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第3話:村が生まれ変わる日
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俺とセレスティーナの奇妙な協力関係が始まってから、村は静かに、だが確実に変わり始めた。
まず、セレスティーナは領主として、村人全員を広場に集めた。最初、村人たちの反応は冷ややかだった。「どうせまた重税の話だろう」「貴族様が俺たちのことなんか考えるもんか」。そんな不信感が、広場の空気を重く支配していた。
そんな中、セレスティーナは毅然として口を開いた。
「私は、この土地を豊かにしたい。皆が腹いっぱい食べられる村にしたいのです。そのために、このアキトの知恵を借り、村全体の畑を改革します」
彼女は、俺のことを「古の農法に詳しい、特別な知識を持つ少年」として紹介した。もちろん、スキルについては伏せてある。
村人たちは半信半疑だった。特に、年配の農夫たちは「子供の言うことなど」「そんな方法があるなら、とっくにやっている」と鼻で笑う者もいた。
その空気を変えたのは、俺の家の畑から収穫された、山のような野菜だった。
「まずは、これを食べてみてください」
セレスティーナの言葉で、村の女性たちが作った温かいスープが皆に配られた。極上の野菜がたっぷり入ったスープは、村人たちがこれまで口にしたことのないほど、深く、優しい味がした。
「うめぇ……」「なんだこの甘さは……」
あちこちから驚きの声が上がる。空腹だった子供たちが、夢中でスープを頬張っている。その光景が、頑なだった村人たちの心を少しずつ溶かしていった。
「これは、アキト君が育てた野菜です。彼の言う通りにすれば、皆さんの畑でも、これが採れるようになります」
セレスティーナの言葉には、不思議な説得力があった。彼女の真摯な瞳と、目の前にある「証拠」が、村人たちの心を動かしたのだ。
翌日から、村を挙げた大改革が始まった。
指揮を執るのはセレスティーナだ。彼女は驚くほど有能だった。まず、村全体の畑を区画整理し、どこから手をつけるべきか、効率的な計画を立てた。そして、村人たちをいくつかのグループに分け、それぞれの役割を的確に指示した。そのリーダーシップは、とても追放された令嬢とは思えないほど堂々としていた。
俺の役目は、もちろん土壌改良だ。
村人たちがセレスティーナの指示で畑の石を取り除き、畝を作っていく。そして、俺がその畑に入り、皆が見ていない夜中や早朝に、こっそりと【神の農地】のスキルを使って土を生まれ変わらせていく。
「アキト様が土に祈りを捧げると、大地が元気になるそうだ」
「夜の間に、土の精霊が畑を祝福してくださるらしい」
村人たちは、俺が何をしているのか正確には知らない。しかし、昨日まで石ころだらけだった自分たちの畑が、翌朝にはふかふかの黒土に変わっているという奇跡を目の当たりにするうち、自然とそんな噂を信じるようになっていた。
そして、その奇跡を起こすきっかけを作ったセレスティーナのことも、「幸運を運ぶ乙女」と呼び、敬意を払うようになっていった。
俺は土壌改良だけでなく、前世の知識もフル活用した。
水路の設計図を描き、村人たちに効率的な水の引き方を教えた。野菜の種類ごとに最適な畝の幅や株の間隔を指導し、作物の成長を促すための簡単な剪定方法も伝えた。
最初は「子供の戯言」と半信半疑だった村人たちも、俺の言う通りにすると作物が目に見えて元気に育っていくため、次第に「先生」と呼んで慕ってくれるようになった。
そして、最初の収穫期が訪れた。
その光景は、圧巻の一言だった。村中の畑が、見たこともないほどの大きさ、色艶の作物で埋め尽くされていたのだ。村が始まって以来、いや、この国の誰もが見たことのない大豊作だった。
収穫祭の日、村人たちは抱えきれないほどの野菜や麦を前に、ただただ泣いていた。生まれて初めて知る「満腹」という感覚。食糧の心配をしなくていいという安堵。その喜びが、歓喜の涙となって溢れ出していた。
