「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第11話「焚き火を囲んで」

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 牙猪(ファングボア)との激闘を終え、俺たちはその場にへたり込んだ。緊張の糸が切れた途端、どっと疲れが押し寄せてくる。

「……それにしても、肝が冷えたな」

「ええ。まさか、あんな大物が出てくるなんて。運が悪かったわ」

 ルミナも、額の汗を拭いながらため息をつく。彼女の顔色はまだ少し悪い。光の壁で、相当な魔力を消耗したのだろう。

「いや、俺のせいだ。俺が『楽勝かも』なんて油断したから……」

「それは関係ないわ。それより、これからどうする? この牙猪、どう見ても食べきれないわよ」

 ルミナの視線の先には、ぬかるみに半身を沈めたまま絶命している巨大な猪。確かに、これを二人で消費するのは不可能だ。

「だよな。でも、肉は貴重な食料源だ。獲れるだけ獲っておこう」

 幸い、俺には《概念編集》がある。俺は非常用袋からナイフを取り出すと、その刃にそっと触れた。

『このナイフを、「どんな硬い皮でもサクッと切れる、解体用の鋭いナイフ」に!』

 イメージ通りに書き換えたナイフは、面白いように牙猪の硬い皮を切り裂いていく。俺たちは食べられそうな部位の肉を切り出し、保存用に塩をすり込んだ。牙は硬くて鋭い。何かの素材になるかもしれないと思い、根本から切り離して確保しておく。

 作業を終える頃には、すっかり日も傾き始めていた。

 その夜、俺たちは焚き火を囲み、早速手に入れた牙猪の肉を串に刺して焼いていた。

 ジュージューと音を立てて焼ける肉から、香ばしい匂いが立ち上る。昼間の死闘が嘘のような、穏やかな時間だった。

「……今日の戦い、反省しないとな」

 焼けた肉にかぶりつきながら、俺はぽつりとつぶやいた。

「反省?」

「ああ。俺の剣じゃ、あいつに傷一つつけられなかった。結局、ルミナに防御を任せて、俺は奇策に頼るしかなかった。もっとうまく立ち回れていれば、ルミナにあんな無茶をさせずに済んだのに」

 俺の言葉に、ルミナは静かに首を横に振った。

「ううん。私も同じよ。私の光魔法は、攻撃には向いていない。防御や治癒が専門だから、どうしても受け身になってしまう。カイの、あのとっさの判断がなければ、今頃私たちはあいつの胃袋の中よ」

 彼女は俺の目をまっすぐに見て言った。

「あなたは、あなたのやり方で戦えばいい。私は、私にできることをする。そうやって、二人で補い合っていけばいいんじゃないかしら」

「……補い合う、か」

 その言葉は、すとんと胸に落ちた。そうだ。俺は剣士じゃない。魔法使いでもない。俺には、俺にしかできない戦い方がある。それを磨いていけばいいんだ。

「それにしても、カイのいた世界って、本当に魔物とかいないの?」

 ルミナが、興味深そうに尋ねてくる。

「ああ、いないな。猪はいるけど、あんなに大きくないし、牙もあんなじゃない。一番怖いのは、人間だよ」

「人間が?」

「そう。銃とか、爆弾とか、もっとすごい兵器で、人間同士が殺し合うんだ。魔法なんてなくても、街一つ消し飛ばせるくらいの力を持ってる」

 俺の話に、ルミナは悲しそうな顔をした。

「……そんなの、ひどいわ」

「だよな。だから、俺はこっちの世界の方が、ある意味健全なのかもしれないって思う時がある。力には力が、魔法には魔法がぶつかり合う。シンプルで、分かりやすい」

 もちろん、命の危険と隣り合わせなのはごめんだが。

「ルミナの世界は、どうなんだ? その……聖女として生きるっていうのは」

 今度は、俺が尋ねる番だった。

 彼女は少しだけうつむき、焚き火の炎を見つめた。

「……窮屈、だったわ。物心ついた時から、あなたは特別な存在なのだと教え込まれてきた。外で自由に遊ぶことも、友達を作ることも許されなかった。一族の血を絶やさないため、そして、その力を悪用されないために、ずっと狭い世界で生きてきたの」

 その声は、ひどく寂しげだった。

 彼女はずっと、多くのものを犠牲にして生きてきたのだ。俺が当たり前のように享受してきた「自由」というものを、彼女は知らない。

「そっか……」

 俺は、かける言葉が見つからなかった。

 静かな時間が流れる。パチパチと薪のはぜる音だけが、森の静寂に響いていた。

「でも」

 不意に、ルミナが顔を上げた。その表情は、先ほどまでの翳りはなく、どこか吹っ切れたような、凛としたものだった。

「今、私はここにいる。こうして、自分の意志で旅をしている。カイ、あなたと出会って、私は初めて『自分の人生』を歩き始めた気がするの」

「ルミナ……」

「だから、感謝してる。あなたには」

 焚き火の光に照らされた彼女の笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも、綺麗だと思った。

 俺はなんだか照れくさくなって、頭をガシガシとかきながら、残っていた肉を無理やり口に詰め込んだ。

 心の距離が、また少しだけ縮まった。そんな気がした夜だった。
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