10 / 16
第9話「氷解の証明」
しおりを挟む
薬草園での日々は、私に自信と落ち着きを与えてくれた。
私が力を注いだ薬草から作られた特効薬は、試験的に使用された国境の村で、目覚ましい効果を上げたという。
その知らせを聞いた時、キリアン様は「よくやってくれた」と、私の頭を優しく撫でてくれた。
ただそれだけで、今までの苦労が全て報われた気がした。
一方、王都に戻ると、エリアナとエドワード殿下の評判は地に落ちていた。
疫病の前で無力だった偽りの聖女。そして、彼女を庇い続けた愚かな王太子。
民衆の失望は、今や怒りへと変わりつつあった。
貴族たちの間でも、王太子の廃嫡を求める声が、公然と上がり始めていた。
そんなある夜、キリアン様が彼の執務室に私を呼んだ。
彼の前には、分厚い書類の束が置かれている。
「リゼット。準備が整った」
静かな、しかし確信に満ちた声だった。
彼は書類の束を私の前に差し出す。
「これは?」
「君を陥れた者たちの、罪の証拠だ」
息をのんで、書類をめくる。
そこには、私が婚約破棄されたあの日までの、エリアナの不可解な言動の数々が、時系列で詳細に記録されていた。
エリアナが私の教科書を破った瞬間を目撃した、学園の庭師の証言。
エリアナが自らドレスにワインをこぼし、私に罪をなすりつけたのを見ていた、パーティー会場の給仕の証言。
彼女が慈善活動の寄付金を盗み、自分の部屋に隠すのを見たという、エリアナ付きの侍女の告白。
階段から落ちそうになった一件も、彼女がわざと足を滑らせ、私が突き飛ばしたかのように見せかけた、自作自演だったこと。
全て、キリアン様が独自に人を使い、集めてくれた証拠だった。
私の知らないところで、彼は私の無実を証明するために、ずっと動いてくれていたのだ。
「どうして……ここまで……」
「言ったはずだ。君が不当に貶められるのは見過ごせない、と」
書類の中には、エリアナの出自に関する調査報告もあった。
彼女は、聖なる力を持つ家系の生まれなどではなかった。没落寸前の貧乏男爵家の遠縁で、金に困った両親によって、わずかな治癒能力を大げさに宣伝され、教会に売り込まれたのだという。
全てが、嘘で塗り固められた虚像だった。
「次の夜会で、全てを明らかにする」
キリアン様は、立ち上がると窓辺に歩み寄った。
月明かりが、彼の怜悧な横顔を照らし出す。
「君を『悪役令嬢』などと呼んだ者たちに、思い知らせてやる。本当の悪役が誰だったのかを。そして、彼らがどれほど愚かで、尊いものを失ったのかを」
その銀色の瞳には、冷たい怒りの炎が燃えていた。
それは、私のためだけに燃やされる、正義の炎。
「君の無念は、俺がすべて晴らす。だから、何も心配せず、俺の隣にだけいてくれ」
彼は振り返ると、私に向かって手を差し伸べた。
あの日、絶望の淵にいた私を救い出してくれた、大きくて温かい手。
私は、もう迷わない。
その手を、しっかりと握り返した。
「はい、キリアン様」
二日後に開かれる、国王陛下主催の夜会。
そこで、全てが終わり、そして全てが始まる。
私の心は、不思議なほど穏やかだった。
この人がいれば、もう何も怖くない。
私が力を注いだ薬草から作られた特効薬は、試験的に使用された国境の村で、目覚ましい効果を上げたという。
その知らせを聞いた時、キリアン様は「よくやってくれた」と、私の頭を優しく撫でてくれた。
ただそれだけで、今までの苦労が全て報われた気がした。
一方、王都に戻ると、エリアナとエドワード殿下の評判は地に落ちていた。
疫病の前で無力だった偽りの聖女。そして、彼女を庇い続けた愚かな王太子。
民衆の失望は、今や怒りへと変わりつつあった。
貴族たちの間でも、王太子の廃嫡を求める声が、公然と上がり始めていた。
そんなある夜、キリアン様が彼の執務室に私を呼んだ。
彼の前には、分厚い書類の束が置かれている。
「リゼット。準備が整った」
静かな、しかし確信に満ちた声だった。
彼は書類の束を私の前に差し出す。
「これは?」
「君を陥れた者たちの、罪の証拠だ」
息をのんで、書類をめくる。
そこには、私が婚約破棄されたあの日までの、エリアナの不可解な言動の数々が、時系列で詳細に記録されていた。
エリアナが私の教科書を破った瞬間を目撃した、学園の庭師の証言。
エリアナが自らドレスにワインをこぼし、私に罪をなすりつけたのを見ていた、パーティー会場の給仕の証言。
彼女が慈善活動の寄付金を盗み、自分の部屋に隠すのを見たという、エリアナ付きの侍女の告白。
階段から落ちそうになった一件も、彼女がわざと足を滑らせ、私が突き飛ばしたかのように見せかけた、自作自演だったこと。
全て、キリアン様が独自に人を使い、集めてくれた証拠だった。
私の知らないところで、彼は私の無実を証明するために、ずっと動いてくれていたのだ。
「どうして……ここまで……」
「言ったはずだ。君が不当に貶められるのは見過ごせない、と」
書類の中には、エリアナの出自に関する調査報告もあった。
彼女は、聖なる力を持つ家系の生まれなどではなかった。没落寸前の貧乏男爵家の遠縁で、金に困った両親によって、わずかな治癒能力を大げさに宣伝され、教会に売り込まれたのだという。
全てが、嘘で塗り固められた虚像だった。
「次の夜会で、全てを明らかにする」
キリアン様は、立ち上がると窓辺に歩み寄った。
月明かりが、彼の怜悧な横顔を照らし出す。
「君を『悪役令嬢』などと呼んだ者たちに、思い知らせてやる。本当の悪役が誰だったのかを。そして、彼らがどれほど愚かで、尊いものを失ったのかを」
その銀色の瞳には、冷たい怒りの炎が燃えていた。
それは、私のためだけに燃やされる、正義の炎。
「君の無念は、俺がすべて晴らす。だから、何も心配せず、俺の隣にだけいてくれ」
彼は振り返ると、私に向かって手を差し伸べた。
あの日、絶望の淵にいた私を救い出してくれた、大きくて温かい手。
私は、もう迷わない。
その手を、しっかりと握り返した。
「はい、キリアン様」
二日後に開かれる、国王陛下主催の夜会。
そこで、全てが終わり、そして全てが始まる。
私の心は、不思議なほど穏やかだった。
この人がいれば、もう何も怖くない。
21
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
【完結】愛で結ばれたはずの夫に捨てられました
ユユ
恋愛
「出て行け」
愛を囁き合い、祝福されずとも全てを捨て
結ばれたはずだった。
「金輪際姿を表すな」
義父から嫁だと認めてもらえなくても
義母からの仕打ちにもメイド達の嫌がらせにも
耐えてきた。
「もうおまえを愛していない」
結婚4年、やっと待望の第一子を産んだ。
義務でもあった男児を産んだ。
なのに
「不義の子と去るがいい」
「あなたの子よ!」
「私の子はエリザベスだけだ」
夫は私を裏切っていた。
* 作り話です
* 3万文字前後です
* 完結保証付きです
* 暇つぶしにどうぞ
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います
きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる