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第8話「偽りの聖女に迫る影」
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アシュフォード公爵邸に、隣国で原因不明の疫病が発生したという報せが届いたのは、それから間もなくのことだった。
最初は小さな村での流行だったものが、瞬く間に近隣の都市へと広がり、死者が日に日に増えているという。
国境を接する我が国にも、緊張が走った。
王宮は、すぐさま対策に乗り出した。
そして、誰もが期待したのは、聖女エリアナの力だった。
癒しの力を持つとされる彼女ならば、この疫病を鎮めることができるのではないか。民衆の期待は、一気にエリアナへと集中した。
「聖女様、どうか我らをお救いください!」
「エリアナ様がいれば大丈夫だ!」
エドワード殿下は、民の声に応えるように、エリアナを伴って国境近くの視察へと向かった。
それは、彼女の力を国中に知らしめる、絶好の機会のはずだった。
「見ていなさい、エリアナ。君の聖なる力で、民の不安を取り除くのだ。これこそが、次期王妃たる君の役目だ」
「はい、殿下。お任せくださいませ」
自信満々に微笑むエリアナ。
だが、現実は彼女の思惑通りには進まなかった。
彼女がいくら祈りを捧げても、病状が回復する者は一人もいなかった。それどころか、疫病の勢いは増すばかり。
「どうして……? 私の祈りが、届かないなんて……」
エリアナは焦り始めた。
彼女の力は、聖なる力などではない。ごくわずかな治癒能力と、自己暗示、そして何より『聖女である』という周囲の思い込みによって成り立っていたものだ。
軽い怪我を癒す程度ならともかく、未知の疫病に太刀打ちできるはずもなかった。
「聖女様の力は、まだ本調子ではないのでは?」
「本当に効果があるのか……?」
民衆の間に、疑念の声がささやかれ始める。
期待が大きかった分、失望も大きい。称賛の目は、いつしか冷ややかなものへと変わっていった。
エドワード殿下は、そんな空気を必死で打ち消そうとした。
「エリアナは疲れているだけだ! 聖女の力を疑うとは、何事か!」
しかし、彼の擁護は火に油を注ぐだけだった。
結果を出せない聖女と、彼女を盲信する王太子。
二人の姿は、国の未来を案じる者たちの目には、ひどく滑稽で、そして危険なものに映っていた。
その頃、私はキリアン様と共に、アシュフォード公爵領に来ていた。
公爵領は王都から離れた、緑豊かな土地だった。
「リゼット。君の力が必要になるかもしれない」
キリアン様は、領内の薬草園へと私を案内した。
そこには、様々な種類の薬草が、専門家の手で大切に育てられている。
「この疫病に効く薬を作る。アシュフォード家が古くから持つ知識と、最新の医学を総動員する。だが、薬の原料となる薬草の力が、わずかに足りない」
「私に、できるでしょうか」
「君にならできる」
キリアン様は、私の目をまっすぐに見て言った。
その揺るぎない信頼に、背中を押される。
私は、そっと薬草に手を触れた。指先から、温かい力が流れ込んでいくのを感じる。
『もっと元気に。もっと強く。たくさんの人を救う力になって』
心の中で、強く念じる。
すると、それに応えるように、薬草の葉の色が深まり、茎がたくましくなっていくのがわかった。
「すごい……。薬草の質が、目に見えて上がっている」
薬草園の管理者が、驚きの声を上げる。
私の力は、決して万能ではない。病を直接治すことはできない。
でも、薬草の力を高め、薬の効果を増幅させることはできるかもしれない。
誰かの役に立てる。その事実が、私の胸を温かい喜びで満たした。
王宮でエリアナのメッキが剥がれていく一方で、私はアシュフォード公爵領の片隅で、静かに、しかし着実に、自分がやるべきことを見つけ始めていた。
最初は小さな村での流行だったものが、瞬く間に近隣の都市へと広がり、死者が日に日に増えているという。
国境を接する我が国にも、緊張が走った。
王宮は、すぐさま対策に乗り出した。
そして、誰もが期待したのは、聖女エリアナの力だった。
癒しの力を持つとされる彼女ならば、この疫病を鎮めることができるのではないか。民衆の期待は、一気にエリアナへと集中した。
「聖女様、どうか我らをお救いください!」
「エリアナ様がいれば大丈夫だ!」
エドワード殿下は、民の声に応えるように、エリアナを伴って国境近くの視察へと向かった。
それは、彼女の力を国中に知らしめる、絶好の機会のはずだった。
「見ていなさい、エリアナ。君の聖なる力で、民の不安を取り除くのだ。これこそが、次期王妃たる君の役目だ」
「はい、殿下。お任せくださいませ」
自信満々に微笑むエリアナ。
だが、現実は彼女の思惑通りには進まなかった。
彼女がいくら祈りを捧げても、病状が回復する者は一人もいなかった。それどころか、疫病の勢いは増すばかり。
「どうして……? 私の祈りが、届かないなんて……」
エリアナは焦り始めた。
彼女の力は、聖なる力などではない。ごくわずかな治癒能力と、自己暗示、そして何より『聖女である』という周囲の思い込みによって成り立っていたものだ。
軽い怪我を癒す程度ならともかく、未知の疫病に太刀打ちできるはずもなかった。
「聖女様の力は、まだ本調子ではないのでは?」
「本当に効果があるのか……?」
民衆の間に、疑念の声がささやかれ始める。
期待が大きかった分、失望も大きい。称賛の目は、いつしか冷ややかなものへと変わっていった。
エドワード殿下は、そんな空気を必死で打ち消そうとした。
「エリアナは疲れているだけだ! 聖女の力を疑うとは、何事か!」
しかし、彼の擁護は火に油を注ぐだけだった。
結果を出せない聖女と、彼女を盲信する王太子。
二人の姿は、国の未来を案じる者たちの目には、ひどく滑稽で、そして危険なものに映っていた。
その頃、私はキリアン様と共に、アシュフォード公爵領に来ていた。
公爵領は王都から離れた、緑豊かな土地だった。
「リゼット。君の力が必要になるかもしれない」
キリアン様は、領内の薬草園へと私を案内した。
そこには、様々な種類の薬草が、専門家の手で大切に育てられている。
「この疫病に効く薬を作る。アシュフォード家が古くから持つ知識と、最新の医学を総動員する。だが、薬の原料となる薬草の力が、わずかに足りない」
「私に、できるでしょうか」
「君にならできる」
キリアン様は、私の目をまっすぐに見て言った。
その揺るぎない信頼に、背中を押される。
私は、そっと薬草に手を触れた。指先から、温かい力が流れ込んでいくのを感じる。
『もっと元気に。もっと強く。たくさんの人を救う力になって』
心の中で、強く念じる。
すると、それに応えるように、薬草の葉の色が深まり、茎がたくましくなっていくのがわかった。
「すごい……。薬草の質が、目に見えて上がっている」
薬草園の管理者が、驚きの声を上げる。
私の力は、決して万能ではない。病を直接治すことはできない。
でも、薬草の力を高め、薬の効果を増幅させることはできるかもしれない。
誰かの役に立てる。その事実が、私の胸を温かい喜びで満たした。
王宮でエリアナのメッキが剥がれていく一方で、私はアシュフォード公爵領の片隅で、静かに、しかし着実に、自分がやるべきことを見つけ始めていた。
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