悪役令嬢は辺境で農業革命を起こす~追放された私が知識チートで会社を作り、気づけば国ごと豊かにしちゃいました~

黒崎隼人

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第2章:新たな舞台と最初の絶望

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 王都を出てから数日、馬車の窓から見える景色は日に日に彩りを失っていった。手入れの行き届いた豊かな森は途切れ、ごつごつとした岩肌が目立つ荒涼とした原野がどこまでも続いている。リリアーナを乗せた馬車がたどり着いたのは、地図の上でかろうじてその名が記されているだけの、小さな辺境の村だった。

 村は、まるで時が止まったかのようだった。家々は古びて傾き、畑は雑草に覆われ、収穫の喜びなど遠い過去の記憶であるかのように見える。道行く村人たちの顔には生気がなく、その痩せた体は、この土地の貧しさを何よりも雄弁に物語っていた。

 馬車が村の広場で止まると、村人たちが遠巻きに集まってきた。しかし、その目に好奇心はあっても、歓迎の色はない。むしろ、追放されてきた「悪役令嬢」に対する警戒と、厄介者が来たとでも言いたげな侮蔑が混じっていた。

「お待ちしておりました、リリアーナ様」

 村長と名乗る老人が、しわがれた声で言った。彼の態度は形式的で、その瞳の奥には諦観の色が浮かんでいる。村長はリリアーナを、村の最も奥まった場所に立つ一軒の屋敷へと案内した。そこが、今日から彼女の住まいとなる場所だった。

 かつては公爵家の別荘として使われていたというその屋敷は、言葉を失うほどに荒れ果てていた。蔦が壁を覆い尽くし、屋根には穴が開き、窓ガラスはほとんどが割れて風が吹き込んでいる。庭は背の高い雑草に占領され、かつての美しい面影はどこにもなかった。

「こちらが、リリアーナ様のお住まいになります。食料や生活に必要なものは、ご自分でどうにかしてください。我々には、貴族様のお世話をする余裕はございませんので」

 村長はそれだけを言い放つと、さっさと背を向けて村人たちと共に去っていった。まるで、厄介払いでもするかのように。

 一人、がらんとした屋敷の前に取り残されたリリアーナは、大きく息を吸い込んだ。鼻をつくのは、埃とカビの混じった、淀んだ空気。前世の記憶が蘇っていなければ、この絶望的な状況に泣き崩れていたかもしれない。しかし、今の彼女は違った。

(なるほど、これは手強い)

 だが、それがどうしたというのだ。リリアーナの瞳には、挑戦者の光が宿っていた。前世のOL時代、ゼロから新規プロジェクトを立ち上げた経験が何度もある。予算なし、人材なし、納期は無茶苦茶。それに比べれば、土地と建物があるだけマシというものだ。

 彼女はまず、ドレスの裾をたくし上げ、屋敷の中へと足を踏み入れた。予想通り、中は埃と蜘蛛の巣だらけだった。しかし、幸いなことに、リリアーナには僅かながら生活魔法の素質があった。貴族の令嬢としてはお遊び程度とされていた「清掃」や「修復」の魔法が、今、これほど役に立つ日が来るとは。

「クリーン!」

 呪文を唱えると、魔力がふわりと広がり、床の埃を舞い上がらせる。一度に広範囲は無理だが、少しずつ、着実に。リリアーナは、前世で覚えた大掃除の知識を思い出しながら、効率的に清掃を進めていく。窓を開けて空気を入れ替え、壊れた家具を魔法で応急処置し、寝室として使えそうな一部屋を徹底的に磨き上げた。

 日が暮れる頃には、屋敷の一角だけが、かろうじて人間が住める空間へと生まれ変わっていた。体は泥だらけで、魔力もほとんど残っていない。それでも、リリアーナの心は達成感で満たされていた。

 清掃の合間に、彼女は屋敷の裏手に広がる荒れ地を調べていた。雑草に覆われているが、土を手に取ってみると、意外にも黒く、しっとりとしている。前世で趣味でやっていた家庭菜園の知識が、この土は死んでいないと告げていた。

(この土地で、農業を始める)

 それが、この異世界で生きていくための、彼女の最初の計画だった。自分の食べるものを、自分の手で作り出す。これほど確かなことはない。

 数日後、屋敷の片付けが一段落し、リリアーナは食料を調達するために村へ向かった。村人たちの視線は相変わらず冷たかったが、彼女は気にしなかった。なけなしの金で買った黒パンをかじりながら、彼女は村の様子を改めて観察する。畑は荒れ、人々は痩せている。この村が貧しい理由は、単に土地が痩せているからだけではないはずだ。農業技術が、あまりにも古く、非効率なのだ。

 リリアーナの心に、新たな目標が灯った。まずは自分の生活を立て直す。そして、この村を、この土地を、私の知識で豊かにしてみせる。それは、かつて「悪役令嬢」として国を陰から操ろうとしたのとは全く違う、真っ当で、胸を張れる野心だった。

 辺境の地での孤独な挑戦が、今、静かに幕を開けた。
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