異世界で「節分」始めました。~聖なる大豆と恵方巻で、痩せた荒野を最強の農園国家に作り替えます~

黒崎隼人

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第2話「浄化の一投、農業は爆発だ」

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 赤鬼を追い払ってから数時間が過ぎた。

 太陽は西に傾き始め、空は茜色と紫色のグラデーションに染まっている。異世界の夕暮れは美しくも、どこか寂しさを漂わせていた。

 私は廃村の一角にある、屋根が比較的残っている小屋を拠点に決めた。雨風をしのぐには十分だろう。

 まずは状況整理だ。

 私が持っているのは、不思議な力を持つ一粒の大豆。そして、謎のスキル【節分】。

 先ほどの戦闘で分かったことは、【鬼は外】というアビリティが、対魔物用の攻撃手段であるということだ。それも、尋常ではない威力を持っている。

 だが、攻撃手段だけでは腹は満たせない。

 私は小屋の外に出た。先ほど赤鬼を倒して浄化された場所へ向かう。

 直径3メートルほどの円形に、黒々とした土が広がっていた。触れてみると、ふかふかとしていて温かい。微生物が活発に活動している証拠だ。

「これなら、作物が育つかもしれない」

 しかし、種がない。私の手元にあるのは、あの一粒の大豆だけだ。これを食べてしまえば、一時の空腹は満たせるかもしれないが、そこで終わりだ。

 未来を考えれば、これを種として植えるべきだ。

 だが、もし芽が出なかったら? 鳥に食べられたら?

 農家の息子としての理性が葛藤する。リスクが高すぎる。

 その時、脳内の表示が切り替わった。

『アビリティ:【福は内】が使用可能です』

『対象:大豆(聖なる種子)』

『効果:成長促進、豊穣の加護、幸運付与』

「……福は内、だと?」

 文字から察するに、これは強化系の能力だろうか。

 私は決めた。この豆を植えよう。この不思議なスキルを信じてみるしかない。

 私は手近な木の棒を使って、浄化された土に小さな穴を掘った。深さは指一本分ほど。そこに大切に大豆を置く。

「頼むぞ。お前が俺の希望だ」

 土を優しくかぶせ、井戸から汲んできた水を少しだけかける。

 そして、私は両手を合わせて祈るように唱えた。

「福はぁ、内っ!」

 その瞬間だった。

 ボウッ!

 土の中から、柔らかな金色の光が溢れ出した。光は柱となって天に伸び、周囲の空気を震わせる。

 まるでSF映画のワンシーンだ。私は光のまぶしさに目を細めた。

 光が収まると、そこには信じられない光景があった。

 土が盛り上がり、可愛らしい双葉が顔を出したかと思うと、見る見るうちに茎が伸び、葉が茂っていく。早送り映像を見ているようだ。

 膝の高さまで伸び、腰の高さまで届き、やがて私の背丈を超えるほどの立派な大豆の木へと成長した。

 いや、大豆の木とは言わないか。だが、茎の太さは子供の腕ほどもあり、青々とした葉が風に揺れている。

「嘘だろ……一瞬で成長した?」

 しかも、それだけではない。

 葉の間には、無数の鞘がぶら下がっていた。パンパンに膨らんだ、実入りの良さそうな枝豆だ。

 通常、大豆の栽培には数ヶ月かかる。それが、ほんの数秒で収穫段階まで至ったのだ。

『【福は内】の効果により、超速栽培に成功しました』

『初回ボーナス:収穫物の品質が【SSS】に固定されます』

 とんでもないチートだ。

 私は震える手で、一番大きな鞘をもぎ取った。

 ずしりと重い。表面の産毛がチクチクとして、生命力を主張している。

 鞘を割ると、中から鮮やかな緑色の豆が三粒、顔を出した。宝石のように輝いている。

 たまらず、一粒を口に放り込む。生だが、鑑定スキルもどきが大丈夫だと言っていた気がする。

 カリッ。

 心地よい歯ごたえと共に、口の中いっぱいに広がる強烈な旨味。

 甘い。とにかく甘いのだ。栗のような濃厚な甘みと、大豆特有の香ばしい風味が鼻に抜ける。青臭さは少しもない。

「うまいッ!」

 空腹だった身体に、活力が染み渡っていくのがわかる。疲れが吹き飛び、視界がクリアになった。

 私は無心で残りの豆も食べた。たった三粒食べただけなのに、カツ丼を大盛りで食べた後のような満腹感と幸福感に包まれた。

「これが、異世界の枝豆……いや、聖なる大豆か」

 私は目の前にそびえ立つ大豆の木を見上げた。ここには、まだ数百、いや数千の豆がついている。

 これなら生きていける。いや、ただ生きるだけじゃない。

 この豆があれば、この死んだ土地をよみがえらせ、豊かな農園を作ることができるかもしれない。

 希望の光が見えた気がした。

 だが、人生そううまくはいかないのが世の常だ。

 ガサガサッ。

 背後の茂みから、再び不穏な音が聞こえてきた。

 今度は一匹ではない。複数の気配。

 振り返ると、夕闇の中に赤い目がいくつも光っていた。

 赤鬼の群れだ。先ほど倒したやつの仲間だろうか、あるいは、この濃厚な「豆の香り」に誘われてきたのか。

 数は十匹以上。

「おいおい、いきなりクライマックスかよ」

 私は苦笑いを浮かべた。だが、不思議と恐怖はない。

 なぜなら、今の私には弾薬(まめ)が山ほどあるからだ。

 私は大豆の木から、手頃な鞘をいくつかむしり取った。中身を取り出し、手のひらに乗せる。

 十数粒の、SSSランクの聖なる大豆。

 赤鬼たちが一斉に襲いかかってくる。

「晩飯の邪魔をするやつは、この農夫ハルトが許さん!」

 私は大きく振りかぶり、叫んだ。

「鬼はぁ、外ォォォォォッ!」

 夜の荒野に、豆のマシンガンが火を吹いた。
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