魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人

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第4話「聖剣の勇者と歪められた正義」

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 王都の中心にそびえ立つ大神殿。そのバルコニーで、最高司祭が張りのある声で民衆に向かって宣言していた。
「東の森に邪悪なる魔王が再臨した! だが恐れることはない! 神は我らを見捨てなかった! 我らに一人の勇者を与えたもうた!」

 割れんばかりの歓声が、広場を埋め尽くした民衆から沸き起こる。その声に応えるように、祭壇に一人の青年が立った。陽光を反射して輝く白銀の鎧に身を包み、背中には美しい装飾が施された聖剣を携えている。彼こそが、神殿に選ばれし勇者、カイン。

 彼の演説は、力強く、そして狂信的だった。
「魔族は世界の害悪! 彼らの存在そのものが罪なのだ! 我が聖剣は、神の御名において、すべての魔族をこの地上から浄化するためにある! 魔王を討ち、今度こそ永遠の平和を勝ち取るのだ!」

 民衆は熱狂し、「勇者様万歳!」と声を張り上げた。その光景を高みから見下ろす最高司祭の目には、しかし、冷たい計算の色が浮かんでいた。彼らにとって勇者とは、民衆の信仰心と恐怖心を巧みに操り、神殿の権威を絶対的なものにするための、最も優れた「駒」でしかなかった。勇者が魔王を討てば神殿の威光は高まり、もし勇者が倒れれば、新たな悲劇の英雄として人々の心を掴むことができる。どちらに転んでも、損はない。

 その頃、僕たちはリリスを匿い、森の近くに借りた山小屋で穏やかな日々を過ごしていた。最初は僕たちに遠慮していたリリスも、少しずつ打ち解けてくれていた。特に、僕が語る「物理学」の話に強い興味を示した。
「夜空に輝くあの星々が、お昼の太陽と同じように燃えている、巨大なガスの塊だなんて……。私の知っている世界と全然違うのね」
 望遠鏡もないこの世界で、星の正体を語る僕の話に、彼女は目を輝かせて聞き入った。その純粋な知的好奇心は、かつての僕自身を思い出させた。

 彼女の魔力も、僕がエントロピーの概念を応用して制御のコツを教えたことで、少しずつコントロールできるようになっていた。彼女はその力を、決して破壊のためには使わない。山小屋の周りの枯れた大地に、美しい花を咲かせる。そんな心優しい使い方をする子だった。エリアは彼女を妹のように可愛がり、フィオも最初は「魔王」と聞いて身構えていたが、リリスの純粋な人柄に触れ、すぐに打ち解けていた。

 しかし、そんな平和な時間は長くは続かなかった。
 街へ買い出しに行っていたフィオが、血相を変えて山小屋に飛び込んできたのだ。
「大変だよ、アレン! 王都で勇者が選ばれた! 魔王討伐の軍を率いて、もうすぐこの森までやってくるって、街中その話で持ちきりだ!」

 その報告に、リリスの顔からサッと血の気が引いた。彼女は、自分自身の危険よりも、同胞である魔族たちが、ただ「悪」というレッテルを貼られ、理由もなく殺されていくことに深く心を痛めているのだ。
「私のせいで……私の力が暴走したせいで、また争いが起きてしまう……」
 震えるリリスの肩を、エリアが優しく抱きしめる。

 僕は、リリスの紫色の瞳をまっすぐに見つめて尋ねた。
「君はどうしたい? 君の本当の望みは何だ?」
 リリスは震える声で、しかしはっきりと答えた。
「私は……戦いたくありません。でも、私の仲間たちが、一方的に殺されるのは嫌……。できることなら、話し合って、分かり合いたいです」

 その答えを聞いて、僕の覚悟は決まった。
「わかった。なら、僕が君と、君の望む未来を守る」
 僕はエリアとフィオに向き直り、宣言した。
「魔王が悪で、勇者が正義? そんな単純な二元論、僕の物理学が許さない。一方的な暴力で物事を解決しようとするなら、僕たちには僕たちのやり方がある」

 フィオはニヤリと笑い、拳を打ち鳴らした。
「面白くなってきたじゃないか! あたしの技術と、あんたの頭脳があれば、勇者軍だろうがなんだろうが、返り討ちにしてやれるさ!」
 エリアも、強い意志を宿した瞳で僕を見つめ、静かにうなずいた。
「アレンのやることが、正しいことだと私は信じてるわ」

 僕たちは、ただ逃げることもしないし、一方的に滅ぼされることも選ばない。僕たちのやり方で、この世界の歪んだ常識に異を唱える。
「これから、僕たちの戦争を始めよう」
 それは、血を流さず、知恵と知識で、圧倒的な戦力差を覆すための、僕たちだけの戦いの始まりだった。
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