「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第36話「世界の理を書き換える」

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 俺が《概念編集》を発動させた瞬間、世界から音が消えた。

 ルミナの光とザルヴァークの闇がぶつかり合うその法則が、確かに書き換わったのを肌で感じた。
 変化はすぐに現れた。
 これまでザルヴァークの闇に押し返されていたルミナの光が、その勢いを失うどころか逆に闇の奔流を優しく包み込むように広がり始めたのだ。

「な……!? 何が起きている!?」

 ザルヴァークが狼狽の声を上げる。
 彼の闇の力はルミナの光を消滅させるのではなく、まるで雪が解けるようにその邪悪な性質を失い、純粋な魔力の粒子へと還元されていっている。
 攻撃が通用していない。
 いや、それどころか彼の力がルミナの力に吸収され、浄化されていっているのだ。

「馬鹿な……ありえん……! 我が主の力が、なぜ……!?」

 ザルヴァークが混乱している隙を、ルミナは見逃さなかった。

「……終わりです」

 彼女は静かにそう告げると光の剣を構え、一直線にザルヴァークへと突貫した。
 もはやザルヴァークにそれを防ぐ術はなかった。
 彼の放つ闇の魔力はルミナに触れる前に、全てが無力化されてしまう。

「やめろ……やめるのだ、聖女……!」

 ザルヴァークが初めて恐怖の声を上げた。
 ルミナの光の剣が、ザルヴァークの胸を深く貫いた。

「ぐ……あああああっ……!」

 ザルヴァークの身体から黒い靄のような邪気が、断末魔の叫びと共に噴き出す。
 それは彼がその身に宿していた、邪神の力の一部だった。
 邪気は天へと昇り、霧散していく。

 そして後に残されたのはボロボロになった黒いローブと砕け散った銀色の仮面。
 そしてその下に横たわる、一人のごく普通の人間の男の姿だった。
 顔には深いしわが刻まれ、その瞳からは狂信の光が消え、ただ虚ろな光だけが宿っていた。

「……なぜ……我は……」

 彼は何かを思い出したようにそうつぶやくと、静かに息を引き取った。
 邪神の力に魅入られ、その魂を食われていた哀れな魔術師の末路だった。

 静寂が戦場を支配する。
 大司教ザルヴァークの死。
 それはこの戦いの、事実上の終結を意味していた。

 指導者を失った教団の兵士たちが、口々に動揺と恐怖を叫びながら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
 剛腕のゲルドは信じられないものを見たという顔で立ち尽くし、シンとレンは顔を見合わせた後、音もなくその場から姿を消した。
 残された兵士たちをエルフの戦士たちが取り囲み、降伏させていく。

 こうしてエルドラナを襲った影の教団との激しい戦いは、俺たちの勝利で幕を閉じたのだった。
 だが俺はその勝利を素直に喜ぶことができなかった。

「……ぐっ……ぁ……」

 俺の身体は限界を超えていた。
 世界の理を書き換えるという禁忌の力を使った代償。
 全身の血管が切れ、意識が朦朧とする。
 視界が赤く染まっていく。

「カイ!」

 覚醒状態が解け元の姿に戻ったルミナが、俺の元へ駆け寄ってくる。
 彼女の心配そうな顔を見ながら、俺の意識は深い深い闇の中へと沈んでいった。
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