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第2話「腹ペコお嬢様と銀シャリ」
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街の中は活気に溢れていたが、少し観察すると景気の良し悪しがはっきりと見えてきた。
中央の大通りに面した店はどれも豪華絢爛で、肥え太った商人たちが偉そうに客を呼び込んでいる。看板には「黄金商会」の文字が目立つ。どうやらこの街の経済を牛耳っている大手らしい。
一方で、路地裏に入るとシャッターの下りた店が目立つ。
俺が探しているのは、大手ではない。これから伸びる、あるいは崖っぷちで藁にもすがりたいような店だ。
ふらふらと歩いていると、一軒の古びた店が目に入った。
看板には『銀の葉商会』とあるが、塗装が剥げて読みづらい。店先には埃をかぶった木箱が並び、商品はまばらだ。
そして、店の前のベンチに、一人の少女が座り込んでいた。
年齢は十六、七といったところか。亜麻色の髪をポニーテールにし、仕立ての良い服を着ているが、どこかくたびれている。
何より気になったのは、彼女のお腹が盛大な音を立てたことだ。
「ぐぅぅ~……」
少女は顔を真っ赤にして、お腹を押さえた。周囲を見回し、誰もいないことを確認してため息をつく。
「お腹すいた……」
独り言が漏れている。
チャンスだ。俺は努めて爽やかな笑顔を作り、彼女に近づいた。
「いい音ですね」
「ひゃっ!?」
少女は飛び上がり、姿勢を正してこちらを睨んだ。
「な、な、何ですかあなたは! 盗み聞きなんて下品ですよ!」
「いや、あれだけの音量なら通りの向こうまで聞こえますよ」
「ううっ……」
少女は涙目になってうつむいた。
「お客様ですか? 見ての通り、うちはもう売るものがあまりないんですけど」
「客じゃないです。商談に来ました」
「商談?」
彼女は怪訝な顔で俺の服装を見た。どう見ても貧乏な農民だ。
「俺はカイ。農家をやってます。珍しい作物が取れたんで、扱ってくれる店を探してるんです」
「……うちはもう、新しい仕入れをする資金なんてありませんよ。従業員にもお給料を払うのがやっとで」
彼女は自嘲気味に笑った。
「父が病気で倒れてから、大手の商会に販路を奪われてしまって。もう店を畳もうかと思ってるんです」
絵に描いたような没落令嬢だ。条件は完璧に近い。
「資金はいりません。まずは味見をしてほしい」
俺は背負っていた麻袋を下ろし、葉っぱに包んでおいた「あれ」を取り出した。
まだほんのりと温かい。
包みを開くと、真っ白なご飯を握っただけの、塩おにぎりが現れた。
少女――リリアナは目を丸くした。
「白い……何ですかこれ? 宝石?」
「食べ物です。『米』と言います。まずは食べてみてください」
リリアナはおそるおそるおにぎりを手に取った。
温かさと、米の香りに鼻をひくつかせる。そして、小さな口で一口かじった。
もぐもぐと咀嚼し、飲み込む。
その瞬間、彼女の瞳に光が宿った。
「……んんっ!」
二口目からは早かった。あっという間に一つを食べ終え、指についた米粒まで舐めとる勢いだ。
「おいしい! 何これ、パンみたいにパサパサしてないし、甘くて、モチモチしてて……こんな穀物、食べたことありません!」
「でしょうね。俺が作った新品種ですから」
「これ、売れます! 絶対に売れます! スープに浸してもいいし、肉料理の付け合わせにも最高です!」
リリアナは興奮して立ち上がり、俺の手を握った。
「お願いします、カイさん! この『米』、うちで独占販売させてください! これがあれば、銀の葉商会は復活できるかもしれません!」
食いつきは上々だ。
だが、俺の目的はただ米を売ることではない。
「いいですよ。ただし、条件があります」
「条件? 売り上げの七割とか言わないでくださいね……」
