46 / 87
第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第13話「祈りと奇跡の雫」
しおりを挟む
『ダメだ、イメージができない……!』
「最高の解毒薬」という曖昧な概念では、この力は発動しないのかもしれない。複雑な化学式や薬効成分を持つ「薬」のようなものを、ゼロから生み出すのは無理なのか。
ルミナの呼吸が、さらに弱々しくなっていく。彼女の白い肌は、もはや土気色に変わり果てていた。
『何か、もっとシンプルなイメージで……。俺でも、はっきりと想像できるもの……』
その時、俺の脳裏に、ルミナが使っていた聖光魔法の輝きがよみがえった。
あの光は、邪を払い、傷を癒す力を持っていた。あれこそが、毒を浄化するのに最もふさわしい力じゃないのか。
『そうだ、光だ。ルミナの魔法みたいな、聖なる力……』
でも、俺に魔法は使えない。
いや、待て。魔法そのものを作り出すんじゃない。この薬草から、「聖なる力を持つ何か」を作り出せばいい。
俺はもう一度、手に持っていた葉っぱを強く握りしめた。今度は、薬に書き換えるんじゃない。この葉をすり潰して、そこから染み出すただの水分、ただの「汁」に意識を集中させる。
『この、ただの緑色の液体を……「あらゆる毒を浄化する、聖なる雫」に!』
具体的な成分なんて分からない。でも、イメージはできる。清らかで、温かく、まばゆい光を放つ、一滴の液体。ルミナが苦しみから解放され、健やかな寝息を立てる姿を、強く、強く、心に描く。
『頼む……! ルミナを助けてくれ!』
それは、もはや能力の行使というより、祈りに近かった。
すると、俺の両手の中で、奇跡が起きた。
握りしめた葉っぱから染み出した緑色の汁が、淡い光を放ち始めたのだ。その光は次第に強さを増し、やがて、手の隙間から漏れ出すほどの輝きを放つ。
俺が恐る恐る手を開くと、そこには、一滴の雫があった。
それは、まるで真珠のように白く輝き、温かい光を放っていた。見ているだけで、心が洗われるような、神々しいまでの液体。大きさは、パチンコ玉ほどだろうか。
『できた……!』
俺は震える手でその雫をそっとすくい上げると、ぐったりとしているルミナの元へ駆け寄った。
彼女の唇をそっとこじ開け、輝く雫を口の中へと含ませる。雫は、彼女の喉の奥へと、すっと吸い込まれていった。
変化は、すぐに現れた。
ルミナの身体を包むように、内側から柔らかな光があふれ出す。それは、彼女自身が聖光魔法を使う時と同じ、温かい光だった。
紫に変色していた唇が、少しずつ血色を取り戻していく。荒かった呼吸は、次第に穏やかな寝息へと変わっていった。燃えるようだった熱も、ゆっくりと引いていくのが、彼女の額に当てた手から伝わってきた。
「……よかった」
俺は、その場にへたり込んだ。全身から力が抜け、安堵から涙がこぼれそうになる。
だが、まだ油断はできない。俺は念のため、近くで眠ることにした。焚き火を起こし、ルミナの身体が冷えないように毛布をかける。
夜通し、俺は彼女のそばを離れなかった。時々、彼女がうわ言のように俺の名前を呼ぶのが聞こえた。そのたびに、俺は彼女の手を握り、「大丈夫だ」と声をかけ続けた。
やがて、東の空が白み始め、森の木々の隙間から、朝の光が差し込んできた。
「……ん」
小さな声がして、俺ははっと顔を上げた。
ルミナが、ゆっくりと目を開けたところだった。
「ルミナ! 気づいたか!?」
「……カイ? 私……」
彼女は、まだ少しぼんやりとした様子で、自分の身体に触れている。
「よかった……本当に、よかった……!」
俺が心から安堵の声を漏らすと、ルミナは状況を思い出したのか、はっとした表情で俺を見た。
「私、毒に……。あなた、もしかして……」
「ああ。なんとか、なったみたいだ」
俺は、昨夜の出来事をかいつまんで話した。俺が作り出した、光る雫のことを。
ルミナは、信じられないという顔で俺の話を聞いていたが、やがて、その翠色の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとう、カイ。また、あなたに命を救われたわね」
その涙は、これまでの彼女が見せていた気丈さの奥に隠されていた、弱さの現れなのかもしれない。
「いいってことよ。俺たちは、パートナーだろう?」
俺は照れ隠しにそう言って笑った。
この一件を通じて、俺たちの絆は、また一つ、強く、そして深いものになった。互いが、互にとって、かけがえのない存在になっていることを、俺たちははっきりと自覚していた。
「最高の解毒薬」という曖昧な概念では、この力は発動しないのかもしれない。複雑な化学式や薬効成分を持つ「薬」のようなものを、ゼロから生み出すのは無理なのか。
ルミナの呼吸が、さらに弱々しくなっていく。彼女の白い肌は、もはや土気色に変わり果てていた。
『何か、もっとシンプルなイメージで……。俺でも、はっきりと想像できるもの……』
