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第03話「行き倒れのエルフを拾ったら、スープ一杯で人生が変わりました」
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フェンとの生活が始まって一週間。
僕の畑は、さらに拡張されていた。
【土壌改良】のレベルが上がったのか、一度に耕せる範囲が広がったのだ。
今では学校のグラウンドくらいの広さが、真っ黒で栄養たっぷりの農地になっている。
そこに植えたのは、トウモロコシ、ナス、キャベツ、そしてジャガイモだ。
どれもこれも、僕の腰の高さまで一瞬で育ち、巨大な実をつけている。
「よし、今日の収穫はこれくらいかな」
大量の夏野菜をカゴに積み上げ、僕は満足げに頷いた。
フェンは畑の周りをパトロールしてくれている。
おかげで、小動物や虫けらすら寄ってこない。最高の番犬だ。
そんな平和な午後、フェンが「わんわん!」と鋭く吠えた。
敵襲か?
僕は農作業用のクワ(これも土で作った即席のもの)を担いで、フェンが吠えている方へ向かった。
そこは畑の端、荒野との境界線あたりだった。
砂埃の中に、何かが倒れているのが見えた。
人だ。
慌てて駆け寄ると、そこには緑色の髪をした少女が倒れていた。
ボロボロのローブを纏い、長く尖った耳が髪の間から覗いている。
エルフだ。しかも、ひどく衰弱している。
「おい、しっかりしろ!」
抱き起こすと、彼女の体は驚くほど軽かった。
唇は乾燥してひび割れ、顔色は土気色だ。
意識がない。脱水症状と、深刻な栄養失調だろう。
「水……それに何か食べ物を……」
僕は彼女を担ぎ上げ、急いで拠点(土で作った簡易的な小屋)へ運んだ。
硬いベッドに寝かせ、水筒の水を少しずつ口に含ませる。
喉が動いた。まだ生きてる。
だが、これだけでは足りない。
すぐにエネルギーになるものが必要だ。
「よし、あれを作るか」
僕は外に出て、採れたばかりのトウモロコシとジャガイモ、それに玉ねぎを手に取った。
鍋に水を張り、火にかける。
野菜を刻んで放り込むだけの、シンプルなスープだ。
だが、素材が違う。
トウモロコシは一粒一粒が真珠のように輝き、ジャガイモは大地の香りを濃厚に漂わせている。
煮込むこと数分。
小屋の中に、甘く芳醇な香りが充満した。
コンソメも出汁も入れていないのに、野菜から溶け出した黄金色のエキスがスープを濃厚に彩っている。
「できた」
僕はスプーンでスープを掬い、少し冷ましてから彼女の口元へ運んだ。
「……ん」
香りに反応したのか、彼女が薄っすらと目を開けた。
スプーンを唇に当てると、彼女は本能的にそれを啜った。
ゴクン。
その瞬間、彼女の瞳が見開かれた。
カッと目を見開き、信じられないものを見るような目で僕を見る。
「もう一口、いけるか?」
彼女は無言で、必死に頷いた。
二口、三口。
震える手で自ら器を掴み、夢中でスープを飲み干していく。
「ぷはっ……!」
最後の一滴まで飲み干すと、彼女は深呼吸をした。
驚くべきことに、土気色だった頬にはバラ色の血色が戻り、カサカサだった肌には潤いが蘇っていた。
体から微かな光が漏れ出しているようにも見える。
「……信じられない」
彼女は自分の掌を見つめ、震える声でつぶやいた。
「魔力回路が……完全に修復されている? 枯渇していたマナが、溢れんばかりに満ちているなんて……」
「気がついたか? 気分はどうだ?」
僕が声をかけると、彼女はハッとして姿勢を正した。
そして、ベッドの上で深々と頭を下げた。
「貴方様は……もしや、伝説の『豊穣の神』の化身であらせられますか?」
「は?」
何を言っているんだ、この子は。
「私の名はシルヴィア。王都を追われ、死を覚悟していた魔導師です。ですが今、貴方様の作った聖なる霊薬(スープ)によって、命を救われました。いえ、それだけでなく、以前よりも強大な魔力を得たようです」
聖なる霊薬? ただの野菜スープだけど。
まあ、空腹の時に食べるご飯は格別だから、大げさに言ってるだけだろう。
「僕はノア。ただの農夫だよ。行き倒れてたから助けただけだ」
「農夫……? これが、ただの農夫の御業だと言うのですか?」
シルヴィアは部屋の隅に積まれた巨大野菜と、僕の足元で寛ぐフェンを見て、あんぐりと口を開けた。
「そ、それは災厄の魔狼フェンリル!? それに、あの輝くトウモロコシは、一粒で城が買えるという『金剛穀』では!?」
どうやら彼女は相当な混乱状態にあるらしい。
僕は苦笑いしながら、鍋に残ったスープをよそった。
「難しい話は後にして、おかわりどう?」
シルヴィアの腹の虫が、可愛らしくグゥと鳴った。
彼女は顔を真っ赤にしながら、それでも差し出された器を両手でしっかりと受け取った。
こうして、知識豊富な(そしてちょっと勘違いの激しい)エルフが、二人目の仲間になったのだった。
僕の畑は、さらに拡張されていた。
【土壌改良】のレベルが上がったのか、一度に耕せる範囲が広がったのだ。
今では学校のグラウンドくらいの広さが、真っ黒で栄養たっぷりの農地になっている。
そこに植えたのは、トウモロコシ、ナス、キャベツ、そしてジャガイモだ。
どれもこれも、僕の腰の高さまで一瞬で育ち、巨大な実をつけている。
「よし、今日の収穫はこれくらいかな」
大量の夏野菜をカゴに積み上げ、僕は満足げに頷いた。
フェンは畑の周りをパトロールしてくれている。
おかげで、小動物や虫けらすら寄ってこない。最高の番犬だ。
そんな平和な午後、フェンが「わんわん!」と鋭く吠えた。
敵襲か?
