ブラック企業勤めで過労死した元社畜、インプに転生して無限体力で魔王軍をブラック企業からホワイト企業に大改革!

黒崎隼人

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番外編「豪将、有給休暇の過ごし方に悩む」

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 人間との和平条約締結後、魔王軍には「週休二日制」と「有給休暇」という画期的な制度が、本格的に導入された。
 ケントが作ったこの制度は、末端の兵士たちにはおおむね好評だった。
 しかし、長年戦いに明け暮れてきた幹部クラス、特に四天王のゴードンにとっては、全く理解不能なものだった。

「ゆうきゅうきゅうか……? 金を貰って、休むだと……?」

 執務室で、部下から有給休暇の申請書を受け取ったゴードンは、眉間に深いしわを寄せた。

「ゴードン様も、そろそろ一度、休暇をお取りになってはいかがですか? 『改革者様』……いえ、ケント最高経済顧問も、幹部から率先して制度を利用すべきだとおっしゃっていました」

 副官の言葉に、ゴードンは唸った。
 ケントの言うことには、絶対の信頼を置いている。
 彼が言うのなら、何か意味があるのだろう。

「……わかった。ならば、明日は一日、休むとしよう」

 こうして、ゴードンは生まれて初めての「有給休暇」を取得することになった。
 翌朝。ゴードンは、いつものように夜明けと共に目を覚ました。
 しかし、今日は訓練もなければ会議もない。
 何をすればいいのか、全くわからなかった。
 とりあえず、愛用の巨大な戦斧を手に取り素振りを始める。いつもの日課だ。
 しかし、一時間もするとやることがなくなってしまった。

『いかん、暇だ……。暇すぎる……』

 ゴードンは執務室をうろつき始めた。
 机の上には、書類が一つもない。ケントが導入した新しい業務フローによって、書類仕事は大幅に削減されていたからだ。
 彼は、城下町に出てみることにした。
 町は、和平がもたらした活気に満ち溢れていた。
 人間と魔族が同じ店で談笑し、子供たちが種族の垣根なく走り回っている。
 以前の、殺伐とした雰囲気はどこにもない。

『これも、ケント殿の功績か……』

 ゴードンは感慨深く思いながら、市場を歩く。
 しかし、特に買いたいものもない。彼は、戦うこと以外にほとんど興味がなかったのだ。
 ふと、一軒の酒場が目に入った。中からは、楽しそうな声が聞こえてくる。
 彼は、吸い寄せられるように中へ入った。
 昼間だというのに、酒場は多くの客で賑わっていた。
 そのほとんどが、休日を楽しんでいる魔王軍の兵士たちだった。

「お、あれはゴードン将軍じゃないか?」
「本当だ! 将軍も、今日はお休みなんですか?」

 兵士たちに気づかれ、ゴードンは少し居心地の悪さを感じた。
 しかし、彼らは恐縮するどころか親しげに話しかけてくる。

「将軍も一杯どうです? ここのエールは最高ですよ!」

 ゴードンは、勧められるままに席に着き、エールを注文した。
 兵士たちはゴードンを囲んで、最近の戦果や新しく導入された福利厚生について、楽しそうに語り合った。

「新しい食堂の飯、うまいよな!」
「ああ! それに、休日があるおかげで故郷の家族に会いに行けるのが、一番嬉しいね」
「分かる! 子供が、とても喜んでくれるんだ。」

 兵士たちの屈託のない笑顔を見て、ゴードンはケントが言っていた言葉を思い出していた。

『適度な休息は、組織への忠誠心も高める。これは、我々にとって非常に有益な投資です』

 ゴードンは、その意味がようやく少しだけわかったような気がした。
 兵士たちのこの笑顔こそが、軍の強さの源泉なのだと。
 彼は、出されたエールを豪快に飲み干した。

「うまいな、この酒は!」

 その日、ゴードンは一日中、部下たちと酒を酌み交わし、他愛もない話に花を咲かせた。
 戦の話は、一切しなかった。
 夕暮れ時、すっかり酔いの回ったゴードンは、千鳥足で城への帰路についた。

『なるほど……。これが、ゆうきゅうきゅうか、か。悪くない……』

 彼は、空を見上げて満足げにつぶやいた。
 翌日。執務室でケントと顔を合わせたゴードンは、少し照れくさそうに言った。

「ケント殿。休暇、実に有意義だったぞ」
「それはようございました。リフレッシュできましたか?」
「うむ。ところで、一つ提案なのだが……」

 ゴードンは、真剣な顔でケントに言った。

「あの酒場のエールを、軍の食堂でも出すことはできんか? あれは、兵士の士気をさらに高めると思うのだが」

 その言葉に、ケントは笑顔でうなずいた。

「素晴らしいご提案です、ゴードン将軍。さすが、現場をよく見ていらっしゃる。早速、導入に向けて検討しましょう」

 ゴードンは、自分の意見が認められたことが嬉しくて、子供のようにはにかんだ。
 彼は、戦うこと以外にも自分にできることがあると知った。
 部下の生活を考え、より良い環境を作る。
 それもまた、将軍の重要な仕事なのだと。
 ゴードンの初めての有給休暇は、彼に新たな気づきを与える、貴重な一日となったのだった。
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