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第二章「最強になった俺と聖女様、世界の真の黒幕を倒しに行きます。」
第55話「敗北を越えて」
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遺跡の静寂が、俺たちの敗北の重さを物語っていた。
ボロボロの身体を引きずり、俺とルミナは地上へと続く階段を上った。
神殿の外はすでに夕暮れの茜色が砂漠を染め上げている。
入り口では心配そうに待っていた族長と正気を取り戻した大砂蟲(サンドワーム)が俺たちを迎えた。
「カイ殿、ルミナ殿! ご無事か!」
族長が駆け寄ってくるが、俺たちの憔悴しきった表情と遺跡から瘴気が消えているにも関わらず晴れない雰囲気から全てを察したようだった。
「……楔は奪われてしまいました。影の教団の残党に」
俺は絞り出すように報告した。
情けなさで顔が上げられない。
だが族長の反応は意外なものだった。
彼は俺たちを責めるどころか、そのしわくちゃの手で俺とルミナの手を力強く握りしめた。
「なんと……。じゃが君たちは我らの守り神を救い、この都市を絶望から救ってくださった。それだけで十分すぎる。我らは君たちに感謝こそすれ、責めることなど何もない」
その言葉に俺ははっと顔を上げた。
「さあ、今は傷を癒すことだけを考えなされ。我が屋敷でゆっくりと休むがよい」
族長の温かい言葉に、俺たちは甘えることにした。
***
屋敷の一室で、俺は薬草の湿布で手当てを受けながらベッドの上で天井を見上げていた。
身体の傷は癒えても心の傷はずきずきと痛んだ。
ただ強いだけでは勝てない。
シンとレンは俺たちの力を正面から受け止めるのではなく、策略をもって俺たちを出し抜き翻弄した。
俺は完全に彼らの脚本通りに動かされていただけだったのだ。
『俺の力は一体何なんだ……。こんなにも無力なのか』
《概念編集》という規格外の力を持っていながら、俺は結局何も守れなかった。
そんな無力感に心が沈んでいく。
「……カイ」
隣のベッドで同じく手当てを受けていたルミナが、静かに声をかけてきた。
「自分を責めないで」
「……でも、俺のせいだ。俺がもっとうまくやれていれば……」
「違うわ」
彼女は俺の言葉をきっぱりと否定した。
「これは私たち二人の敗北よ。あなた一人のせいじゃない。私も何もできなかった。だから……だから次は二人で勝つの」
彼女は痛む身体を起こすと俺のベッドのそばにやってきて、俺の手をそっと握った。
「あなたは一人じゃない。私もいる。一人で背負わないで。一緒に考えましょう。どうすればあいつらに勝てるのか」
その手の温もりが冷え切っていた俺の心にじんわりと染み渡っていく。
そうだ。
俺はいつの間にかまた一人で戦おうとしていたのかもしれない。
この力は俺一人のものだと思い上がっていたのかもしれない。
「……ああ。そうだな。ありがとう、ルミナ」
俺は彼女の手を強く握り返した。
敗北は終わりじゃない。
次への始まりなんだ。
俺たちはこの悔しさを絶対に忘れない。
***
翌日、心身ともにいくらか回復した俺たちは再び族長と向き合っていた。
俺は遺跡の祭壇で見た「過去の記憶」について詳しく話した。
「……なんと。ザルヴァークという男が遥か昔にこの地を襲い、本物の楔を持ち去っていたと……」
族長は驚愕に目を見開いた。
「ええ。一族に伝わる『大災厄』の言い伝えと完全に一致します。ですが、まさかその時に楔が……」
「では、シンとレンはどうやって『本物』の在り処を知ったんでしょうか」
ルミナの疑問に族長はしばらく考え込んだ後、はっとしたように顔を上げた。
