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第5話「聖樹の村と、芽生える気持ち」
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リアムの商会が私の野菜を取り扱うようになってから、辺境の村は驚くべき速さで変化を遂げていた。
リアムは私の野菜を「女神の恵み」というブランド名で各地に売り出した。その効果は絶大で、たちまち王都の富裕層や、健康を気遣う貴族たちの間で大評判となったのだ。高値で売れる作物は村に莫大な富をもたらし、その利益は村の発展のために使われた。
古びた家は修繕され、新しい道が作られ、村には活気が満ちあふれていく。痩せた土地で日々の糧を得るのがやっとだった村人たちは、今では皆、明るい笑顔で暮らしている。
さらに、私の野菜の噂を聞きつけた人々が、次々とこの村を訪れるようになった。病に苦しむ者、新しい技術を持つ職人、様々な事情を抱えた者たち。私は彼らを拒まず、村人たちと相談して受け入れていった。
かつては「見捨てられた土地」と呼ばれたこの村は、いつしか「聖樹の村」と呼ばれるようになり、多くの人々が希望を求めて集まる、巡礼地のような場所へと変わっていったのだ。
私は相変わらず、毎日畑に出て土をいじっているだけ。なのに、周りの環境はどんどん変わっていく。なんだか不思議な気分だった。
「すごいわ、リアムさん。あなたが来てから、村がすっかり生まれ変わったみたい」
ある日の夕暮れ時、畑のそばの丘から村を眺めながら、私は隣に立つリアムに言った。
「僕一人の力ではありませんよ。全ては、アリアさんがこの地に奇跡をもたらしたからです」
リアムは穏やかに微笑むと、私の肩にそっと彼の上着をかけた。夕方の風は少し肌寒い。
「僕はただ、その奇跡を多くの人に届けただけです」
彼のさりげない優しさに、また胸が温かくなる。最近、リアムがそばにいると、心臓が少しうるさくなるのを感じていた。
「それでも、あなたが販路を切り開いてくれなければ、この村は今も寂れたままだったわ。本当に感謝しています」
「礼を言われる筋合いはありません。これは僕にとっても大きな商いですから」
リアムはそう言って悪戯っぽく笑うが、彼の目が私をどれだけ大切に思ってくれているかを物語っていた。彼はいつもそうだ。私が何かを望む前に、先回りして全てを整えてくれる。畑仕事に必要な道具が古くなれば、どこからか最高品質の物を取り寄せてくれるし、私が珍しい作物を育ててみたいと呟けば、次の日にはその種が届けられる。
まるで、私の専属の魔法使いのようだ。
(……これって、ちょっと甘やかされすぎじゃないかしら?)
自覚はあった。リアムの存在は、いつの間にか私の中でとても大きなものになっていた。彼が村に来る日は心が弾み、帰る日は少しだけ寂しくなる。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、リアムは以前よりも頻繁に村を訪れるようになった。商会の仕事が忙しいはずなのに、彼は時間を見つけては私の畑に顔を出し、私の話に耳を傾けてくれる。
ある時、リアムが真剣な顔で私に言った。
「アリアさん。あなたの身の安全のため、腕の立つ護衛を雇いませんか? この村は豊かになりましたが、それを快く思わない者たちが現れないとも限りません」
「護衛なんて、そんな大げさな……」
「大げさではありません。あなたは、この村の宝だ。あなたに何かあっては、僕が困る」
強い口調で言う彼の瞳は、商売人としてのものではなく、一人の男性としての真剣な光を宿していた。その視線に射抜かれて、私は何も言えなくなってしまう。
「それに……僕がいない間、あなたが心配で仕事に集中できないんです」
最後は少しだけ弱々しい声で付け加えられ、私の心臓は大きく跳ねた。
(それって、どういう意味……?)
