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第6話「激突、魔法絶対主義への反証」
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勇者カインが率いる先発隊は、森に入るなり、神殿から与えられたという強力なアーティファクト「静寂の宝珠」を展開した。宝珠から放たれた青白い波動がさざなみのように広がり、半径数百メートルに及ぶ完全な「アンチマジックフィールド」を形成する。その空間内では、あらゆる魔法が霧散し、魔力そのものが意味をなさなくなる。対魔術師、対魔族における、神殿の必勝の切り札だ。
「これであの忌まわしき魔王の小細工はすべて封じた! 全員、突撃せよ!」
先発隊隊長の号令とともに、武装した騎士たちの雄叫びが森に響き渡る。リリスが張っていた幻影の霧も、宝珠の力でかき消されてしまった。
しかし、彼らが勝利を確信して最初の一歩を踏み出した、その瞬間だった。
足元の地面が、何の魔法的な予兆もなく崩落し、隊列の先頭にいた数十人の騎士が、悲鳴と共に巨大な落とし穴へと吸い込まれていった。それは魔法の罠ではない。僕たちが事前に掘り、枯れ葉や枝で巧妙に偽装しておいただけの、純粋な物理的な罠だ。
「な、何だ!?」
突然の出来事に混乱する騎士団の頭上から、巨大な丸太がいくつも轟音を立てて降り注ぐ。これも、僕が滑車とテコの原理を応用して仕掛けたトラップだ。魔法ではないため、アンチマジックフィールドの影響をまったく受けない。
さらに、森の奥からキィィンという不快な高周波が聞こえてきたかと思うと、部隊の誇る切り札であるはずのゴーレム兵たちが、カタカタと奇妙な振動を始めた。フィオが開発した「共鳴破壊装置(レゾナンス・ブレーカー)」の威力である。
あれは魔石のエネルギーを直接魔力として放出するのではなく、物理的な音波振動に変換する装置。だから、アンチマジックフィールドの影響を受けない。
「馬鹿な! 魔法は完全に封じているはずだ! いったい何が起きているというのだ!?」
先発隊の隊長が、信じられないといった様子で叫ぶ。その彼の目の前に、僕は一人で姿を現した。
「君たちの常識は、僕には通用しない」
僕は、フィオが作ってくれた、強靭なゴムを使った特殊な投石器(スリング)を構える。足元には、空気抵抗を極限まで減らした鉄製の弾丸「エアロ・ブレット」がいくつも転がっていた。
「エネルギーは、運動エネルギーだけじゃない。位置エネルギーにも形を変える」
僕は【位置エネルギー U = mgh】の法則を応用し、投石器のゴムを限界まで引き絞る。僕の腕力だけでなく、体重をかけたてこの原理を応用した機構が、ゴムに莫大な弾性エネルギーを蓄積させていく。
「小賢しい真似を! 者ども、かかれ!」
隊長の号令で、生き残った騎士たちが一斉に僕に襲い掛かってくる。だが、彼らが僕に到達するよりも早く、僕の手から弾丸が放たれた。
ヒュン、という可愛らしい音ではない。ゴォッ!という、砲弾が空気を引き裂く音だった。
アンチマジックフィールドなど意にも介さず、純粋な物理法則に従って加速された弾丸は、衝撃波の尾を引きながら、騎士たちの分厚い鋼鉄の鎧を、まるで紙のように貫いていく。僕は決して急所を狙わない。腕や足の鎧を破壊し、彼らの戦意を削ぐことだけを目的としていた。
「き、貴様、何者だ!」
隊長は、部下たちが次々と戦闘不能になっていく様に、恐怖で顔を引きつらせた。
「僕はただの科学者だよ」と僕は静かに答えた。「君たちの『魔法が絶対だ』という、その凝り固まった思い込みが、君たちを敗北させるんだ」
僕は次に、フィオが作ってくれた送風機のような魔導具を起動させる。これも同様に、魔力を介さず風を発生させる純粋な物理装置だ。
【ベルヌーイの定理】――流体の速度が速い場所は、圧力が低くなる。
僕は、この装置を使って局地的に気圧の差を生み出すことで、小型の竜巻を発生させた。竜巻は騎士たちを次々と空中に巻き上げ、身動きを取れなくしていく。
魔法が効かないはずの空間で、次々と起こる超常的な現象。それは、魔法絶対の世界で生きてきた先発隊の騎士たちの精神を、根底から崩壊させるのに十分すぎた。
「あ、悪魔だ……」
「未知の邪神の呪いだ……」
彼らは武器を放り出し、恐怖の叫びを上げながら敗走していく。
その報告を受けた勇者カインは、玉座に座ったまま、ギリッと歯噛みした。
