魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人

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第9話「物理学者の対話(ダイアローグ)、相対する正義」

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 白銀に凍り付いた静寂の世界で、ただ一人動くことができる勇者カインは、聖剣アスカロンを強く、強く握りしめた。その身に宿る聖なる力が、絶対零度の侵食からかろうじて彼を守っていた。彼の目には、この異常事態を引き起こした僕が、世界を滅ぼす悪魔そのものに映っていた。
「貴様だけは……貴様だけは、この俺が斬る!」
 憎悪を全身の力に変え、カインは凍てついた大地を蹴って、僕に向かって疾走する。

 聖剣がまばゆい光の尾を引き、音速を超える速度で僕に迫る。だが、僕は不思議と冷静だった。彼の動きが、まるでスローモーションのように、はっきりと見えていた。

【概念置換:特殊相対性理論】

「光の速度に近い速度で動く物体は、その物体が感じる時間の進みが遅くなる」。アインシュタインが導き出した、時間と空間の真理。僕は、この概念を僕自身の知覚にのみ応用した。僕の主観的な時間を引き延ばし、思考と反応速度を極限まで高めていたのだ。

 紙一重で聖剣の凄まじい斬撃をかわした僕は、すぐさま反撃に転じる。
【概念置換:電磁気学】
 僕は地面に含まれる微量な砂鉄を、磁力で操って僕の周囲に集める。そして、電磁誘導の原理を応用し、リニアモーターカーのように弾丸を加速させる即席のコイルガンをイメージで構築。砂鉄の塊を、音速の数倍の速度で射出する。
 聖剣から放たれる神聖なオーラが弾丸を弾き、防ぐが、その凄まじい衝撃にカインは顔を歪めた。

「どうして君は、神殿の言葉をそこまで信じることができるんだ!」
 激しい攻防の最中、僕は彼に叫ぶ。対話の可能性を、まだ諦めてはいなかった。
「君が憎むべきは、本当に魔族という種族そのものなのか!? 君の村を襲ったのは、本当に彼らの総意だったのか!?」
「黙れ! 偽善者が! 貴様に俺の悲しみの何がわかる!」
 カインは絶叫し、聖剣の力を解放する。聖剣から放たれた巨大な光の刃が、空間ごと僕を両断しようと迫ってきた。

 これに対抗するには、さらに上の概念が必要だ。
【概念置換:核融合】
 僕は、大気中に存在する水素原子を、僕の思考の力で強引に圧縮し、太陽の中心で起きているのと同じ、ごく小規模な核融合反応を引き起こす。
 僕の目の前に、太陽と同じ原理で生み出された灼熱のプラズマ球が出現する。それが聖剣の光の刃と衝突し、凄まじいエネルギーを放って互いを相殺した。

「君は神殿に利用されているだけだ!」
 爆風が吹き荒れる中、僕は必死に訴えかける。
「彼らは君の深い憎しみを利用して、人間と魔族を争わせ、自分たちの支配を確固たるものにしようとしているだけなんだ! 本当の敵は、君が信じる正義のすぐ後ろにいる!」

 その言葉は、確かにカインの心に届いたようだった。彼の動きが、ほんの一瞬、鈍る。彼の脳裏に、これまでの戦いでの数々の違和感が、堰を切ったように蘇る。殺意の感じられない敵の攻撃。そして、自分を英雄と祭り上げながらも、どこか道具のように見る、最高司祭の冷たい目。

 その、ほんのわずかな隙。
 エリアに付き添われたリリスが、意を決して僕たちの前に姿を現した。
「お願いします、勇者様。私たちは、あなた方と争いたくありません」
 彼女の紫色の瞳には、恐怖も憎しみもなかった。ただ、深い悲しみの色が浮かんでいた。

 魔王と呼ばれながら、誰よりも平和を願う少女の純粋な姿と言葉。
 それが、カインの心を激しく揺さぶった。自分が今まで信じてきた「正義」が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのを、彼は確かに感じていた。
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