「……そうか。『鍵』じゃ」
「鍵?」
「一族にもう一つ言い伝えがあるのです。『楔は、その場所を示す対となる鍵と共に封印された』と。おそらくザルヴァークは楔を持ち去る際に鍵だけをこの砂漠のどこかに隠したのかもしれん。シンたちは楔そのものではなく、その鍵を探し出し本物の在り処を突き止めたのじゃろう」
その推測は腑に落ちた。
敵は俺たちとは違うアプローチで楔に迫っているのだ。
その時、部屋の外がにわかに騒がしくなり、一人の兵士が伝令を携えて駆け込んできた。
「族長! ギルドからの緊急伝達です!」
渡された羊皮紙にはエルフの里で使われる特殊なインクで文字が記されていた。
エリアスからの俺たち宛の伝言だ。
ルミナがその内容を読み上げる。
「『世界の北、万年氷に閉ざされし『氷結海』にて大規模な地殻変動。海底より古の塔が出現せりとの報告あり。塔は紺碧の輝きを放ち、周囲に強力な魔力フィールドを展開中。おそらくは第四の楔の封印が何者かの干渉により解かれ始めている。急ぎ、現地へ向かわれたし』……!」
クリスタル・ドレイクのビジョン、『氷の海にそびえ立つ、紺碧の塔』
そして古文書の記述、『第四の楔は、紺碧の塔にて、世界の水の理を守護する』
全てが繋がった。
「奴らだ……! シンとレンがもう次の手を打ってきているんだ!」
俺は拳を握りしめた。
今度こそ先を越されるわけにはいかない。
「族長、俺たちをこの大陸で一番北の港町まで送り届けてもらえませんか?」
俺の真剣な眼差しに族長は力強くうなずいた。
「承知した。我が都市が誇る砂漠最速の船『サンドスキフ』を用意させよう。我らの希望を君たちに託す!」
俺はルミナと顔を見合わせた。
その瞳にはもう迷いはない。
「今度は俺たちが奴らの裏をかく番だ」
敗北の悔しさを次なる戦いへの糧に変えて。
俺たちの反撃の旅が今、始まる。
サンドスキフは風の力を受けて黄金色の砂の大海原を矢のように突き進んでいった。
ボロボロの身体を引きずり、俺とルミナは地上へと続く階段を上った。
神殿の外はすでに夕暮れの茜色が砂漠を染め上げている。
入り口では心配そうに待っていた族長と正気を取り戻した大砂蟲(サンドワーム)が俺たちを迎えた。
「カイ殿、ルミナ殿! ご無事か!」
族長が駆け寄ってくるが、俺たちの憔悴しきった表情と遺跡から瘴気が消えているにも関わらず晴れない雰囲気から全てを察したようだった。
「……楔は奪われてしまいました。影の教団の残党に」
俺は絞り出すように報告した。
情けなさで顔が上げられない。
だが族長の反応は意外なものだった。
彼は俺たちを責めるどころか、そのしわくちゃの手で俺とルミナの手を力強く握りしめた。
「なんと……。じゃが君たちは我らの守り神を救い、この都市を絶望から救ってくださった。それだけで十分すぎる。我らは君たちに感謝こそすれ、責めることなど何もない」
その言葉に俺ははっと顔を上げた。
「さあ、今は傷を癒すことだけを考えなされ。我が屋敷でゆっくりと休むがよい」
族長の温かい言葉に、俺たちは甘えることにした。
***
屋敷の一室で、俺は薬草の湿布で手当てを受けながらベッドの上で天井を見上げていた。
身体の傷は癒えても心の傷はずきずきと痛んだ。
ただ強いだけでは勝てない。
シンとレンは俺たちの力を正面から受け止めるのではなく、策略をもって俺たちを出し抜き翻弄した。
俺は完全に彼らの脚本通りに動かされていただけだったのだ。
『俺の力は一体何なんだ……。こんなにも無力なのか』
《概念編集》という規格外の力を持っていながら、俺は結局何も守れなかった。
そんな無力感に心が沈んでいく。
「……カイ」
