追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人

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第6話:進化するスキルと迫る脅威

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 王国の食糧危機が、もはや噂ではなく現実としてアキト村にも伝わってくるようになった。行商人たちが持ち込む情報は、日を追うごとに深刻さを増していた。
「セレスティーナ様、このままでは、王国は冬を越せません」
 執事のジルが、憂いを帯びた顔で報告する。
 セレスティーナは静かに頷いた。
「ええ、わかっているわ。だからこそ、私たちは備えなければ。自分たちの民を、この村を守るために」

 彼女の指示のもと、村ではさらなる増産と備蓄が急ピッチで進められた。俺も、来るべき事態に備え、自分のスキルと改めて向き合っていた。

【神の農地】。この力は、ただ土を肥沃にするだけなのだろうか?
 俺は、スキルの本質について深く思考を巡らせた。土を理想的な状態に変えるということは、土に含まれる水分や養分、微生物の活動まで、すべてをコントロールしているということだ。これは、もはや土壌改良というレベルを超えている。これは、生命の根源に触れる力なのではないか。

(だとしたら、もっと大きなことができるはずだ……)

 俺は、村の外れにある荒れ地に来ていた。そこは岩盤がむき出しで、これまで誰も開墾しようとしなかった場所だ。俺はその岩盤に手を触れ、意識を集中させた。土だけでなく、この大地そのものに語りかけるように。

(水が欲しい。ここに、命の源となる清らかな水が欲しい……!)

 強く、強く念じる。すると、俺の体から膨大なエネルギーが流れ出ていくのがわかった。そして、奇跡が起きた。
 ゴゴゴゴ……と、大地が鳴動する。俺が触れていた岩盤に亀裂が走り、そこから、コンコンと澄んだ水が湧き出し始めたのだ。水は瞬く間に溜まっていき、あっという間に美しい泉を作り出した。

「やった……!」

 俺は、自分の力が新たな段階に進んだことを確信した。これは、もう「農地」という枠には収まらない。
 その瞬間、頭の中にあの声が響いた。

『――スキル【神の農地】は、条件を満たしたため、上位スキル【大地創造】へと進化しました』

【大地創造】。
 その名の通り、地形さえも変え、無から有を生み出す力。泉を湧かせるだけでなく、丘を切り開いて巨大な貯水池を作ることも、荒れた山に豊かな森を育むことも可能だった。俺は、人智を超えた、まさに神の領域に足を踏み入れていた。

 俺が新たな力に目覚めていた頃、アキト村には、王国とは別の、もっと直接的な脅威が迫っていた。
 隣の領主、ゲルラッハ子爵だ。
 王国の混乱に乗じ、彼は長年の目の上のたんこぶであるアキト村を、力ずくで奪い取ろうと画策していた。アキト村に備蓄された、山のような食料も喉から手が出るほど欲しい。

「追放令嬢と小僧が治める村など、一ひねりよ!」

 ゲルラッハ子爵は、手勢の兵士と、金で雇った傭兵たち、総勢三百を率いて、アキト村への侵攻を開始した。
 見張りの村人からの知らせに、村はパニックに陥った。アキト村には、自警団はいるものの、正規の訓練を受けた兵士は一人もいない。武器も、農具を改造した粗末なものだけだ。

「どうしよう……!皆殺しにされて、食料を奪われてしまう!」
 村人たちは、領主の館に集まり、絶望に震えていた。
 セレスティーナも、顔を青くして唇を噛んでいる。彼女にいくら知恵があっても、圧倒的な武力の差を覆すことはできない。

 その時、俺は彼女の前に進み出て、静かに言った。
「セレスティーティーナ様。大丈夫です。俺に考えがあります。どうか、村人たちを館の奥へ避難させてください」
 俺の落ち着き払った様子に、セレスティーナは戸惑いながらも、頷いてくれた。

 俺は一人、村の入り口へと向かった。遠くで、ゲルラッハ軍の掲げる旗と、土煙が見える。
 俺は、村を囲む平原に手を置いた。そして、進化したばかりのスキル【大地創造】の力を、全力で解放した。

(守るんだ。この村を、皆を、セレスティーナを……!)

 大地が、俺の意志に応えて咆哮した。
 村の周囲の地面が、まるで生き物のように隆起し始める。轟音と共に土が盛り上がり、あっという間に高さ五メートルはあろうかという、巨大な土塁が村全体をぐるりと囲んだ。
 それだけではない。土塁の外側では、地面が大きく陥没し、幅十メートル以上の深い堀が瞬時に形成されたのだ。

 侵攻してきたゲルラッハ軍は、目の前で起きた天変地異に度肝を抜かれ、足を止めた。
「な、なんだこれは!?魔法か!?」
 子爵が動揺するのも束の間、俺はさらなる手を打った。

 土塁の斜面に、無数の茨やツタを急成長させる。硬く、鋭い棘を持つ植物が、絡み合いながら分厚い壁を作り上げ、天然のバリケードと化した。これでは、兵士が土塁をよじ登ることすら不可能だろう。

 一夜にして現れた、難攻不落の要塞。
 神業としか思えない光景を前に、ゲルラッハ軍の兵士たちは完全に戦意を喪失した。「悪魔の村だ」「大地の怒りに触れたんだ」と口々に叫び、武器を捨てて逃げ出す者まで現れ始めた。
 ゲルラッハ子爵は、顔面蒼白で震えながら、撤退を命じるしかなかった。

 俺の【大地創造】が、アキト村を完膚なきまでに守り切ったのだ。
 この一件は、すぐに周辺地域に広まった。
 アキト村には、大地を操る賢者がいる。その賢者を守護するのは、幸運の乙女だ、と。

 夜、土塁の上から静かになった戦場を見下ろしながら、セレスティーナは俺の隣で呟いた。
「アキト……あなた、一体何者なの……?」
 俺は、ただ微笑んで首を振るだけだった。

 そして、彼女は決意を秘めた目で、まっすぐに俺を見つめた。
「ありがとう、アキト。あなたのおかげで、皆が救われたわ。でも、痛感した。自分たちの領地を守るためには、もはや、王国の一領地という枠組みでは限界だと。私たちは、もっと強くならなければならない」

 彼女の瞳には、新たな国の未来像が、はっきりと映し出されているようだった。
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