僕は農作業用のクワ(これも土で作った即席のもの)を担いで、フェンが吠えている方へ向かった。
そこは畑の端、荒野との境界線あたりだった。
砂埃の中に、何かが倒れているのが見えた。
人だ。
慌てて駆け寄ると、そこには緑色の髪をした少女が倒れていた。
ボロボロのローブを纏い、長く尖った耳が髪の間から覗いている。
エルフだ。しかも、ひどく衰弱している。
「おい、しっかりしろ!」
抱き起こすと、彼女の体は驚くほど軽かった。
唇は乾燥してひび割れ、顔色は土気色だ。
意識がない。脱水症状と、深刻な栄養失調だろう。
「水……それに何か食べ物を……」
僕は彼女を担ぎ上げ、急いで拠点(土で作った簡易的な小屋)へ運んだ。
硬いベッドに寝かせ、水筒の水を少しずつ口に含ませる。
喉が動いた。まだ生きてる。
だが、これだけでは足りない。
すぐにエネルギーになるものが必要だ。
「よし、あれを作るか」
僕は外に出て、採れたばかりのトウモロコシとジャガイモ、それに玉ねぎを手に取った。
鍋に水を張り、火にかける。
野菜を刻んで放り込むだけの、シンプルなスープだ。
だが、素材が違う。
トウモロコシは一粒一粒が真珠のように輝き、ジャガイモは大地の香りを濃厚に漂わせている。
煮込むこと数分。
小屋の中に、甘く芳醇な香りが充満した。
コンソメも出汁も入れていないのに、野菜から溶け出した黄金色のエキスがスープを濃厚に彩っている。
「できた」
僕はスプーンでスープを掬い、少し冷ましてから彼女の口元へ運んだ。
「……ん」
香りに反応したのか、彼女が薄っすらと目を開けた。
スプーンを唇に当てると、彼女は本能的にそれを啜った。
ゴクン。
その瞬間、彼女の瞳が見開かれた。
カッと目を見開き、信じられないものを見るような目で僕を見る。
「もう一口、いけるか?」
彼女は無言で、必死に頷いた。
二口、三口。
震える手で自ら器を掴み、夢中でスープを飲み干していく。
「ぷはっ……!」
最後の一滴まで飲み干すと、彼女は深呼吸をした。
驚くべきことに、土気色だった頬にはバラ色の血色が戻り、カサカサだった肌には潤いが蘇っていた。
体から微かな光が漏れ出しているようにも見える。
「……信じられない」
彼女は自分の掌を見つめ、震える声でつぶやいた。
「魔力回路が……完全に修復されている? 枯渇していたマナが、溢れんばかりに満ちているなんて……」
「気がついたか? 気分はどうだ?」
僕が声をかけると、彼女はハッとして姿勢を正した。
そして、ベッドの上で深々と頭を下げた。
「貴方様は……もしや、伝説の『豊穣の神』の化身であらせられますか?」
「は?」
何を言っているんだ、この子は。
「私の名はシルヴィア。王都を追われ、死を覚悟していた魔導師です。ですが今、貴方様の作った聖なる霊薬(スープ)によって、命を救われました。いえ、それだけでなく、以前よりも強大な魔力を得たようです」
聖なる霊薬? ただの野菜スープだけど。
まあ、空腹の時に食べるご飯は格別だから、大げさに言ってるだけだろう。
「僕はノア。ただの農夫だよ。行き倒れてたから助けただけだ」
「農夫……? これが、ただの農夫の御業だと言うのですか?」
シルヴィアは部屋の隅に積まれた巨大野菜と、僕の足元で寛ぐフェンを見て、あんぐりと口を開けた。
「そ、それは災厄の魔狼フェンリル!? それに、あの輝くトウモロコシは、一粒で城が買えるという『金剛穀』では!?」
どうやら彼女は相当な混乱状態にあるらしい。
僕は苦笑いしながら、鍋に残ったスープをよそった。
「難しい話は後にして、おかわりどう?」
シルヴィアの腹の虫が、可愛らしくグゥと鳴った。
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