「利益は折半でいい。その代わり、俺がこれから作る『新商品』の開発と販売に、全面的に協力してほしいんです」
「新商品? この米を使った料理ですか?」
「ええ。まあ、ちょっと変わった形をしてますが」
俺はニヤリと笑った。
「方角を気にする料理、とでも言っておきましょうか」
「はあ……?」
リリアナは首を傾げたが、腹ペコの彼女に拒否権はない。
こうして俺は、落ち目の商会という最高の拠点を手に入れた。
***
店の中に案内されると、そこには屈強な大男が一人、寂しそうにカウンターを磨いていた。
「お嬢、お帰り。……そいつは?」
「テオ、お客さんよ。というか、新しいビジネスパートナーのカイさん」
テオと呼ばれた男は、俺を値踏みするようにじろじろと見た。
「こんなひょろっとした男がか? お嬢、また悪い男に騙されてるんじゃねえか?」
「失礼ね! カイさんはすごい農家さんなのよ!」
リリアナが先ほどのおにぎりの感動を熱弁する。
俺は麻袋から、今度はトマトやキュウリを取り出してカウンターに並べた。
「俺のスキルで作った野菜です。味見をどうぞ」
テオは疑い深そうにキュウリを一本取り、ポリポリとかじった。
「……!」
言葉はいらないらしい。彼は無言で二本目に手を伸ばした。
「信じてもらえました?」
「ああ。……こんな瑞々しい野菜、王族でも食えねえぞ」
テオは俺に向き直り、深く頭を下げた。
「疑って悪かった。お嬢を助けてくれるなら、俺も全力で協力する」
単純でいい奴だ。こういう筋肉担当は必要不可欠だ。
これで生産、販売、流通(力仕事)のラインが揃った。
俺はいよいよ、本題である「恵方巻計画」の第一歩を踏み出すことにした。
まずは素材集めだ。米はある。具材の野菜もある。
足りないのは、酢と、そして何より重要な黒いシート――海苔だ。
「リリアナ、この辺りで黒くて薄い、紙みたいな海草を見たことはないか? 川でもいい」
「黒い紙みたいな草……? そんな気味の悪いもの、食べるんですか?」
リリアナが顔をしかめた。
前途多難である。
中央の大通りに面した店はどれも豪華絢爛で、肥え太った商人たちが偉そうに客を呼び込んでいる。看板には「黄金商会」の文字が目立つ。どうやらこの街の経済を牛耳っている大手らしい。
一方で、路地裏に入るとシャッターの下りた店が目立つ。
俺が探しているのは、大手ではない。これから伸びる、あるいは崖っぷちで藁にもすがりたいような店だ。
ふらふらと歩いていると、一軒の古びた店が目に入った。
看板には『銀の葉商会』とあるが、塗装が剥げて読みづらい。店先には埃をかぶった木箱が並び、商品はまばらだ。
そして、店の前のベンチに、一人の少女が座り込んでいた。
年齢は十六、七といったところか。亜麻色の髪をポニーテールにし、仕立ての良い服を着ているが、どこかくたびれている。
何より気になったのは、彼女のお腹が盛大な音を立てたことだ。
「ぐぅぅ~……」
少女は顔を真っ赤にして、お腹を押さえた。周囲を見回し、誰もいないことを確認してため息をつく。
「お腹すいた……」
独り言が漏れている。
チャンスだ。俺は努めて爽やかな笑顔を作り、彼女に近づいた。
「いい音ですね」
「ひゃっ!?」
少女は飛び上がり、姿勢を正してこちらを睨んだ。
「な、な、何ですかあなたは! 盗み聞きなんて下品ですよ!」
「いや、あれだけの音量なら通りの向こうまで聞こえますよ」
「ううっ……」
少女は涙目になってうつむいた。
「お客様ですか? 見ての通り、うちはもう売るものがあまりないんですけど」
「客じゃないです。商談に来ました」
「商談?」
彼女は怪訝な顔で俺の服装を見た。どう見ても貧乏な農民だ。
「俺はカイ。農家をやってます。珍しい作物が取れたんで、扱ってくれる店を探してるんです」
「……うちはもう、新しい仕入れをする資金なんてありませんよ。従業員にもお給料を払うのがやっとで」