広場の中心では、村人たちの輪の中で、セレスティーナが微笑んでいた。その笑顔は、追放されてきた頃の影を微塵も感じさせない、心からのものだった。俺は、その笑顔を見て、このために頑張ってきたんだと、胸が熱くなった。
そんな平和な村に、招かれざる客がやってきた。
豊作の噂を聞きつけた、隣町を拠点とする悪徳商人、ボルダだ。彼は安い金で村の作物を買い叩き、王都で高く売りさばいて儲けようと企んでいた。
「こんな辺境の村には、破格の値段だろう?有り難く俺様に売るんだな」
ボルダは、金に物を言わせて尊大な態度で交渉を進めようとした。村人たちも、初めて見る大金に目がくらみ、彼の言い値で売ってしまいそうになる。
その時、ボルダの前に静かに立ちはだかったのがセレスティーナだった。
「その値段は、市場価格の十分の一以下。無知な田舎者と侮るのも大概になさい」
彼女は、公爵令嬢として受けてきた教育で、経済や法律にも精通していた。彼女はボルダが提示した契約書の不備や、違法な取引項目を次々と指摘していく。
「それに、あなた。去年、隣村で粗悪な種を売りつけ、多額の賠償請求をされているはず。そのような曰く付きの商人と、我々が取引するとお思いで?」
セレスティーナの理路整然とした追及に、ボルダは顔面蒼白になる。彼の不正は、完全に暴かれていた。
「お、覚えてやがれ!」
捨て台詞を残して逃げるように去っていくボルダの背中に、村人たちは喝采を送った。
この一件で、村人たちのセレスティーナへの信頼は、確固たるものとなった。彼女は、ただ幸運を運ぶだけの乙女ではない。自分たちを守り、導いてくれる、賢く、強い領主なのだと。
食糧の不安から解放された村は、日に日に活気を取り戻していった。人々の顔には笑顔が戻り、子供たちの元気な声が響き渡る。
セレスティーナは、領主としての自信と誇りを完全に取り戻していた。夜、領主の館で、俺たちはこれからのことについて語り合った。
「アキト、次は、この村の特産品を作りましょう。長期保存できる加工品があれば、冬の間も安心だし、交易品としても価値が出るわ」
地図を広げ、未来を語る彼女の紫色の瞳は、星のようにきらきらと輝いていた。
俺と彼女の間には、いつしか領主と村人という関係を超えた、確かな絆が芽生え始めていた。
辺境の村の再生は、まだ始まったばかりだ。
まず、セレスティーナは領主として、村人全員を広場に集めた。最初、村人たちの反応は冷ややかだった。「どうせまた重税の話だろう」「貴族様が俺たちのことなんか考えるもんか」。そんな不信感が、広場の空気を重く支配していた。
そんな中、セレスティーナは毅然として口を開いた。
「私は、この土地を豊かにしたい。皆が腹いっぱい食べられる村にしたいのです。そのために、このアキトの知恵を借り、村全体の畑を改革します」
彼女は、俺のことを「古の農法に詳しい、特別な知識を持つ少年」として紹介した。もちろん、スキルについては伏せてある。
村人たちは半信半疑だった。特に、年配の農夫たちは「子供の言うことなど」「そんな方法があるなら、とっくにやっている」と鼻で笑う者もいた。
その空気を変えたのは、俺の家の畑から収穫された、山のような野菜だった。
「まずは、これを食べてみてください」
セレスティーナの言葉で、村の女性たちが作った温かいスープが皆に配られた。極上の野菜がたっぷり入ったスープは、村人たちがこれまで口にしたことのないほど、深く、優しい味がした。
「うめぇ……」「なんだこの甘さは……」
あちこちから驚きの声が上がる。空腹だった子供たちが、夢中でスープを頬張っている。その光景が、頑なだった村人たちの心を少しずつ溶かしていった。
「これは、アキト君が育てた野菜です。彼の言う通りにすれば、皆さんの畑でも、これが採れるようになります」
セレスティーナの言葉には、不思議な説得力があった。彼女の真摯な瞳と、目の前にある「証拠」が、村人たちの心を動かしたのだ。
翌日から、村を挙げた大改革が始まった。
指揮を執るのはセレスティーナだ。彼女は驚くほど有能だった。まず、村全体の畑を区画整理し、どこから手をつけるべきか、効率的な計画を立てた。そして、村人たちをいくつかのグループに分け、それぞれの役割を的確に指示した。そのリーダーシップは、とても追放された令嬢とは思えないほど堂々としていた。
