魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人

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第5話「物理学者の城塞(フォートレス・オブ・フィジックス)」

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「戦争といっても、僕たちに軍隊はない。だから、頭脳と知識で、圧倒的な戦力差を覆すんだ」

 僕の宣言から、勇者カイン率いる軍を迎え撃つための準備が始まった。僕たちの戦場は、リリスが制御できるようになった魔力で作り出した、深い霧に包まれたこの森。そして、僕たちの武器は、僕の物理学とフィオの技術、エリアの支援、そしてリリスのささやかな魔法だった。

 まず、僕はフィオに【テコの原理】と【滑車の原理】について、図を描きながら詳しく説明した。
「小さな力で、何倍も大きな物を動かすことができるんだ。支点、力点、作用点の関係さえ理解すれば……」
「なるほどね! つまり、この原理を応用した仕掛けを作れば、あんた一人の力でも、巨大な岩や大木を軽々と動かせるってわけかい!」
 僕の説明を、フィオは驚異的な速さで理解し、彼女のドワーフとしての技術力で、次々と精巧な装置を作り上げていく。僕の知識が、彼女の手によって現実の形となっていく様は、見ていて鳥肌が立つほど興奮した。森の各地に、勇者軍の進路上に、巨大な落石や倒木を誘発する物理的なトラップが、着々と仕掛けられていった。

 次に、僕が目を付けたのは【光の屈折と反射】だ。
「リリス、お願いがある。森全体に、ただの霧じゃなくて、細かな水滴を無数に含んだ、濃い霧を発生させてくれないか?」
「わ、わかったわ。やってみる」
 リリスが作り出した魔法の霧に、僕たちは計算された角度から光を当てる。光源は、フィオが即席で作ってくれた、魔石の光をレンズで集光する単純な投光器だ。霧の中の無数の水滴がプリズムやスクリーンの役割を果たし、光が屈折・反射することで、森の中に巨大な幻影(蜃気楼)を映し出すことに成功した。存在しないはずの断崖絶壁や、底なしの沼地、さらにはおびただしい数の魔物の幻影。これで敵の進軍ルートを僕たちが望む場所、つまりトラップを集中させた地帯へと、心理的に誘導する作戦だ。

 そして、フィオが今回の準備で最も興奮し、目を輝かせたのが【共振(レゾナンス)】の概念だった。
「神殿のゴーレム兵は、魔法的な加護で守られていて、物理的な攻撃はほとんど通じないって話だ。だが、どんなに硬い物体にも、固有の振動数というものが必ず存在する」
「こゆうしんどうすう……?」
「ああ。その物体が最も揺れやすい周波数のことだ。その周波数と同じ振動を外部から与え続けると、揺れはどんどん大きくなっていく。これが共振だ。そして、その揺れが限界を超えた時……物体は内部から自己崩壊する」
「な、なんだってー!? そんなことが可能なのかい!?」
 僕の理論を聞いたフィオは、まるで宝の山を見つけた探検家のように叫んだ。彼女はすぐさま工房にこもり、カンカンと金属を叩き始めた。数時間後、彼女が持ってきたのは、大きな音叉のような形をした奇妙な装置だった。
「試作品さ! 『共鳴破壊装置(レゾナンス・ブレーカー)』! この魔石の振動を、特定の周波数に増幅して音波として放つ! ゴーレム兵の素材さえ分かれば、周波数を合わせて一網打尽にできるはずだよ!」

 その間、エリアも決して遊んでいたわけではない。彼女は治癒術師としての知識を活かし、森に自生する薬草を大量に集めていた。僕たちが万が一負傷した場合に備え、回復薬(ポーション)や解毒剤を何十本も作り、準備を整えてくれていた。彼女の存在は、僕たちの命綱であり、精神的な支えでもあった。

 リリスもまた、自分のやり方で戦いに協力してくれていた。彼女は心優しい森の獣たちや、人間との争いを望まない穏健派の魔族たちに協力を求め、偵察や伝令役を担ってくれた。彼らは決して人間を傷つけず、ただ勇者軍の規模や進軍速度といった情報を集め、僕たちに届けてくれる。彼女の優しさが、僕たちに新たな目と耳を与えてくれたのだ。

 準備を進める中で、僕たちの絆は日に日に深まっていった。
「まったく、あんたの頭の中は一体どうなってるんだい! まるで世界の設計図でも入ってるみたいだ!」とフィオは僕の知識に心酔し、僕の無茶な要求に笑顔で応えてくれた。
「昔からアレンはそうだったわ。誰も思いつかないようなことを考えて、私を驚かせる天才だったもの」とエリアは誇らしげに語り、僕の体を気遣ってくれた。
 リリスは、自分のために必死になってくれる僕たちの姿に、涙を浮かべて何度も「ありがとう」と言ってくれた。

 数日後、勇者カイン率いる数千の軍勢の先頭部隊が、ついに森の入り口に到着した。
 彼らは、これから自分たちが足を踏み入れるこの霧深き森が、魔法も常識も一切通用しない、一人の天才物理学者が設計した、知の「要塞」であることなど、知る由もなかった。
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