追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人

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第5話:王都の飢饉と偽りの聖女

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 アキト村が黄金の輝きを増していく一方で、俺たちが暮らす王国全体には、暗い影が忍び寄っていた。
 数ヶ月にわたる異常な天候不順。長雨が続いたかと思えば、今度は日照り。気まぐれな天候は王国全土の農地に壊滅的なダメージを与え、食糧不足は日に日に深刻化していた。

 そんな中、王都だけは、ある種の熱狂に包まれていた。
 その中心にいるのは、「聖女」リリア。彼女が王太子の寵愛を一身に受け、神に祈りを捧げることで、「奇跡」の豊作をもたらしているとされていたからだ。

 しかし、その実態は、欺瞞に満ちたものだった。
 リリアが使っていたのは、聖なる力などではない。土地の生命力を根こそぎ前借りし、一時的に収穫量を増大させるという、古代の禁術だった。その代償はあまりにも大きく、一度祈祷を行った土地は、翌年以降、草一本生えない不毛の地と化してしまう。しかし、その恐ろしい真実を知る者は、王宮には誰もいなかった。

 リリアは救国の聖女として祭り上げられ、王太子アルフォンスと共に贅沢三昧の暮らしを送っていた。国中の貴重な食料が王都に集められ、二人の豪華なパーティーのために浪費されていく。地方の民が飢えに苦しんでいることなど、彼らの関心の外だった。

 やがて、聖女の「奇跡」にも陰りが見え始める。禁術を繰り返したことで、王都周辺の土地も生命力を失い、祈祷の効果が目に見えて薄れてきたのだ。それでも王国の上層部は、聖女の力を信じ、有効な対策を何一つ打とうとしなかった。

 そんな絶望的な状況下で、唯一、奇跡的な豊作が続いている辺境の村の噂が、ついに国王の耳にも届いた。
「アキト村……?あの追放したヴァインベルクの娘が治める土地か」
 国王は、半信半疑ながらも、調査のための視察団を派遣することを決定した。

 数週間後、アキト村に王都からの一団がやってきた。立派な鎧に身を包んだ騎士たちと、肥え太った文官たち。彼らは、辺境の貧しい村を想像していたのだろう。目の前に広がる光景に、驚きを隠せずにいた。

 活気あふれる町並み。整備された水路。そして、地平線の彼方まで広がる、黄金色の麦畑。道行く人々の顔は明るく、健康的で、栄養失調の影など微塵もない。これが、あの痩せこけた土地だったとは、誰にも信じられなかった。

 視察団を出迎えたのは、領主であるセレスティーナだった。
 彼女は、かつて王宮で見せた華やかなドレスではなく、質素だが気品のある、領主としての装いに身を包んでいた。

「ようこそ、アキト村へ。辺境の地ですが、どうぞごゆっくり」

 その立ち居振る舞いは、堂々としており、自信に満ち溢れていた。追放された令嬢の悲壮感など、どこにもない。
 視察団の代表である老伯爵が、訝しげに尋ねる。
「セレスティーナ嬢……いや、殿。一体、どのような魔法を使ったのですかな?この豊かさは、尋常ではない」

 セレスティーナは、穏やかに微笑んで答えた。
「魔法などではございません。土を耕し、水をやり、民と力を合わせた結果ですわ。当たり前のことを、当たり前にしただけにございます」

 彼女は視察団を案内し、村の発展の様子を理路整然と説明した。水車小屋、食品加工所、新しくできた学校。彼女の語る言葉には、領主としての確かな知識と、民への深い愛情が込められていた。その威厳と知性に満ちた姿は、もはや王都で噂されていた「嫉妬に狂った悪役令嬢」の面影を、どこにも感じさせなかった。

 視察団の中には、元々セレスティーナの追放に疑問を抱いていた者もいた。彼らは、セレスティーナの立派な姿と、村の現状を目の当たりにし、彼女の無実を確信する。王太子と聖女リリアの話こそが、嘘偽りだったのではないかと。

 視察の終わり、セレスティーナは彼らに、村で採れた小麦で作ったパンと、保存食を土産として持たせた。王都では味わえない、力強い生命力に満ちたその味は、視察団の心に深く刻みつけられた。

 王都に戻った視察団からの報告は、王宮に大きな波紋を広げた。
「アキト村は、もはや王国随一の穀倉地帯と言っても過言ではない」
「セレスティーナ殿は、稀代の名君であられる」

 国王は、セレスティーナの功績を認めざるを得なかった。しかし、今や聖女リリアと王太子の権勢は、王のそれを上回りつつある。下手にセレスティーティーナを評価すれば、彼らがどう反発するか分からない。国王は、苦々しい表情で沈黙するしかなかった。

 だが、時間は待ってくれない。
 王国の食糧庫は、日に日に底が見え始めていた。民の不満は募り、各地で暴動寸前の空気が漂い始めている。
 王国の運命が、静かに崖っぷちへと追いやられていく。その一方で、アキト村は、来るべき冬に備え、巨大な倉庫に食料を備蓄し続けていた。俺たちの村だけが、まるで嵐の中の安全な港のようだった。
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