異世界で「節分」始めました。~聖なる大豆と恵方巻で、痩せた荒野を最強の農園国家に作り替えます~

黒崎隼人

文字の大きさ
3 / 16

第2話「浄化の一投、農業は爆発だ」

 赤鬼を追い払ってから数時間が過ぎた。

 太陽は西に傾き始め、空は茜色と紫色のグラデーションに染まっている。異世界の夕暮れは美しくも、どこか寂しさを漂わせていた。

 私は廃村の一角にある、屋根が比較的残っている小屋を拠点に決めた。雨風をしのぐには十分だろう。

 まずは状況整理だ。

 私が持っているのは、不思議な力を持つ一粒の大豆。そして、謎のスキル【節分】。

 先ほどの戦闘で分かったことは、【鬼は外】というアビリティが、対魔物用の攻撃手段であるということだ。それも、尋常ではない威力を持っている。

 だが、攻撃手段だけでは腹は満たせない。

 私は小屋の外に出た。先ほど赤鬼を倒して浄化された場所へ向かう。

 直径3メートルほどの円形に、黒々とした土が広がっていた。触れてみると、ふかふかとしていて温かい。微生物が活発に活動している証拠だ。

「これなら、作物が育つかもしれない」

 しかし、種がない。私の手元にあるのは、あの一粒の大豆だけだ。これを食べてしまえば、一時の空腹は満たせるかもしれないが、そこで終わりだ。

 未来を考えれば、これを種として植えるべきだ。

 だが、もし芽が出なかったら? 鳥に食べられたら?

 農家の息子としての理性が葛藤する。リスクが高すぎる。

 その時、脳内の表示が切り替わった。

『アビリティ:【福は内】が使用可能です』

『対象:大豆(聖なる種子)』

『効果:成長促進、豊穣の加護、幸運付与』

「……福は内、だと?」

 文字から察するに、これは強化系の能力だろうか。

 私は決めた。この豆を植えよう。この不思議なスキルを信じてみるしかない。

 私は手近な木の棒を使って、浄化された土に小さな穴を掘った。深さは指一本分ほど。そこに大切に大豆を置く。

「頼むぞ。お前が俺の希望だ」

 土を優しくかぶせ、井戸から汲んできた水を少しだけかける。

 そして、私は両手を合わせて祈るように唱えた。

「福はぁ、内っ!」

 その瞬間だった。

 ボウッ!

 土の中から、柔らかな金色の光が溢れ出した。光は柱となって天に伸び、周囲の空気を震わせる。

 まるでSF映画のワンシーンだ。私は光のまぶしさに目を細めた。

 光が収まると、そこには信じられない光景があった。

 土が盛り上がり、可愛らしい双葉が顔を出したかと思うと、見る見るうちに茎が伸び、葉が茂っていく。早送り映像を見ているようだ。

 膝の高さまで伸び、腰の高さまで届き、やがて私の背丈を超えるほどの立派な大豆の木へと成長した。

 いや、大豆の木とは言わないか。だが、茎の太さは子供の腕ほどもあり、青々とした葉が風に揺れている。

「嘘だろ……一瞬で成長した?」

 しかも、それだけではない。

 葉の間には、無数の鞘がぶら下がっていた。パンパンに膨らんだ、実入りの良さそうな枝豆だ。

 通常、大豆の栽培には数ヶ月かかる。それが、ほんの数秒で収穫段階まで至ったのだ。

『【福は内】の効果により、超速栽培に成功しました』

『初回ボーナス:収穫物の品質が【SSS】に固定されます』

 とんでもないチートだ。

 私は震える手で、一番大きな鞘をもぎ取った。

 ずしりと重い。表面の産毛がチクチクとして、生命力を主張している。

 鞘を割ると、中から鮮やかな緑色の豆が三粒、顔を出した。宝石のように輝いている。

 たまらず、一粒を口に放り込む。生だが、鑑定スキルもどきが大丈夫だと言っていた気がする。

 カリッ。

 心地よい歯ごたえと共に、口の中いっぱいに広がる強烈な旨味。

 甘い。とにかく甘いのだ。栗のような濃厚な甘みと、大豆特有の香ばしい風味が鼻に抜ける。青臭さは少しもない。

「うまいッ!」

 空腹だった身体に、活力が染み渡っていくのがわかる。疲れが吹き飛び、視界がクリアになった。

 私は無心で残りの豆も食べた。たった三粒食べただけなのに、カツ丼を大盛りで食べた後のような満腹感と幸福感に包まれた。

「これが、異世界の枝豆……いや、聖なる大豆か」

 私は目の前にそびえ立つ大豆の木を見上げた。ここには、まだ数百、いや数千の豆がついている。

 これなら生きていける。いや、ただ生きるだけじゃない。

 この豆があれば、この死んだ土地をよみがえらせ、豊かな農園を作ることができるかもしれない。

 希望の光が見えた気がした。

 だが、人生そううまくはいかないのが世の常だ。

 ガサガサッ。

 背後の茂みから、再び不穏な音が聞こえてきた。

 今度は一匹ではない。複数の気配。

 振り返ると、夕闇の中に赤い目がいくつも光っていた。

 赤鬼の群れだ。先ほど倒したやつの仲間だろうか、あるいは、この濃厚な「豆の香り」に誘われてきたのか。

 数は十匹以上。

「おいおい、いきなりクライマックスかよ」

 私は苦笑いを浮かべた。だが、不思議と恐怖はない。

 なぜなら、今の私には弾薬(まめ)が山ほどあるからだ。

 私は大豆の木から、手頃な鞘をいくつかむしり取った。中身を取り出し、手のひらに乗せる。

 十数粒の、SSSランクの聖なる大豆。

 赤鬼たちが一斉に襲いかかってくる。

「晩飯の邪魔をするやつは、この農夫ハルトが許さん!」

 私は大きく振りかぶり、叫んだ。

「鬼はぁ、外ォォォォォッ!」

 夜の荒野に、豆のマシンガンが火を吹いた。

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています