追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人

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番外編2「ジャガイモ王子と、はじまりのスープ」

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 王都の一室で、アルフォンスは鏡に映る自分の顔を見て、何度目かもわからない溜息をついた。
 そこにあるのは、かつての端正な王子の面影ではなく、ゴツゴツとして土の匂いがしそうな、紛れもない一つの『ジャガイモ』だった。
 聖獣の悪戯…いや、天罰というべきか。あの日以来、私の顔はこのままだ。

「殿下、お食事をお持ちいたしました」
 扉の向こうから、ソフィアの控えめな声が聞こえる。
「入れ」
 不機嫌に答えながら、アルフォンスは鏡から目をそらした。

 罪悪感からか、ソフィアは甲斐甲斐しく俺の世話を焼いている。
 彼女が嘘をついたせいで、俺はエリナを追放し、国宝級のスキルを持つ彼女を敵に回した。そして、この醜い顔になった。
 当初は彼女に当たり散らしたものだが、日に日にやつれていく彼女の姿を見ているうちに、怒りの矛先を見失ってしまった。悪いのは、彼女の言葉を鵜呑みにし、エリナという人間を全く見ようとしなかった、この俺自身なのだ。

 その日、ソフィアが運んできたのは、湯気の立つ一杯のスープだった。
「宰相閣下から、辺境の村の作物が届けられました。エリナ様からの、お見舞いだそうです」
「…あいつからだと?」
 アルフォンスは眉をひそめた。自分を追放した男に情けをかけるとは。侮辱のつもりか。

「飲みませんかっ!」
 頑なに口を開かないアルフォンスに、ソフィアが涙ながらに訴えた。
「これは…私が、殿下のために作ったんです。どうか、一口だけでも…」
 その必死な瞳に気圧され、アルフォンスは渋々スプーンを手に取った。

 スープを口に含んだ瞬間、驚きに目を見開いた。
 優しい甘みが、体中に染み渡っていく。これは…カブか。だが、今まで食べたどんなカブよりも、温かく、滋味深い味がした。
 それは、王宮の豪華な食事では決して感じることのできない、素朴で、純粋な大地の恵みの味だった。
 気づけば、アルフォンスの目から一筋の涙がこぼれ落ちていた。

「…うまい」
 その一言を絞り出すのが、やっとだった。

 それから毎日、アルフォンスはソフィアが作る、エリナの育てた野菜のスープを飲み続けた。
 不思議なことに、ジャガイモの顔は元のようには戻らなかった。
 だが、彼の心は穏やかになっていった。自分の過ちと向き合い、国の未来を真剣に考えるようになった。

 ある日、彼はソフィアに言った。
「宰相閣下に伝えてくれ。私はもう、公務に復帰すると。この顔のままでな」
 驚くソフィアに、彼は少しだけ笑って見せた。ジャガイモの顔が、ほんの少しだけ優しく見えた。
「この顔は、私の愚かさの証だ。これからの人生、この顔と共に、国民のために尽くそうと思う」

 王宮に、ジャガイモの顔をした王子が戻ってきた。
 人々は驚き、ある者は嘲笑した。だが、以前の傲慢さは消え、民の声に真摯に耳を傾けるようになった彼の姿に、次第に評価は変わっていった。

 彼の傍らには、いつも彼を支えるソフィアがいた。
 二人が王宮の片隅で、温かいスープを分け合って飲む姿は、新たな王都の日常となった。エリナが辺境で耕した小さな畑が、遠く離れた王都にも、確かな変革の種を蒔いたのだった。
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