を感じた。これでいいのか、この国の情報セキュリティ……
「じゃあ婚約したって本当なの?」
「してない。デマ」
即答だったので、アリサはほっと息をついた。
「させたい動きはあるみたいだけどな。ちゃんと断ったよ」
「……」
よかったと思う一方で、ケントの傷はそこまで深いのかということに思い至ってしまい、アリサは複雑な表情を見せた。
しばらく唇を噛み締めていたと思ったら、アリサはいきなり自分の頭にゲンコツを落とした。
「アリサ!?」
「…ごめん、ケント。焦っちゃった」
「こっちこそごめん。ややこしいことになっちまってて」
「ケントが悪いんじゃないじゃん」
「でも、先のこと何の約束もできないんだぜ」
最悪、ずっと婚約恐怖症のままかもしれないのだ。
「大丈夫。そこは自分で何とかするから」
何とも男前な台詞を言ってのけたアリサは、実に爽やかな笑顔になった。
「負けないから。フローリア姫にもーーアルミナの呪いにも」
「よく来たな。歓迎するぜ」
「おう、世話になるぜ」
アリサの後から降りてきたティエリーが歩み寄り、ケントと握手を交わす。
「…ずいぶん変わったか?」
「ん? そうか?」
「ああ。かなり逞しくなった気がする」
「うん。すごく男っぽくなった感じがする」
ナスチャにまで言われて、ケントは困ったように首を傾げた。
「自分としては何も変わってないと思うんだが……」
「そんなことないって。あれ見てごらんよ」
ナスチャが指差したのは馬車から降りたところで固まっているアリサだった。
一目ではっきりわかるほどうっとりした顔でケントを見つめている。視線に熱があったら間違いなく火傷する熱さだ。
「ケントのことを誰より知ってるはずのアリサが見とれちゃうくらいだからね。大分いい方向へ進化してると思うわよ」
「むむう……」
ケントは困惑顔で唸った。
「何よ、嬉しくないの?」
「そういうわけじゃないんだが……」
成長を認めてもらえるのは嬉しいが、それに付随する諸々が重すぎるというのがケントの本音だった。
「まあここで立ち話してるのも何だから、中に入ってくれ」
そう言って、ケントは友人たちを迎え入れた。
「んー、美味しい!」
ほっぺたを押さえたアリサが歓声をあげた。
夕食の席。友人たちのリクエストにより、豚肉のショウガ焼き、魚の煮付けなど、ショーユ味の献立プラスミソ汁が食卓に並んだ。
「これよ。この味なのよ」
味つけにショーユとミソをふんだんに使った料理はアリサが夢にまで見たものであり、普段にも増した健啖家ぶりを発揮していた。
「相変わらずアリサは美味そうに食うなあ」
「だって、ずっと食べたかったんだもん……ダメ?」
「ダメなわけねえじゃん。ダイエットだ何だと騒いでるよりずっといいよーー少なくとも俺はアリサの美味そうに食ってる姿は好きだぞ」
ケントの言葉に、アリサは激しくむせた。
「だ、大丈夫か!?」
「そ、そんな…わたしのこと好きだなんて……」
身をくねらせてアリサは舞い上がる。
「ちょ、ちょっと待て。それは言葉をかいつまみすぎじゃないか?」
そういうつもりはまったくなかったケントは思いっきり狼狽した。
「えー、わたしのこと、嫌い?」
「うお、そう来たか……」
ケントは言葉に詰まってしまう。
いつになく積極的なアリサにたじたじにされてしまったケントは助けを求めたが、ナスチャもティエリーも目を合わせようとしない。
薄情者め……
好きか嫌いかで訊かれれば、もちろん好きだ。だが、それはアリサが求める「好き」とは違うことくらいはケントにもわかる。
「…んーと、上手く伝えられるかわかんねえけど、とりあえず聞いてくれるか?」
ケントの真剣な表情に、アリサも居住まいを正した。
「アリサの気持ちはすげえ嬉しい。ありがとう。でも、今その気持ちに応えることはできない。ごめん」
「!」
絶句したアリサに代わって、ナスチャが口を開く。
「ケント、今はって言ったけど?」
「情けねえ話だけど、まだ怖いんだよ。次に同じことがあったら、多分立ち直れない」
「わたし、そんなこと絶対しないよ!」
「うん。そうだろうなーー俺も頭ではわかってるんだけどさ、気持ちがついてこないんだよ。我ながら女々しいとは思うんだけど、ダメなんだ」
「……」
「だから、今は誰ともつきあおうって思えないんだ」
「フローリア姫は?」
「何でここでフローリアの名前が出てくる?」
ケントの眉間に皺が寄る。
「すごく仲良くなったって聞いたから。もしかしたら婚約するかもしれないって……」
「そういうのって、流れちゃマズい情報じゃないのか? 駄々漏れじゃんか」
ケントは頭痛を感じた。これでいいのか、この国の情報セキュリティ……
「じゃあ婚約したって本当なの?」
「してない。デマ」
即答だったので、アリサはほっと息をついた。
「させたい動きはあるみたいだけどな。ちゃんと断ったよ」
「……」
よかったと思う一方で、ケントの傷はそこまで深いのかということに思い至ってしまい、アリサは複雑な表情を見せた。
しばらく唇を噛み締めていたと思ったら、アリサはいきなり自分の頭にゲンコツを落とした。
「アリサ!?」
「…ごめん、ケント。焦っちゃった」
「こっちこそごめん。ややこしいことになっちまってて」
「ケントが悪いんじゃないじゃん」
「でも、先のこと何の約束もできないんだぜ」
最悪、ずっと婚約恐怖症のままかもしれないのだ。
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「負けないから。フローリア姫にもーーアルミナの呪いにも」
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