その時、俺の脳裏に、ルミナが使っていた聖光魔法の輝きがよみがえった。
あの光は、邪を払い、傷を癒す力を持っていた。あれこそが、毒を浄化するのに最もふさわしい力じゃないのか。
『そうだ、光だ。ルミナの魔法みたいな、聖なる力……』
でも、俺に魔法は使えない。
いや、待て。魔法そのものを作り出すんじゃない。この薬草から、「聖なる力を持つ何か」を作り出せばいい。
俺はもう一度、手に持っていた葉っぱを強く握りしめた。今度は、薬に書き換えるんじゃない。この葉をすり潰して、そこから染み出すただの水分、ただの「汁」に意識を集中させる。
『この、ただの緑色の液体を……「あらゆる毒を浄化する、聖なる雫」に!』
具体的な成分なんて分からない。でも、イメージはできる。清らかで、温かく、まばゆい光を放つ、一滴の液体。ルミナが苦しみから解放され、健やかな寝息を立てる姿を、強く、強く、心に描く。
『頼む……! ルミナを助けてくれ!』
それは、もはや能力の行使というより、祈りに近かった。
すると、俺の両手の中で、奇跡が起きた。
握りしめた葉っぱから染み出した緑色の汁が、淡い光を放ち始めたのだ。その光は次第に強さを増し、やがて、手の隙間から漏れ出すほどの輝きを放つ。
俺が恐る恐る手を開くと、そこには、一滴の雫があった。
それは、まるで真珠のように白く輝き、温かい光を放っていた。見ているだけで、心が洗われるような、神々しいまでの液体。大きさは、パチンコ玉ほどだろうか。
『できた……!』
俺は震える手でその雫をそっとすくい上げると、ぐったりとしているルミナの元へ駆け寄った。
彼女の唇をそっとこじ開け、輝く雫を口の中へと含ませる。雫は、彼女の喉の奥へと、すっと吸い込まれていった。
変化は、すぐに現れた。
ルミナの身体を包むように、内側から柔らかな光があふれ出す。それは、彼女自身が聖光魔法を使う時と同じ、温かい光だった。
紫に変色していた唇が、少しずつ血色を取り戻していく。荒かった呼吸は、次第に穏やかな寝息へと変わっていった。燃えるようだった熱も、ゆっくりと引いていくのが、彼女の額に当てた手から伝わってきた。
「……よかった」
俺は、その場にへたり込んだ。全身から力が抜け、安堵から涙がこぼれそうになる。
だが、まだ油断はできない。俺は念のため、近くで眠ることにした。焚き火を起こし、ルミナの身体が冷えないように毛布をかける。
夜通し、俺は彼女のそばを離れなかった。時々、彼女がうわ言のように俺の名前を呼ぶのが聞こえた。そのたびに、俺は彼女の手を握り、「大丈夫だ」と声をかけ続けた。
やがて、東の空が白み始め、森の木々の隙間から、朝の光が差し込んできた。
「……ん」
小さな声がして、俺ははっと顔を上げた。
ルミナが、ゆっくりと目を開けたところだった。
「ルミナ! 気づいたか!?」
「……カイ? 私……」
彼女は、まだ少しぼんやりとした様子で、自分の身体に触れている。
「よかった……本当に、よかった……!」
俺が心から安堵の声を漏らすと、ルミナは状況を思い出したのか、はっとした表情で俺を見た。
「私、毒に……。あなた、もしかして……」
「ああ。なんとか、なったみたいだ」
俺は、昨夜の出来事をかいつまんで話した。俺が作り出した、光る雫のことを。
ルミナは、信じられないという顔で俺の話を聞いていたが、やがて、その翠色の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとう、カイ。また、あなたに命を救われたわね」
その涙は、これまでの彼女が見せていた気丈さの奥に隠されていた、弱さの現れなのかもしれない。
「いいってことよ。俺たちは、パートナーだろう?」
俺は照れ隠しにそう言って笑った。
この一件を通じて、俺たちの絆は、また一つ、強く、そして深いものになった。互いが、互にとって、かけがえのない存在になっていることを、俺たちははっきりと自覚していた。
18
あなたにおすすめの小説
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。
黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。
彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。
しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。
「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。
周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。
これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる