異世界転生した元開発担当、チート農業スキルで最高級米を作って「恵方巻」を流行らせます!没落令嬢と組んでライバル商会をざまぁする

黒崎隼人

文字の大きさ
5 / 13

第4話「幸運を呼ぶ『丸かぶり』伝説」

しおりを挟む
「いいか、リリアナ。人は味に金を払うんじゃない。情報と体験に金を払うんだ」
 俺は店内の黒板に、作戦計画を書き殴った。
 前世のコンビニ時代、恵方巻商戦は戦争だった。大量の廃棄ロスと戦いながら、いかに客に「これを食べなきゃ損をする」と思わせるか。そのノウハウを今こそ発揮するときだ。
「まず、この太巻きの名前を決める。『福巻き』だ。シンプルでいいだろ」
「福巻き……。縁起が良さそうですね」
「そして、食べ方にルールを設ける。これが重要だ」
 俺は人差し指を立てた。
「その一、今年の『吉方位』を向くこと」
 リリアナが不思議そうに繰り返す。
「吉方位?」
「神様がいる方向だと思えばいい。俺が適当に決める。今年は……北北西のやや西、ということにしておこう」
「適当なんですか!?」
「その二、願い事を頭に浮かべながら食べること。その三、食べている間は一言も喋ってはいけない」
「……なんで喋っちゃダメなんですか?」
 リリアナがもっともな疑問を口にする。
「喋ると運が逃げるからだ。それに、無言で一本食べ切るのは意外と苦しい。それが一種の苦行となり、達成感を生む。つまり『ご利益がありそう』な気分にさせるんだ」
 俺の説明に、リリアナとテオは顔を見合わせた。
「カイさんって、たまに詐欺師みたいですよね」
「人聞きの悪い。演出と言ってくれ。さあ、練習だ」
 俺は試作した太巻きを二人に手渡した。
「北北西のやや西はあっちだ。壁のシミを目印にしろ。いいか、絶対に口をきくなよ」
「うう、なんか緊張してきました」
「いただきます」
 テオとリリアナが、黒い太巻きを両手で持ち、神妙な顔で壁に向かって立ち尽くす。
 そして、ガブリ。
 静寂が店内を包む。聞こえるのはモグモグという咀嚼音だけ。
 テオの厳つい顔が、必死に太巻きと格闘している。リリアナはリスのように頬を膨らませ、上目遣いでチラチラと俺を見ている。
 シュールだ。あまりにもシュールな光景だ。
 俺は笑いをこらえるのに必死だった。これが街中で流行れば、絶対に面白いことになる。
 数分後、ようやく二人が食べ終えた。
「んぐっ……ご、ごちそうさまでした!」
 リリアナが大きく息を吐く。
「苦しかったー! でも、なんか楽しいですねこれ。お願い事、叶う気がします」
「だろ? その『気がする』が大事なんだ」
「俺は『給料が上がりますように』って願ったぞ」
 テオ、お前の願いは切実だな。

 準備は整った。
 翌日から、俺たちは街中にビラを撒いた。
『近日発売! 古来より伝わる幻の開運料理【福巻き】』
『今年の吉方位を向いて無言で食べれば、どんな願いも叶う!?』
『銀の葉商会にて、限定百本販売!』
 嘘ではない。「古来より(俺の前世の世界で)伝わる」だし、「(もしかしたら)叶う」だ。ギリギリ誇大広告ではないラインを攻める。
 さらに、俺はテオに頼んで、街の井戸端会議の中心人物であるおばちゃんたちに噂を流してもらった。
「なんでも、隣町の病気だった子供が、あの黒い棒を食べたら治ったらしいわよ」
「商売敵が失敗して、店が大繁盛したって話も聞いたわ」
 いわゆるステルスマーケティングだ。異世界にネットはないが、口コミの力は絶大だ。

