TS異世界転移した最強剣士、男に戻るため魔法学園へ。正体を隠して無双していたら求愛が止まらない。

黒崎隼人

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第8話『混沌の胎動と三人の絆』

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 溢れ出した瘴気は、意思を持つかのように形を変え、次々と小型の魔物を生み出していく。影のような体に、鋭い爪と牙だけを持つ獣。数は、ざっと見て三十以上。

「囲まれたな……!」

 ガイアスが舌打ちする。
 俺たち三人は、自然と背中を合わせるように円陣を組んだ。背中に感じる二人の体温が、やけに心強い。

「カイトは中央の魔法陣を!私とマリアでこいつらを引き受ける!」

 ガイアスの的確な指示が飛ぶ。だが、俺は首を横に振った。

「いや、三人で切り抜ける。こいつらは瘴気の塊だ。一体でも逃せば、学園がどうなるか分からない」

「……分かった。ならば、一気に片付けるぞ!」

「私の炎で、全て焼き尽くしてあげるわ!」

 戦闘が始まった。
 ガイアスの剣は、王家の名に恥じない洗練された剣技だ。聖なる光をまとった剣が閃くたび、影の魔物が光の粒子となって消えていく。
 マリアの魔法は、苛烈で美しい。彼女が呪文を唱えれば、紅蓮の炎が渦を巻き、複数の魔物を一瞬で焼き払う。

 そして俺は、その二人の間を縫うように戦場を駆け巡った。
 剣道で培った体さばきと予測不能な動き。魔力で強化した身体能力で壁を蹴り、天井を走り、死角から魔物の核を貫く。

 三人の連携は、打ち合わせたわけでもないのに、まるで長年共に戦ってきたかのように完璧だった。ガイアスが敵の陣形を崩し、マリアが広範囲を攻撃し、俺が討ち漏らした敵を確実に仕留める。

 戦いの中で、奇妙な高揚感を覚えていた。一人ではない。信頼できる仲間がすぐそばにいる。その事実が、俺の力を何倍にも引き上げてくれる。

「これで、最後だァッ!」

 俺の魔法剣が、最後の一体を切り裂いた。
 激しい戦闘で、全員の肩が大きく上下している。だが、安堵したのも束の間だった。

「マリア!」

 ガイアスの悲鳴に近い声。
 見ると、マリアが膝から崩れ落ち、その場に倒れ込んだ。

「くっ……!瘴気に、当てられた……!」

 彼女の顔色は悪く、呼吸も荒い。魔物を生み出した瘴気には、強力な毒素が含まれていたのだ。戦闘に集中するあまり、気づかぬうちに吸い込んでしまったらしい。

「おい、しっかりしろ!」

 俺は彼女の元へ駆け寄り、その体を抱きかかえた。熱い。ひどい高熱だ。このままでは危険だ。
 どうする。解毒魔法なんて、俺は知らない。

 その時、俺は無意識に行動していた。
 自分の右手をマリアの額に当て、体内の魔力をただひたすらに彼女の中へと流し込んだ。純粋で、清浄な魔力を。

 すると、俺の手から淡い聖なる光が放たれた。光に包まれたマリアの苦悶の表情が、少しずつ和らいでいく。

「……これは……治癒魔法か?それも、極めて高位の……」

 ガイアスが、驚愕の表情で俺の手元を見つめていた。
 彼の言う通り、これは結果的に治癒魔法と同じ効果をもたらしていた。だが、俺は呪文も何も唱えていない。ただ魔力を流しただけだ。

(俺の魔力に、こんな力が……?)

 女の体になったことで、俺の魔力そのものも変質していたのかもしれない。

 しばらくしてマリアの呼吸は安定し、顔色も戻ってきた。
 俺は安堵のため息をつき、その場にへたり込む。魔力をごっそりと持っていかれ、ひどい疲労感に襲われた。

 その時、封印の魔法陣の奥から、直接脳内に響くような不気味な声が聞こえた。

『……我を解き放て……さすれば、汝の望みを叶えん……』

『元の体に戻りたいのだろう……?我ならば、それを容易く叶えてやれるぞ……』

 甘い、誘惑の声。俺の心の奥底にある最も強い願いを、的確に突いてくる。

「……誰だ」

 俺が問いかけると、声は楽しそうに笑った。

『我は混沌……。世界の理そのもの……。さあ、我をここから出すのだ……』

 その声を聞きながら、俺は確信していた。
 こいつが俺の運命を狂わせた元凶であり、そして同時に、俺が元の体に戻るための唯一の鍵であることを。
 しかし、その声が孕む邪悪な響きは、安易な選択が決して許されないこともまた、俺に告げていた。
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