鈍感な私でも、さすがに気づかざるを得ない。彼が私に寄せている感情の正体に。
結局、私は彼の申し出を受け入れ、元騎士だという腕利きの男性が、私の護衛兼農作業の手伝いをしてくれることになった。彼は口数は少ないが誠実な人で、モカともすぐに仲良くなった。
人が増え、村はますます賑やかになる。私は頼れる仲間たちに囲まれ、充実した毎日を送っていた。
リアムとの関係も、少しずつ変わろうとしている。私たちはまだ、その一線を越えてはいないけれど、お互いの心の中に同じ気持ちが芽生えているのを、確かに感じていた。
今は、この穏やかで幸せな日々が、ずっと続けばいい。私は沈みゆく夕日を見ながら、ただそう願っていた。
しかし、この時の私は知らなかった。私たちが築き上げたこの小さな楽園に、王都から暗い影が忍び寄っていることを。そして、この穏やかな日々が、そう長くは続かないということを。
リアムは私の野菜を「女神の恵み」というブランド名で各地に売り出した。その効果は絶大で、たちまち王都の富裕層や、健康を気遣う貴族たちの間で大評判となったのだ。高値で売れる作物は村に莫大な富をもたらし、その利益は村の発展のために使われた。
古びた家は修繕され、新しい道が作られ、村には活気が満ちあふれていく。痩せた土地で日々の糧を得るのがやっとだった村人たちは、今では皆、明るい笑顔で暮らしている。
さらに、私の野菜の噂を聞きつけた人々が、次々とこの村を訪れるようになった。病に苦しむ者、新しい技術を持つ職人、様々な事情を抱えた者たち。私は彼らを拒まず、村人たちと相談して受け入れていった。
かつては「見捨てられた土地」と呼ばれたこの村は、いつしか「聖樹の村」と呼ばれるようになり、多くの人々が希望を求めて集まる、巡礼地のような場所へと変わっていったのだ。
私は相変わらず、毎日畑に出て土をいじっているだけ。なのに、周りの環境はどんどん変わっていく。なんだか不思議な気分だった。
「すごいわ、リアムさん。あなたが来てから、村がすっかり生まれ変わったみたい」
ある日の夕暮れ時、畑のそばの丘から村を眺めながら、私は隣に立つリアムに言った。
「僕一人の力ではありませんよ。全ては、アリアさんがこの地に奇跡をもたらしたからです」
リアムは穏やかに微笑むと、私の肩にそっと彼の上着をかけた。夕方の風は少し肌寒い。
「僕はただ、その奇跡を多くの人に届けただけです」
彼のさりげない優しさに、また胸が温かくなる。最近、リアムがそばにいると、心臓が少しうるさくなるのを感じていた。
「それでも、あなたが販路を切り開いてくれなければ、この村は今も寂れたままだったわ。本当に感謝しています」
「礼を言われる筋合いはありません。これは僕にとっても大きな商いですから」
リアムはそう言って悪戯っぽく笑うが、彼の目が私をどれだけ大切に思ってくれているかを物語っていた。彼はいつもそうだ。私が何かを望む前に、先回りして全てを整えてくれる。畑仕事に必要な道具が古くなれば、どこからか最高品質の物を取り寄せてくれるし、私が珍しい作物を育ててみたいと呟けば、次の日にはその種が届けられる。
まるで、私の専属の魔法使いのようだ。
(……これって、ちょっと甘やかされすぎじゃないかしら?)
自覚はあった。リアムの存在は、いつの間にか私の中でとても大きなものになっていた。彼が村に来る日は心が弾み、帰る日は少しだけ寂しくなる。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、リアムは以前よりも頻繁に村を訪れるようになった。商会の仕事が忙しいはずなのに、彼は時間を見つけては私の畑に顔を出し、私の話に耳を傾けてくれる。
ある時、リアムが真剣な顔で私に言った。
「アリアさん。あなたの身の安全のため、腕の立つ護衛を雇いませんか? この村は豊かになりましたが、それを快く思わない者たちが現れないとも限りません」
「護衛なんて、そんな大げさな……」
「大げさではありません。あなたは、この村の宝だ。あなたに何かあっては、僕が困る」
強い口調で言う彼の瞳は、商売人としてのものではなく、一人の男性としての真剣な光を宿していた。その視線に射抜かれて、私は何も言えなくなってしまう。
「それに……僕がいない間、あなたが心配で仕事に集中できないんです」
最後は少しだけ弱々しい声で付け加えられ、私の心臓は大きく跳ねた。
(それって、どういう意味……?)
鈍感な私でも、さすがに気づかざるを得ない。彼が私に寄せている感情の正体に。
結局、私は彼の申し出を受け入れ、元騎士だという腕利きの男性が、私の護衛兼農作業の手伝いをしてくれることになった。彼は口数は少ないが誠実な人で、モカともすぐに仲良くなった。
人が増え、村はますます賑やかになる。私は頼れる仲間たちに囲まれ、充実した毎日を送っていた。
リアムとの関係も、少しずつ変わろうとしている。私たちはまだ、その一線を越えてはいないけれど、お互いの心の中に同じ気持ちが芽生えているのを、確かに感じていた。
今は、この穏やかで幸せな日々が、ずっと続けばいい。私は沈みゆく夕日を見ながら、ただそう願っていた。
しかし、この時の私は知らなかった。私たちが築き上げたこの小さな楽園に、王都から暗い影が忍び寄っていることを。そして、この穏やかな日々が、そう長くは続かないということを。
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