俺の役目は、もちろん土壌改良だ。
村人たちがセレスティーナの指示で畑の石を取り除き、畝を作っていく。そして、俺がその畑に入り、皆が見ていない夜中や早朝に、こっそりと【神の農地】のスキルを使って土を生まれ変わらせていく。
「アキト様が土に祈りを捧げると、大地が元気になるそうだ」
「夜の間に、土の精霊が畑を祝福してくださるらしい」
村人たちは、俺が何をしているのか正確には知らない。しかし、昨日まで石ころだらけだった自分たちの畑が、翌朝にはふかふかの黒土に変わっているという奇跡を目の当たりにするうち、自然とそんな噂を信じるようになっていた。
そして、その奇跡を起こすきっかけを作ったセレスティーナのことも、「幸運を運ぶ乙女」と呼び、敬意を払うようになっていった。
俺は土壌改良だけでなく、前世の知識もフル活用した。
水路の設計図を描き、村人たちに効率的な水の引き方を教えた。野菜の種類ごとに最適な畝の幅や株の間隔を指導し、作物の成長を促すための簡単な剪定方法も伝えた。
最初は「子供の戯言」と半信半疑だった村人たちも、俺の言う通りにすると作物が目に見えて元気に育っていくため、次第に「先生」と呼んで慕ってくれるようになった。
そして、最初の収穫期が訪れた。
その光景は、圧巻の一言だった。村中の畑が、見たこともないほどの大きさ、色艶の作物で埋め尽くされていたのだ。村が始まって以来、いや、この国の誰もが見たことのない大豊作だった。
収穫祭の日、村人たちは抱えきれないほどの野菜や麦を前に、ただただ泣いていた。生まれて初めて知る「満腹」という感覚。食糧の心配をしなくていいという安堵。その喜びが、歓喜の涙となって溢れ出していた。
広場の中心では、村人たちの輪の中で、セレスティーナが微笑んでいた。その笑顔は、追放されてきた頃の影を微塵も感じさせない、心からのものだった。俺は、その笑顔を見て、このために頑張ってきたんだと、胸が熱くなった。
そんな平和な村に、招かれざる客がやってきた。
豊作の噂を聞きつけた、隣町を拠点とする悪徳商人、ボルダだ。彼は安い金で村の作物を買い叩き、王都で高く売りさばいて儲けようと企んでいた。
「こんな辺境の村には、破格の値段だろう?有り難く俺様に売るんだな」
ボルダは、金に物を言わせて尊大な態度で交渉を進めようとした。村人たちも、初めて見る大金に目がくらみ、彼の言い値で売ってしまいそうになる。
その時、ボルダの前に静かに立ちはだかったのがセレスティーナだった。
「その値段は、市場価格の十分の一以下。無知な田舎者と侮るのも大概になさい」
彼女は、公爵令嬢として受けてきた教育で、経済や法律にも精通していた。彼女はボルダが提示した契約書の不備や、違法な取引項目を次々と指摘していく。
「それに、あなた。去年、隣村で粗悪な種を売りつけ、多額の賠償請求をされているはず。そのような曰く付きの商人と、我々が取引するとお思いで?」
セレスティーナの理路整然とした追及に、ボルダは顔面蒼白になる。彼の不正は、完全に暴かれていた。
「お、覚えてやがれ!」
捨て台詞を残して逃げるように去っていくボルダの背中に、村人たちは喝采を送った。
この一件で、村人たちのセレスティーナへの信頼は、確固たるものとなった。彼女は、ただ幸運を運ぶだけの乙女ではない。自分たちを守り、導いてくれる、賢く、強い領主なのだと。
食糧の不安から解放された村は、日に日に活気を取り戻していった。人々の顔には笑顔が戻り、子供たちの元気な声が響き渡る。
セレスティーナは、領主としての自信と誇りを完全に取り戻していた。夜、領主の館で、俺たちはこれからのことについて語り合った。
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地図を広げ、未来を語る彼女の紫色の瞳は、星のようにきらきらと輝いていた。
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