チートスキル【万物育成】を授かったので、追放先の辺境で気ままな農業スローライフを始めたら、無愛想だったはずの領主様からの溺愛が止まりません。

黒崎隼人

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第2章:痩せた土地と無愛想な領主

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 長い、長い馬車の旅だった。王都の華やかな街並みは遠い昔の夢のように消え去り、窓の外の景色は日に日に荒涼としたものへと変わっていく。そして数週間後、ついにセレスティーナを乗せた馬車は、目的地であるアッシュベリー辺境領に到着した。

 馬車を降りた彼女の目に映ったのは、想像を絶する光景だった。
 乾ききった大地はひび割れ、生命力の乏しい雑草がまばらに生えているだけ。風が吹くたびに乾いた砂埃が舞い上がり、目を細めなければ立っていられないほどだ。点在する家々は古びて傾きかけ、道行く領民たちは皆、痩せて顔色が悪く、その目には希望の光がまるで宿っていなかった。

 これが、私の新しい住まい。
 あまりの惨状に愕然としながらも、セレスティーナは背筋を伸ばした。ここで絶望している暇はない。彼女は護送の兵士に案内されるまま、領地で唯一、石造りのしっかりとした建物である領主の館へと向かった。

 館の中で彼女を待っていたのは、この地の若き領主、カイン・アシュベリーだった。
 腰まで届く長い黒髪を無造作に一つに束ね、鋭い銀の瞳はまるで研ぎ澄まされた刃のようだ。質素だが上質な黒い服に身を包んだ彼は、年の頃はセレスティーナとそう変わらないように見えたが、彼が纏う空気は、凍てつく冬の風のように冷ややかだった。

「……王都の姫君が、このような吹き溜まりに何の用だ」

 彼の最初の言葉は、棘を含んでいた。歓迎の色など微塵もなく、明らかにセレスティーナを厄介者と見なしている。
 セレスティーナは、この男が王都の貴族を嫌っていることを瞬時に察した。彼の瞳の奥には、深い不信感が渦巻いている。

「追放の身となりましたセレスティーナ・フォン・ヴァイスフルトと申します。本日より、この地でお世話になります」

 彼女は貴族としての完璧な礼をしたが、カインは眉一つ動かさなかった。

「世話をするつもりはない。お前のような贅沢に慣れた女が、この地で一日だって生きていけるとは思えん」

 彼の言葉は辛辣だったが、セレスティーナはここで引き下がるわけにはいかなかった。過去、中央の貴族に利用され、苦い経験をしたのかもしれない。彼の不信感は、彼がこの地を守ろうとしてきた証なのだ。そう思うと、不思議と彼の冷たさが気にならなかった。

 彼女は顔を上げ、カインの鋭い銀の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。そして、はっきりと宣言する。

「この土地を、わたくしに貸していただけませんでしょうか」
「……何だと?」

 カインの眉が、わずかに動いた。

「必ずや、この痩せた土地を、黄金色の穂が揺れる豊かな土地に変えてみせます。わたくしには、その知識があります」

 突拍子もない申し出に、カインは呆れたように鼻で笑った。

「戯言を。王都の令嬢が土いじりだと? お遊びのつもりなら、よそでやれ」
「遊びではございません。本気です」

 セレスティーナの瞳には、揺るぎない光が宿っていた。その真剣な眼差しに、カインは何かを感じずにはいられない。彼の知る王都の女たちは、皆、虚飾と欲望にまみれた目をしていた。だが、目の前の女の瞳は、どこまでも澄んでいた。

 どうせ使い道もなく、何年も放置されている荒れ地だ。何をしようが、これ以上悪くなることもないだろう。

「……好きにしろ」

 カインは吐き捨てるように言うと、窓の外を顎で示した。

「館から少し離れた場所に、打ち捨てられた小屋と荒れ地がある。そこを使え。だが、食い扶持は自分で稼いでもらう。甘ったれたことを抜かせば、即刻叩き出す」

 それは許可とは名ばかりの、突き放した言葉だった。しかし、セレスティーナにとっては千金の価値がある許可だった。

「ありがとうございます、アシュベリーさま!」

 彼女は深々と頭を下げ、早速その土地へと向かった。与えられたのは、館から歩いて十分ほどの場所にある、本当にただの荒れ地だった。石がごろごろと転がり、固く乾いた土は、素人目に見ても作物が育つとは思えない。

 それでも、セレスティーナは躊躇なく、追放の道中で汚れたドレスのスカートの裾をまくり上げ、膝をついた。そして、乾いた土を両手ですくい上げる。
 前世の記憶が囁く。この土は、栄養が足りない。水分も、微生物も。でも、死んではいない。

 その瞬間、彼女の脳内に、天啓のような声がはっきりと響いた。
『スキル【万物育成(ガイアズ・ブレス)】が完全覚醒しました』

 手のひらの中で、淡い緑色の光が溢れ出す。光に包まれた土が、まるで呼吸を始めたかのように、温かい生命力を帯びていく。乾いていた土がしっとりと潤い、指の間からこぼれる感触が変わっていった。

「……大丈夫。この土は、必ず生き返る」

 セレスティーナは、希望に満ちた心からの笑顔を浮かべた。
 その様子を、領主の館の窓からカイン・アシュベリーが静かに見つめていることに、彼女はまだ気づいていなかった。彼の銀の瞳に、ほんのわずかな興味の色が浮かんでいたことも。
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