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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第12話「忍び寄る毒の脅威」
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牙猪との遭遇から二日。俺たちはさらに森の奥深くへと進んでいた。
木々の密度は増し、太陽の光はほとんど地表に届かない。足元にはシダ植物が密生し、じっとりとした湿気が肌にまとわりつく。どことなく、空気もよどんでいる気がした。
「……なんだか、気味が悪い場所だな」
「ええ。この辺りから、森の様相が変わってくるわ。瘴気……邪悪な魔力が濃いのかもしれない。毒を持つ植物や魔物が多くなるから、気をつけて」
ルミナの警告通り、周囲には紫や黒といった、見るからに毒々しい色をしたキノコや植物が目立つようになってきた。
俺たちは、いつも以上に警戒を強め、一歩一歩、慎重に足を進める。
そんな時だった。
「……カイ、待って」
ルミナが、ぴたりと足を止めた。彼女の視線は、少し先にある開けた場所へと向けられている。
そこには、奇妙な光景が広がっていた。直径五メートルほどの範囲に、傘が人頭大ほどもある巨大なキノコが、いくつも群生しているのだ。その傘は不気味な紫色で、表面には黄色の斑点模様が浮かんでいる。
「なんだ、あれ……」
「ポイズンマッシュ……猛毒の胞子をまき散らす、危険な魔物よ。刺激を与えなければ大丈夫なはず。迂回しましょう」
ルミナの提案に、俺も同意した。わざわざ危険な場所に近づく必要はない。俺たちが、その場を大きく迂回しようと、静かに後ずさった、その時。
ガサッ!
近くの茂みから、一匹のリスのような小動物が飛び出してきた。そして、あろうことか、ポイズンマッシュの群生地の真ん中を駆け抜けていったのだ。
「しまった!」
ルミナが叫ぶ。
その瞬間、ポイズンマッシュたちが一斉にぶるぶると傘を震わせた。そして、傘の裏側から、目に見えるほどの濃密な紫色の胞子が、もわりと噴き出された。
「カイ、息を止め――きゃっ!?」
俺に警告しようとしたルミナが、木の根に足を取られて体勢を崩す。そして、運悪く、紫色の胞子を吸い込んでしまった。
「うぐっ……! ごほっ、ごほっ……!」
ルミナが激しく咳き込む。
「ルミナ!」
俺は慌てて彼女に駆け寄り、その場から引き離す。ポイズンマッシュから十分に距離を取り、彼女の背中をさすった。
「大丈夫か!?」
「ええ……なんとか……。でも、少し……頭が……」
そう言ったきり、ルミナの身体から力が抜け、ぐったりと俺の腕の中に倒れ込んだ。
「ルミナ! おい、しっかりしろ!」
呼びかけても、返事はない。荒い呼吸を繰り返し、額に触れると、燃えるように熱い。顔は真っ青で、唇は紫色に変色していた。明らかに、毒にやられている。
『聖光魔法は!? 治癒魔法なら!』
そう思ったが、ルミナ自身が気を失っていては、魔法の使いようがない。
「くそっ!」
俺はルミナを安全な木の根元に横たえると、途方に暮れた。
どうすればいい? 解毒薬? そんなもの、持っているわけがない。薬草の知識なんて、俺にあるはずもなかった。
時間が経つにつれて、ルミナの容態は悪化していく。呼吸はどんどん浅くなり、身体は時折、小さく痙攣していた。
『このままじゃ、ルミナが死んじまう……!』
恐怖と焦りで、心臓が早鐘を打つ。俺のせいで、俺がもっと注意していれば……。いや、後悔している暇はない。今、俺にできることを探すんだ。
そうだ、俺には《概念編集》がある。
でも、どう使う? 毒そのものを「無毒」に書き換える? いや、彼女の体内にある毒を、どうやって対象に指定すればいいんだ。そもそも、そんなことができるのか?
『薬を作るんだ。解毒薬を』
俺は周囲を見渡す。そこら中に、見たこともない植物が生い茂っている。どれが薬草で、どれが毒草なのか、見分けがつくはずもない。
『でも、やるしかない!』
俺は手当たり次第に、近くに生えていた葉っぱを一枚ちぎり取った。何の変哲もない、ただの草だ。
これを、「最高の解毒薬」に書き換える。
俺は目を閉じ、意識を集中させる。しかし、ランタンや剣の時とは違い、明確なイメージが浮かばない。「最高の解毒薬」とは、一体どんなものなんだ? 成分は? 形状は?
