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44 絶望

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 ヒステリックな叫びを上げたアルミナに衆目が集まる。

「まだいたの?」

「もう用はないでしょ。早く帰ったら?」

「キイーッ!」

 アルミナはお手本のような見事な地団駄を踏んだ。

「勝手に話を進めてるんじゃないわよ!」

「「あんたの許可なんて必要ないじゃない」」

 息ぴったりの二人である。

「この場で自分が邪魔者だってまだわからないの?   早く消えて欲しいんだけど」

「何言ってるのよ。横槍を入れてきたのはあんたたちでしょ。そっちが消えなさいよ」

 フローリアとアリサは顔を見合わせて、やれやれと肩をすくめた。完全にアルミナを小馬鹿にした態度だ。

「頭だけじゃなくて目もおかしいの?   ケントは今わたしたちのプロポーズを受けてくれたのよ」

「もう一度言うわよ。あんたの出る幕はないの。現実を見なさいよ」

「何よ、そんなのーーケント、こんなの放っといてあたしと結婚しなさいよ」

「「「……」」」

 開いた口がふさがらないとはこのことだ。当事者の三人だけでなく、居合わせたすべての人が言葉を失った。

 ややあって、ケントは自分を落ち着かせるように大きく息をついた。

 そして、言う。



「断る」



 至極当然の答え。むしろ、これ以外の答えだったら総ツッコミが入るところだ。正しい答えに誰もが頷き、納得する。

 ただ一人を除いて。

「何でよっ!?」

「いやいや、何で俺が承知するって思えるんだよ……?」

 ある意味メンタルが強いと言えるのだろうか。ケントはため息をついた。

「あたしたち、婚約者だったでしょ」

「ああ、そうだな」

 ケントの頷きに、アルミナの顔が喜色で紅潮する。

「それならーー」

「今おまえが言った通りだよ。婚約者『だった』んだ。過去の話だ。今は違う」

「…まだ、怒ってるの……?」

「怒ってないよ」

 ケントは感情のこもらない口調で言った。

「これは俺の正直な気持ちだ」

 そう前置きしてから、ケントは辛辣な一言を口にする。



「アルミナのことは何とも思ってないーーどうでもいいんだ」



「!?」

 アルミナは息を呑んだ。

 これ以上ない拒絶を突きつけられて、さしものアルミナも絶句した。

 怒ってもらえた方が遥かにマシだった。

 怒るにしろ嫌うにしろ、相手に対する感情があっての話である。それがまったくないと否定されれば、それこそとりつく島すらないということになる。

「おまえがこのまま落ちぶれようが、俺じゃない誰かと幸せになろうが、心底どうでもいい。一欠片の興味もない」

「……」

 アルミナにとっては初めて見るケントの一面だった。

 ケントは常に優しく、自分のワガママを受け止めてくれた。自分がどんなにオイタをしても、最後には許して包み込んでくれた。

 だから、今回も元サヤに戻れると、何の根拠もなく信じていたのだ。

 しかし、そうではなかった。

 ケントは本気で自分から離れていこうとしている。

 否、既に離れていってしまったのだ。

 ようやくそれを理解したアルミナは、人生で初めて絶望を知った。

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