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第十六話:彼女の選択
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静まり返った応接室に、私の声が凛と響いた。
「薬は、お渡ししましょう」
その言葉に、宰相は安堵と驚きの入り混じった表情を浮かべた。隣に立つカイル様は、何も言わずに私を見つめている。彼の瞳は、私のどんな決断も受け入れると語っていた。
私は続けた。
「ただし、それは王家のためでも、私を陥れた貴族たちのためでもありません。罪もなく病に苦しんでいる、民のためです」
きっぱりと言い切る私に、宰相は再び深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!エリアーナ様、そのご慈悲、終生忘れませぬ……!」
「ですが、タダでお渡しするわけにはいきません」
私は冷徹なほどに、こちらの要求を突きつけた。
「薬の対価として、三つのことを要求します。一つ、このヴァレリウス公爵領における、完全な自治権の承認。今後、王家および中央政府は、当領地の内政に一切干渉しないことを誓約していただきます」
これは、カイル様とこの領地を守るための絶対条件だ。宰相は一瞬ためらったが、国の存亡がかかっている今、否とは言えない。
「……承知いたしました」
「二つ。私、エリアーナ・フォン・クラウゼルに関する全ての罪状の撤回と、名誉の完全な回復。そして、私の実家であるクラウゼル家の爵位と財産の返還。これは当然の権利です」
「も、もちろんでございます!」
宰相は、必死に頷いた。
「そして、三つ目。これらの条件が履行された後、王家は二度と私、並びにヴァレリウス公爵家に干渉しないこと。私たちに、平穏な生活を保証すると誓ってください」
私たちが望むのは、権力でも富でもない。ただ、この愛する土地で、愛する人々と静かに暮らしていくことだ。
私の毅然とした態度と、理路整然とした要求に、宰相はもはや反論の余地もなかった。彼は全ての条件を飲むことを約束し、正式な契約書を交わした。
その全てのやり取りを、カイル様は誇らしげな、そしてこの上なく愛おしそうな目で見守っていた。
かつて、全てを奪われ、一方的に追放されたか弱い令嬢は、もうここにはいない。
私は、自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分の大切なものを守るために戦うことができる。
この地で、カイル様という絶対的な味方を得て、私は強くなれたのだ。
交渉を終え、疲れ果てて王都へ帰っていく使者の馬車を見送りながら、私はカイル様と二人、静かに寄り添っていた。
逆転劇の幕は、今、上がったのだ。
「薬は、お渡ししましょう」
その言葉に、宰相は安堵と驚きの入り混じった表情を浮かべた。隣に立つカイル様は、何も言わずに私を見つめている。彼の瞳は、私のどんな決断も受け入れると語っていた。
私は続けた。
「ただし、それは王家のためでも、私を陥れた貴族たちのためでもありません。罪もなく病に苦しんでいる、民のためです」
きっぱりと言い切る私に、宰相は再び深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!エリアーナ様、そのご慈悲、終生忘れませぬ……!」
「ですが、タダでお渡しするわけにはいきません」
私は冷徹なほどに、こちらの要求を突きつけた。
「薬の対価として、三つのことを要求します。一つ、このヴァレリウス公爵領における、完全な自治権の承認。今後、王家および中央政府は、当領地の内政に一切干渉しないことを誓約していただきます」
これは、カイル様とこの領地を守るための絶対条件だ。宰相は一瞬ためらったが、国の存亡がかかっている今、否とは言えない。
「……承知いたしました」
「二つ。私、エリアーナ・フォン・クラウゼルに関する全ての罪状の撤回と、名誉の完全な回復。そして、私の実家であるクラウゼル家の爵位と財産の返還。これは当然の権利です」
「も、もちろんでございます!」
宰相は、必死に頷いた。
「そして、三つ目。これらの条件が履行された後、王家は二度と私、並びにヴァレリウス公爵家に干渉しないこと。私たちに、平穏な生活を保証すると誓ってください」
私たちが望むのは、権力でも富でもない。ただ、この愛する土地で、愛する人々と静かに暮らしていくことだ。
私の毅然とした態度と、理路整然とした要求に、宰相はもはや反論の余地もなかった。彼は全ての条件を飲むことを約束し、正式な契約書を交わした。
その全てのやり取りを、カイル様は誇らしげな、そしてこの上なく愛おしそうな目で見守っていた。
かつて、全てを奪われ、一方的に追放されたか弱い令嬢は、もうここにはいない。
私は、自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分の大切なものを守るために戦うことができる。
この地で、カイル様という絶対的な味方を得て、私は強くなれたのだ。
交渉を終え、疲れ果てて王都へ帰っていく使者の馬車を見送りながら、私はカイル様と二人、静かに寄り添っていた。
逆転劇の幕は、今、上がったのだ。
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