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第4話「幸運を呼ぶ『丸かぶり』伝説」
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「いいか、リリアナ。人は味に金を払うんじゃない。情報と体験に金を払うんだ」
俺は店内の黒板に、作戦計画を書き殴った。
前世のコンビニ時代、恵方巻商戦は戦争だった。大量の廃棄ロスと戦いながら、いかに客に「これを食べなきゃ損をする」と思わせるか。そのノウハウを今こそ発揮するときだ。
「まず、この太巻きの名前を決める。『福巻き』だ。シンプルでいいだろ」
「福巻き……。縁起が良さそうですね」
「そして、食べ方にルールを設ける。これが重要だ」
俺は人差し指を立てた。
「その一、今年の『吉方位』を向くこと」
リリアナが不思議そうに繰り返す。
「吉方位?」
「神様がいる方向だと思えばいい。俺が適当に決める。今年は……北北西のやや西、ということにしておこう」
「適当なんですか!?」
「その二、願い事を頭に浮かべながら食べること。その三、食べている間は一言も喋ってはいけない」
「……なんで喋っちゃダメなんですか?」
リリアナがもっともな疑問を口にする。
「喋ると運が逃げるからだ。それに、無言で一本食べ切るのは意外と苦しい。それが一種の苦行となり、達成感を生む。つまり『ご利益がありそう』な気分にさせるんだ」
俺の説明に、リリアナとテオは顔を見合わせた。
「カイさんって、たまに詐欺師みたいですよね」
「人聞きの悪い。演出と言ってくれ。さあ、練習だ」
俺は試作した太巻きを二人に手渡した。
「北北西のやや西はあっちだ。壁のシミを目印にしろ。いいか、絶対に口をきくなよ」
「うう、なんか緊張してきました」
「いただきます」
テオとリリアナが、黒い太巻きを両手で持ち、神妙な顔で壁に向かって立ち尽くす。
そして、ガブリ。
静寂が店内を包む。聞こえるのはモグモグという咀嚼音だけ。
テオの厳つい顔が、必死に太巻きと格闘している。リリアナはリスのように頬を膨らませ、上目遣いでチラチラと俺を見ている。
シュールだ。あまりにもシュールな光景だ。
俺は笑いをこらえるのに必死だった。これが街中で流行れば、絶対に面白いことになる。
数分後、ようやく二人が食べ終えた。
「んぐっ……ご、ごちそうさまでした!」
リリアナが大きく息を吐く。
「苦しかったー! でも、なんか楽しいですねこれ。お願い事、叶う気がします」
「だろ? その『気がする』が大事なんだ」
「俺は『給料が上がりますように』って願ったぞ」
テオ、お前の願いは切実だな。
準備は整った。
翌日から、俺たちは街中にビラを撒いた。
『近日発売! 古来より伝わる幻の開運料理【福巻き】』
『今年の吉方位を向いて無言で食べれば、どんな願いも叶う!?』
『銀の葉商会にて、限定百本販売!』
嘘ではない。「古来より(俺の前世の世界で)伝わる」だし、「(もしかしたら)叶う」だ。ギリギリ誇大広告ではないラインを攻める。
さらに、俺はテオに頼んで、街の井戸端会議の中心人物であるおばちゃんたちに噂を流してもらった。
「なんでも、隣町の病気だった子供が、あの黒い棒を食べたら治ったらしいわよ」
「商売敵が失敗して、店が大繁盛したって話も聞いたわ」
いわゆるステルスマーケティングだ。異世界にネットはないが、口コミの力は絶大だ。
そして発売前日。
店の前には、すでに数人の物好きが様子を見に来ていた。
「本当に願いが叶うのか?」
「さあな。でも、銀の葉商会の娘が最近元気になったのは、あれを食べたかららしいぞ」
噂が噂を呼び、期待値は高まっている。
だが、問題は黄金商会だ。
店の中にいると、不意にドアが開け放たれ、嫌味な笑い声を上げた男が入ってきた。
「おいおい、潰れかけの店が何やら騒がしいと思ったら、ゴミを売る準備か?」
派手な服を着た小太りの男。ガルド支店長だ。
後ろには強面の用心棒を二人連れている。
「ガルドさん……。ゴミとは失礼ですね。これは由緒ある料理です」
リリアナが毅然と言い返す。
ガルドは鼻で笑い、カウンターに置かれた太巻きの見本を指先でつついた。
「黒くて気味の悪い棒だ。こんなものをありがたがって食うなんて、街の連中も焼きが回ったな。おとなしく店を畳めば、借金をチャラにしてやるって言ってるのに」
「お断りします! 私たちはこの福巻きで復活しますから!」
「ふん、強がりを。まあいい、明日の開店を楽しみにしているぞ。客が一人も来なくて泣きっ面をかくのをな」
ガルドは高笑いを残して去っていった。
典型的な悪役ムーブに、俺は逆に安心した。
「リリアナ、心配するな。あんな奴に負けたりしない」
「カイさん……はい! 私、信じてます!」