隣のベッドで同じく手当てを受けていたルミナが、静かに声をかけてきた。
「自分を責めないで」
「……でも、俺のせいだ。俺がもっとうまくやれていれば……」
「違うわ」
彼女は俺の言葉をきっぱりと否定した。
「これは私たち二人の敗北よ。あなた一人のせいじゃない。私も何もできなかった。だから……だから次は二人で勝つの」
彼女は痛む身体を起こすと俺のベッドのそばにやってきて、俺の手をそっと握った。
「あなたは一人じゃない。私もいる。一人で背負わないで。一緒に考えましょう。どうすればあいつらに勝てるのか」
その手の温もりが冷え切っていた俺の心にじんわりと染み渡っていく。
そうだ。
俺はいつの間にかまた一人で戦おうとしていたのかもしれない。
この力は俺一人のものだと思い上がっていたのかもしれない。
「……ああ。そうだな。ありがとう、ルミナ」
俺は彼女の手を強く握り返した。
敗北は終わりじゃない。
次への始まりなんだ。
俺たちはこの悔しさを絶対に忘れない。
***
翌日、心身ともにいくらか回復した俺たちは再び族長と向き合っていた。
俺は遺跡の祭壇で見た「過去の記憶」について詳しく話した。
「……なんと。ザルヴァークという男が遥か昔にこの地を襲い、本物の楔を持ち去っていたと……」
族長は驚愕に目を見開いた。
「ええ。一族に伝わる『大災厄』の言い伝えと完全に一致します。ですが、まさかその時に楔が……」
「では、シンとレンはどうやって『本物』の在り処を知ったんでしょうか」
ルミナの疑問に族長はしばらく考え込んだ後、はっとしたように顔を上げた。
「……そうか。『鍵』じゃ」
「鍵?」
「一族にもう一つ言い伝えがあるのです。『楔は、その場所を示す対となる鍵と共に封印された』と。おそらくザルヴァークは楔を持ち去る際に鍵だけをこの砂漠のどこかに隠したのかもしれん。シンたちは楔そのものではなく、その鍵を探し出し本物の在り処を突き止めたのじゃろう」
その推測は腑に落ちた。
敵は俺たちとは違うアプローチで楔に迫っているのだ。
その時、部屋の外がにわかに騒がしくなり、一人の兵士が伝令を携えて駆け込んできた。
「族長! ギルドからの緊急伝達です!」
渡された羊皮紙にはエルフの里で使われる特殊なインクで文字が記されていた。
エリアスからの俺たち宛の伝言だ。
ルミナがその内容を読み上げる。
「『世界の北、万年氷に閉ざされし『氷結海』にて大規模な地殻変動。海底より古の塔が出現せりとの報告あり。塔は紺碧の輝きを放ち、周囲に強力な魔力フィールドを展開中。おそらくは第四の楔の封印が何者かの干渉により解かれ始めている。急ぎ、現地へ向かわれたし』……!」
クリスタル・ドレイクのビジョン、『氷の海にそびえ立つ、紺碧の塔』
そして古文書の記述、『第四の楔は、紺碧の塔にて、世界の水の理を守護する』
全てが繋がった。
「奴らだ……! シンとレンがもう次の手を打ってきているんだ!」
俺は拳を握りしめた。
今度こそ先を越されるわけにはいかない。
「族長、俺たちをこの大陸で一番北の港町まで送り届けてもらえませんか?」
俺の真剣な眼差しに族長は力強くうなずいた。
「承知した。我が都市が誇る砂漠最速の船『サンドスキフ』を用意させよう。我らの希望を君たちに託す!」
俺はルミナと顔を見合わせた。
その瞳にはもう迷いはない。
「今度は俺たちが奴らの裏をかく番だ」
敗北の悔しさを次なる戦いへの糧に変えて。
俺たちの反撃の旅が今、始まる。
サンドスキフは風の力を受けて黄金色の砂の大海原を矢のように突き進んでいった。
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