「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第13話「祈りと奇跡の雫」

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『ダメだ、イメージができない……!』

「最高の解毒薬」という曖昧な概念では、この力は発動しないのかもしれない。複雑な化学式や薬効成分を持つ「薬」のようなものを、ゼロから生み出すのは無理なのか。

 ルミナの呼吸が、さらに弱々しくなっていく。彼女の白い肌は、もはや土気色に変わり果てていた。

『何か、もっとシンプルなイメージで……。俺でも、はっきりと想像できるもの……』

 その時、俺の脳裏に、ルミナが使っていた聖光魔法の輝きがよみがえった。

 あの光は、邪を払い、傷を癒す力を持っていた。あれこそが、毒を浄化するのに最もふさわしい力じゃないのか。

『そうだ、光だ。ルミナの魔法みたいな、聖なる力……』

 でも、俺に魔法は使えない。

 いや、待て。魔法そのものを作り出すんじゃない。この薬草から、「聖なる力を持つ何か」を作り出せばいい。

 俺はもう一度、手に持っていた葉っぱを強く握りしめた。今度は、薬に書き換えるんじゃない。この葉をすり潰して、そこから染み出すただの水分、ただの「汁」に意識を集中させる。

『この、ただの緑色の液体を……「あらゆる毒を浄化する、聖なる雫」に!』

 具体的な成分なんて分からない。でも、イメージはできる。清らかで、温かく、まばゆい光を放つ、一滴の液体。ルミナが苦しみから解放され、健やかな寝息を立てる姿を、強く、強く、心に描く。

『頼む……! ルミナを助けてくれ!』

 それは、もはや能力の行使というより、祈りに近かった。

 すると、俺の両手の中で、奇跡が起きた。

 握りしめた葉っぱから染み出した緑色の汁が、淡い光を放ち始めたのだ。その光は次第に強さを増し、やがて、手の隙間から漏れ出すほどの輝きを放つ。

 俺が恐る恐る手を開くと、そこには、一滴の雫があった。

 それは、まるで真珠のように白く輝き、温かい光を放っていた。見ているだけで、心が洗われるような、神々しいまでの液体。大きさは、パチンコ玉ほどだろうか。

『できた……!』

 俺は震える手でその雫をそっとすくい上げると、ぐったりとしているルミナの元へ駆け寄った。

 彼女の唇をそっとこじ開け、輝く雫を口の中へと含ませる。雫は、彼女の喉の奥へと、すっと吸い込まれていった。

 変化は、すぐに現れた。

 ルミナの身体を包むように、内側から柔らかな光があふれ出す。それは、彼女自身が聖光魔法を使う時と同じ、温かい光だった。

 紫に変色していた唇が、少しずつ血色を取り戻していく。荒かった呼吸は、次第に穏やかな寝息へと変わっていった。燃えるようだった熱も、ゆっくりと引いていくのが、彼女の額に当てた手から伝わってきた。

「……よかった」

 俺は、その場にへたり込んだ。全身から力が抜け、安堵から涙がこぼれそうになる。

 だが、まだ油断はできない。俺は念のため、近くで眠ることにした。焚き火を起こし、ルミナの身体が冷えないように毛布をかける。

 夜通し、俺は彼女のそばを離れなかった。時々、彼女がうわ言のように俺の名前を呼ぶのが聞こえた。そのたびに、俺は彼女の手を握り、「大丈夫だ」と声をかけ続けた。

 やがて、東の空が白み始め、森の木々の隙間から、朝の光が差し込んできた。

「……ん」

 小さな声がして、俺ははっと顔を上げた。

 ルミナが、ゆっくりと目を開けたところだった。

「ルミナ! 気づいたか!?」

「……カイ? 私……」

 彼女は、まだ少しぼんやりとした様子で、自分の身体に触れている。

「よかった……本当に、よかった……!」

 俺が心から安堵の声を漏らすと、ルミナは状況を思い出したのか、はっとした表情で俺を見た。

「私、毒に……。あなた、もしかして……」

「ああ。なんとか、なったみたいだ」

 俺は、昨夜の出来事をかいつまんで話した。俺が作り出した、光る雫のことを。

 ルミナは、信じられないという顔で俺の話を聞いていたが、やがて、その翠色の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「……ありがとう、カイ。また、あなたに命を救われたわね」

 その涙は、これまでの彼女が見せていた気丈さの奥に隠されていた、弱さの現れなのかもしれない。

「いいってことよ。俺たちは、パートナーだろう?」

 俺は照れ隠しにそう言って笑った。

 この一件を通じて、俺たちの絆は、また一つ、強く、そして深いものになった。互いが、互にとって、かけがえのない存在になっていることを、俺たちははっきりと自覚していた。
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