「小賢しい邪法を……。だが、我が聖剣の前では、どんなトリックも無意味だと教えてやろう」
彼の瞳には、未知の敵に対する警戒と、自らの正義を邪魔する者への深い憎悪の色が浮かんでいた。彼は、全軍に対して総進軍の命令を下した。森の奥で待つ本当の戦いが、刻一刻と近づいていた。
「これであの忌まわしき魔王の小細工はすべて封じた! 全員、突撃せよ!」
先発隊隊長の号令とともに、武装した騎士たちの雄叫びが森に響き渡る。リリスが張っていた幻影の霧も、宝珠の力でかき消されてしまった。
しかし、彼らが勝利を確信して最初の一歩を踏み出した、その瞬間だった。
足元の地面が、何の魔法的な予兆もなく崩落し、隊列の先頭にいた数十人の騎士が、悲鳴と共に巨大な落とし穴へと吸い込まれていった。それは魔法の罠ではない。僕たちが事前に掘り、枯れ葉や枝で巧妙に偽装しておいただけの、純粋な物理的な罠だ。
「な、何だ!?」
突然の出来事に混乱する騎士団の頭上から、巨大な丸太がいくつも轟音を立てて降り注ぐ。これも、僕が滑車とテコの原理を応用して仕掛けたトラップだ。魔法ではないため、アンチマジックフィールドの影響をまったく受けない。
さらに、森の奥からキィィンという不快な高周波が聞こえてきたかと思うと、部隊の誇る切り札であるはずのゴーレム兵たちが、カタカタと奇妙な振動を始めた。フィオが開発した「共鳴破壊装置(レゾナンス・ブレーカー)」の威力である。
あれは魔石のエネルギーを直接魔力として放出するのではなく、物理的な音波振動に変換する装置。だから、アンチマジックフィールドの影響を受けない。
「馬鹿な! 魔法は完全に封じているはずだ! いったい何が起きているというのだ!?」
先発隊の隊長が、信じられないといった様子で叫ぶ。その彼の目の前に、僕は一人で姿を現した。
「君たちの常識は、僕には通用しない」
僕は、フィオが作ってくれた、強靭なゴムを使った特殊な投石器(スリング)を構える。足元には、空気抵抗を極限まで減らした鉄製の弾丸「エアロ・ブレット」がいくつも転がっていた。
「エネルギーは、運動エネルギーだけじゃない。位置エネルギーにも形を変える」
僕は【位置エネルギー U = mgh】の法則を応用し、投石器のゴムを限界まで引き絞る。僕の腕力だけでなく、体重をかけたてこの原理を応用した機構が、ゴムに莫大な弾性エネルギーを蓄積させていく。
「小賢しい真似を! 者ども、かかれ!」
隊長の号令で、生き残った騎士たちが一斉に僕に襲い掛かってくる。だが、彼らが僕に到達するよりも早く、僕の手から弾丸が放たれた。
ヒュン、という可愛らしい音ではない。ゴォッ!という、砲弾が空気を引き裂く音だった。
アンチマジックフィールドなど意にも介さず、純粋な物理法則に従って加速された弾丸は、衝撃波の尾を引きながら、騎士たちの分厚い鋼鉄の鎧を、まるで紙のように貫いていく。僕は決して急所を狙わない。腕や足の鎧を破壊し、彼らの戦意を削ぐことだけを目的としていた。
「き、貴様、何者だ!」
隊長は、部下たちが次々と戦闘不能になっていく様に、恐怖で顔を引きつらせた。
「僕はただの科学者だよ」と僕は静かに答えた。「君たちの『魔法が絶対だ』という、その凝り固まった思い込みが、君たちを敗北させるんだ」
僕は次に、フィオが作ってくれた送風機のような魔導具を起動させる。これも同様に、魔力を介さず風を発生させる純粋な物理装置だ。
【ベルヌーイの定理】――流体の速度が速い場所は、圧力が低くなる。
僕は、この装置を使って局地的に気圧の差を生み出すことで、小型の竜巻を発生させた。竜巻は騎士たちを次々と空中に巻き上げ、身動きを取れなくしていく。
魔法が効かないはずの空間で、次々と起こる超常的な現象。それは、魔法絶対の世界で生きてきた先発隊の騎士たちの精神を、根底から崩壊させるのに十分すぎた。
「あ、悪魔だ……」
「未知の邪神の呪いだ……」
彼らは武器を放り出し、恐怖の叫びを上げながら敗走していく。
その報告を受けた勇者カインは、玉座に座ったまま、ギリッと歯噛みした。
「小賢しい邪法を……。だが、我が聖剣の前では、どんなトリックも無意味だと教えてやろう」
彼の瞳には、未知の敵に対する警戒と、自らの正義を邪魔する者への深い憎悪の色が浮かんでいた。彼は、全軍に対して総進軍の命令を下した。森の奥で待つ本当の戦いが、刻一刻と近づいていた。
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