彼女は自嘲気味に笑った。
「父が病気で倒れてから、大手の商会に販路を奪われてしまって。もう店を畳もうかと思ってるんです」
絵に描いたような没落令嬢だ。条件は完璧に近い。
「資金はいりません。まずは味見をしてほしい」
俺は背負っていた麻袋を下ろし、葉っぱに包んでおいた「あれ」を取り出した。
まだほんのりと温かい。
包みを開くと、真っ白なご飯を握っただけの、塩おにぎりが現れた。
少女――リリアナは目を丸くした。
「白い……何ですかこれ? 宝石?」
「食べ物です。『米』と言います。まずは食べてみてください」
リリアナはおそるおそるおにぎりを手に取った。
温かさと、米の香りに鼻をひくつかせる。そして、小さな口で一口かじった。
もぐもぐと咀嚼し、飲み込む。
その瞬間、彼女の瞳に光が宿った。
「……んんっ!」
二口目からは早かった。あっという間に一つを食べ終え、指についた米粒まで舐めとる勢いだ。
「おいしい! 何これ、パンみたいにパサパサしてないし、甘くて、モチモチしてて……こんな穀物、食べたことありません!」
「でしょうね。俺が作った新品種ですから」
「これ、売れます! 絶対に売れます! スープに浸してもいいし、肉料理の付け合わせにも最高です!」
リリアナは興奮して立ち上がり、俺の手を握った。
「お願いします、カイさん! この『米』、うちで独占販売させてください! これがあれば、銀の葉商会は復活できるかもしれません!」
食いつきは上々だ。
だが、俺の目的はただ米を売ることではない。
「いいですよ。ただし、条件があります」
「条件? 売り上げの七割とか言わないでくださいね……」
「利益は折半でいい。その代わり、俺がこれから作る『新商品』の開発と販売に、全面的に協力してほしいんです」
「新商品? この米を使った料理ですか?」
「ええ。まあ、ちょっと変わった形をしてますが」
俺はニヤリと笑った。
「方角を気にする料理、とでも言っておきましょうか」
「はあ……?」
リリアナは首を傾げたが、腹ペコの彼女に拒否権はない。
こうして俺は、落ち目の商会という最高の拠点を手に入れた。
***
店の中に案内されると、そこには屈強な大男が一人、寂しそうにカウンターを磨いていた。
「お嬢、お帰り。……そいつは?」
「テオ、お客さんよ。というか、新しいビジネスパートナーのカイさん」
テオと呼ばれた男は、俺を値踏みするようにじろじろと見た。
「こんなひょろっとした男がか? お嬢、また悪い男に騙されてるんじゃねえか?」
「失礼ね! カイさんはすごい農家さんなのよ!」
リリアナが先ほどのおにぎりの感動を熱弁する。
俺は麻袋から、今度はトマトやキュウリを取り出してカウンターに並べた。
「俺のスキルで作った野菜です。味見をどうぞ」
テオは疑い深そうにキュウリを一本取り、ポリポリとかじった。
「……!」
言葉はいらないらしい。彼は無言で二本目に手を伸ばした。
「信じてもらえました?」
「ああ。……こんな瑞々しい野菜、王族でも食えねえぞ」
テオは俺に向き直り、深く頭を下げた。
「疑って悪かった。お嬢を助けてくれるなら、俺も全力で協力する」
単純でいい奴だ。こういう筋肉担当は必要不可欠だ。
これで生産、販売、流通(力仕事)のラインが揃った。
俺はいよいよ、本題である「恵方巻計画」の第一歩を踏み出すことにした。
まずは素材集めだ。米はある。具材の野菜もある。
足りないのは、酢と、そして何より重要な黒いシート――海苔だ。
「リリアナ、この辺りで黒くて薄い、紙みたいな海草を見たことはないか? 川でもいい」
「黒い紙みたいな草……? そんな気味の悪いもの、食べるんですか?」
リリアナが顔をしかめた。
前途多難である。
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