フラグは立った。あとは回収するだけだ。
俺は厨房に戻り、明日の決戦に向けて米を研ぎ始めた。
明日は忙しくなるぞ。
俺は店内の黒板に、作戦計画を書き殴った。
前世のコンビニ時代、恵方巻商戦は戦争だった。大量の廃棄ロスと戦いながら、いかに客に「これを食べなきゃ損をする」と思わせるか。そのノウハウを今こそ発揮するときだ。
「まず、この太巻きの名前を決める。『福巻き』だ。シンプルでいいだろ」
「福巻き……。縁起が良さそうですね」
「そして、食べ方にルールを設ける。これが重要だ」
俺は人差し指を立てた。
「その一、今年の『吉方位』を向くこと」
リリアナが不思議そうに繰り返す。
「吉方位?」
「神様がいる方向だと思えばいい。俺が適当に決める。今年は……北北西のやや西、ということにしておこう」
「適当なんですか!?」
「その二、願い事を頭に浮かべながら食べること。その三、食べている間は一言も喋ってはいけない」
「……なんで喋っちゃダメなんですか?」
リリアナがもっともな疑問を口にする。
「喋ると運が逃げるからだ。それに、無言で一本食べ切るのは意外と苦しい。それが一種の苦行となり、達成感を生む。つまり『ご利益がありそう』な気分にさせるんだ」
俺の説明に、リリアナとテオは顔を見合わせた。
「カイさんって、たまに詐欺師みたいですよね」
「人聞きの悪い。演出と言ってくれ。さあ、練習だ」
俺は試作した太巻きを二人に手渡した。
「北北西のやや西はあっちだ。壁のシミを目印にしろ。いいか、絶対に口をきくなよ」
「うう、なんか緊張してきました」
「いただきます」
テオとリリアナが、黒い太巻きを両手で持ち、神妙な顔で壁に向かって立ち尽くす。
そして、ガブリ。
静寂が店内を包む。聞こえるのはモグモグという咀嚼音だけ。
テオの厳つい顔が、必死に太巻きと格闘している。リリアナはリスのように頬を膨らませ、上目遣いでチラチラと俺を見ている。
シュールだ。あまりにもシュールな光景だ。
俺は笑いをこらえるのに必死だった。これが街中で流行れば、絶対に面白いことになる。
数分後、ようやく二人が食べ終えた。
「んぐっ……ご、ごちそうさまでした!」
リリアナが大きく息を吐く。
「苦しかったー! でも、なんか楽しいですねこれ。お願い事、叶う気がします」
「だろ? その『気がする』が大事なんだ」
「俺は『給料が上がりますように』って願ったぞ」
テオ、お前の願いは切実だな。
準備は整った。
翌日から、俺たちは街中にビラを撒いた。
『近日発売! 古来より伝わる幻の開運料理【福巻き】』
『今年の吉方位を向いて無言で食べれば、どんな願いも叶う!?』
『銀の葉商会にて、限定百本販売!』
嘘ではない。「古来より(俺の前世の世界で)伝わる」だし、「(もしかしたら)叶う」だ。ギリギリ誇大広告ではないラインを攻める。
さらに、俺はテオに頼んで、街の井戸端会議の中心人物であるおばちゃんたちに噂を流してもらった。
「なんでも、隣町の病気だった子供が、あの黒い棒を食べたら治ったらしいわよ」
「商売敵が失敗して、店が大繁盛したって話も聞いたわ」
いわゆるステルスマーケティングだ。異世界にネットはないが、口コミの力は絶大だ。
そして発売前日。
店の前には、すでに数人の物好きが様子を見に来ていた。
「本当に願いが叶うのか?」
「さあな。でも、銀の葉商会の娘が最近元気になったのは、あれを食べたかららしいぞ」
噂が噂を呼び、期待値は高まっている。
だが、問題は黄金商会だ。
店の中にいると、不意にドアが開け放たれ、嫌味な笑い声を上げた男が入ってきた。
「おいおい、潰れかけの店が何やら騒がしいと思ったら、ゴミを売る準備か?」
派手な服を着た小太りの男。ガルド支店長だ。
後ろには強面の用心棒を二人連れている。
「ガルドさん……。ゴミとは失礼ですね。これは由緒ある料理です」
リリアナが毅然と言い返す。
ガルドは鼻で笑い、カウンターに置かれた太巻きの見本を指先でつついた。
「黒くて気味の悪い棒だ。こんなものをありがたがって食うなんて、街の連中も焼きが回ったな。おとなしく店を畳めば、借金をチャラにしてやるって言ってるのに」
「お断りします! 私たちはこの福巻きで復活しますから!」
「ふん、強がりを。まあいい、明日の開店を楽しみにしているぞ。客が一人も来なくて泣きっ面をかくのをな」
ガルドは高笑いを残して去っていった。
典型的な悪役ムーブに、俺は逆に安心した。
「リリアナ、心配するな。あんな奴に負けたりしない」
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明日は忙しくなるぞ。
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