 そして発売前日。
 店の前には、すでに数人の物好きが様子を見に来ていた。
「本当に願いが叶うのか?」
「さあな。でも、銀の葉商会の娘が最近元気になったのは、あれを食べたかららしいぞ」
 噂が噂を呼び、期待値は高まっている。
 だが、問題は黄金商会だ。
 店の中にいると、不意にドアが開け放たれ、嫌味な笑い声を上げた男が入ってきた。
「おいおい、潰れかけの店が何やら騒がしいと思ったら、ゴミを売る準備か?」
 派手な服を着た小太りの男。ガルド支店長だ。
 後ろには強面の用心棒を二人連れている。
「ガルドさん……。ゴミとは失礼ですね。これは由緒ある料理です」
 リリアナが毅然と言い返す。
 ガルドは鼻で笑い、カウンターに置かれた太巻きの見本を指先でつついた。
「黒くて気味の悪い棒だ。こんなものをありがたがって食うなんて、街の連中も焼きが回ったな。おとなしく店を畳めば、借金をチャラにしてやるって言ってるのに」
「お断りします! 私たちはこの福巻きで復活しますから!」
「ふん、強がりを。まあいい、明日の開店を楽しみにしているぞ。客が一人も来なくて泣きっ面をかくのをな」
 ガルドは高笑いを残して去っていった。
 典型的な悪役ムーブに、俺は逆に安心した。
「リリアナ、心配するな。あんな奴に負けたりしない」
「カイさん……はい! 私、信じてます!」
 フラグは立った。あとは回収するだけだ。
 俺は厨房に戻り、明日の決戦に向けて米を研ぎ始めた。
 明日は忙しくなるぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界ショコラティエの甘い革命~チョコレートが存在しない世界でカカオを育ててバレンタインを流行らせます~

黒崎隼人
ファンタジー
【2月14日はバレンタイデー!】 現代日本でパティシエを目指していた記憶を持つ少年ルカは、貧しい農村の三男坊として異世界に転生した。しかし、そこは「チョコレート」が存在しない世界だった! 砂糖はある、ミルクもある。けれど、あの芳醇で甘美な黒い宝石だけがない。 「ないのなら、作るしかない」 ルカは森の奥で嫌われ者の「オニノミ」がカカオの原種であることを見抜き、独自に栽培を開始する。発酵、乾燥、焙煎――前世の知識と魔法を駆使して、ついに完成した「ショコラ」。その味は、粗悪な菓子しか知らなかった異世界の人々に衝撃を与え、やがて頑固な父、商魂たくましい商人、そして厳格な領主や宗教家までも巻き込んでいく。 これは、甘いお菓子で世界を変える、少年のサクセスストーリー。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

追放された雑用係、実は神々の隠し子でした~無自覚に世界最強で、気づいたら女神と姫と勇者パーティがハーレム化していた件~

fuwamofu
ファンタジー
異世界ギルドの「雑用係」としてコキ使われていた青年レオン。だが彼は、自分が神々の血を継ぐ存在だとは知らなかった。追放をきっかけに本来の力が目覚め、魔王軍・帝国・勇者をも圧倒する無自覚最強へと覚醒する。 皮肉にも、かつて見下していた仲間たちは再び彼に跪き、女神、聖女、王女までが彼の味方に!? 誰もが予想しなかった「ざまぁ」の嵐が、今、幕を開ける——!

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

過労死した植物学者の俺、異世界で知識チートを使い農業革命!最果ての寂れた村を、いつの間にか多種族が暮らす世界一豊かな国にしていました

黒崎隼人
ファンタジー
これは、土を愛し、土に愛された男の物語。 そして、忘れられた歌を紡ぐ、始まりと終わりの物語。 過労の果てに命を落とした植物学者の魂は、異世界で「カイ」として新たな生を得る。彼が目覚めたのは、魔法の代償で枯れ果て、人々が希望を失った最果ての村だった。前世の知識という唯一無二の力で、カイは死んだ土に緑を、人々の心に温かな灯をともしていく。 彼の育てる作物はただ腹を満たすだけでなく、魂を癒し、奇跡を呼び起こす。その噂は静かな波紋のように広がり、やがて世界を揺るがす大きな渦となる。 森の奥で悠久の時を生きるエルフの少女、リーリエは歌う。彼の起こした奇跡を、彼が築き上げた温かな国を、そして土に還った愛しい人の記憶を。 これは、一人の男が村を興し、国を育て、世界を変えるまでの壮大な叙事詩。 異世界農業ファンタジーの新たな地平。

処理中です...