『ダメだ、これじゃ……!』
焦れば焦るほど、思考は空回りする。手のひらの葉っぱは、ただの葉っぱのままだ。
ルミナの苦しそうな呻き声が聞こえる。もう、時間がない。
俺は自分の無力さに、奥歯をギリリと噛みしめた。
木々の密度は増し、太陽の光はほとんど地表に届かない。足元にはシダ植物が密生し、じっとりとした湿気が肌にまとわりつく。どことなく、空気もよどんでいる気がした。
「……なんだか、気味が悪い場所だな」
「ええ。この辺りから、森の様相が変わってくるわ。瘴気……邪悪な魔力が濃いのかもしれない。毒を持つ植物や魔物が多くなるから、気をつけて」
ルミナの警告通り、周囲には紫や黒といった、見るからに毒々しい色をしたキノコや植物が目立つようになってきた。
俺たちは、いつも以上に警戒を強め、一歩一歩、慎重に足を進める。
そんな時だった。
「……カイ、待って」
ルミナが、ぴたりと足を止めた。彼女の視線は、少し先にある開けた場所へと向けられている。
そこには、奇妙な光景が広がっていた。直径五メートルほどの範囲に、傘が人頭大ほどもある巨大なキノコが、いくつも群生しているのだ。その傘は不気味な紫色で、表面には黄色の斑点模様が浮かんでいる。
「なんだ、あれ……」
「ポイズンマッシュ……猛毒の胞子をまき散らす、危険な魔物よ。刺激を与えなければ大丈夫なはず。迂回しましょう」
ルミナの提案に、俺も同意した。わざわざ危険な場所に近づく必要はない。俺たちが、その場を大きく迂回しようと、静かに後ずさった、その時。
ガサッ!
近くの茂みから、一匹のリスのような小動物が飛び出してきた。そして、あろうことか、ポイズンマッシュの群生地の真ん中を駆け抜けていったのだ。
「しまった!」
ルミナが叫ぶ。
その瞬間、ポイズンマッシュたちが一斉にぶるぶると傘を震わせた。そして、傘の裏側から、目に見えるほどの濃密な紫色の胞子が、もわりと噴き出された。
「カイ、息を止め――きゃっ!?」
俺に警告しようとしたルミナが、木の根に足を取られて体勢を崩す。そして、運悪く、紫色の胞子を吸い込んでしまった。
「うぐっ……! ごほっ、ごほっ……!」
ルミナが激しく咳き込む。
「ルミナ!」
俺は慌てて彼女に駆け寄り、その場から引き離す。ポイズンマッシュから十分に距離を取り、彼女の背中をさすった。
「大丈夫か!?」
「ええ……なんとか……。でも、少し……頭が……」
そう言ったきり、ルミナの身体から力が抜け、ぐったりと俺の腕の中に倒れ込んだ。
「ルミナ! おい、しっかりしろ!」
呼びかけても、返事はない。荒い呼吸を繰り返し、額に触れると、燃えるように熱い。顔は真っ青で、唇は紫色に変色していた。明らかに、毒にやられている。
『聖光魔法は!? 治癒魔法なら!』
そう思ったが、ルミナ自身が気を失っていては、魔法の使いようがない。
「くそっ!」
俺はルミナを安全な木の根元に横たえると、途方に暮れた。
どうすればいい? 解毒薬? そんなもの、持っているわけがない。薬草の知識なんて、俺にあるはずもなかった。
時間が経つにつれて、ルミナの容態は悪化していく。呼吸はどんどん浅くなり、身体は時折、小さく痙攣していた。
『このままじゃ、ルミナが死んじまう……!』
恐怖と焦りで、心臓が早鐘を打つ。俺のせいで、俺がもっと注意していれば……。いや、後悔している暇はない。今、俺にできることを探すんだ。
そうだ、俺には《概念編集》がある。
でも、どう使う? 毒そのものを「無毒」に書き換える? いや、彼女の体内にある毒を、どうやって対象に指定すればいいんだ。そもそも、そんなことができるのか?
『薬を作るんだ。解毒薬を』
俺は周囲を見渡す。そこら中に、見たこともない植物が生い茂っている。どれが薬草で、どれが毒草なのか、見分けがつくはずもない。
『でも、やるしかない!』
俺は手当たり次第に、近くに生えていた葉っぱを一枚ちぎり取った。何の変哲もない、ただの草だ。
これを、「最高の解毒薬」に書き換える。
俺は目を閉じ、意識を集中させる。しかし、ランタンや剣の時とは違い、明確なイメージが浮かばない。「最高の解毒薬」とは、一体どんなものなんだ? 成分は? 形状は?
『ダメだ、これじゃ……!』
焦れば焦るほど、思考は空回りする。手のひらの葉っぱは、ただの葉っぱのままだ。
ルミナの苦しそうな呻き声が聞こえる。もう、時間がない。
俺は自分の無力さに、奥歯をギリリと噛みしめた。
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