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第11話「氷解する呪いと愛の誓い」
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王都での騒動を終え、私たちは再び辺境への帰路についていた。
ミレーヌとエドワードは幽閉塔へ送られ、王都の復興は国王と有能な臣下たちの手で進められることになった。
私の作った「浄化のスパイス」のレシピを残してきたので、しばらくすれば土地も回復するだろう。
馬車の中は平和そのものだった。
アレクセイは相変わらず私の隣にぴったりとくっついて離れず、スノーも足元でゴロゴロと喉を鳴らしている。
しかし、ヴォルガード領に入ったあたりから、アレクセイの様子がおかしくなった。
顔色が青白く、呼吸が浅い。
触れると、肌が異常に熱い。いや、熱いのに冷たいという矛盾した感覚だ。
「アレクセイ様? どうされましたか?」
「……大丈夫だ。少し、魔力のバランスが崩れているだけだ」
彼は強がったが、明らかに異常だった。
王都での戦闘で大量の瘴気を吸収し、それを私の浄化の光で強引に抑え込んだ反動が出ているのだ。
抑圧されていた呪いが、最後の悪あがきをするかのように暴れ始めている。
その夜、私たちは道中の宿場町にある屋敷に泊まることになった。
アレクセイはすぐにベッドに倒れ込んだ。
彼の体からは、パキパキと音を立てて氷の結晶が生え始めていた。
今までの比ではない速度だ。
「寒い……熱い……」
彼はうなされ、苦しげに胸をかきむしる。
彼の心臓部分を中心に、どす黒い氷が広がっていく。
これは「永久凍土の呪い」。
彼の生命そのものを凍結させようとする、最強の呪いだ。
「アレクセイ様! しっかりしてください!」
私は必死に温めたスープを口に含ませようとしたが、彼の唇は氷のように固く閉ざされ、受け付けない。
魔法薬も、治癒魔法も弾かれる。
物理的な干渉を拒絶しているのだ。
『どうすれば……このままじゃ、彼が死んでしまう』
恐怖で手が震える。
私がどんなに美味しい料理を作っても、食べてもらえなければ意味がない。
彼を内側から温める方法。
もっと直接的に、魂に熱を届ける方法。
ふと、図書室で見つけた古い本の記述が脳裏をよぎった。
『真の聖女は、愛する者との口づけにより、その魔力を最大化させ、あらゆる呪いを浄化する光となる』
口づけ。
粘膜接触による魔力の直接譲渡。
そして、愛という感情が触媒となる。
私は覚悟を決めた。
羞恥心など捨てよう。
彼を救えるなら、何だってする。
私はアレクセイの顔を両手で包み込んだ。
氷のように冷たい頬。
私は自分の口に、とっておきの「蜂蜜と生姜のシロップ」を少し含んだ。
そして、震える彼の唇に、自分の唇を重ねた。
冷たい。
まるで氷像にキスをしているようだ。
でも、私は退かない。
舌先で彼の唇をこじ開け、温かいシロップと共に、私の全魔力と、ありったけの想いを注ぎ込む。
『生きて! アレクセイ様! 貴方がいない世界なんて、美味しくないわ!』
私の心臓が激しく脈打つ。
その鼓動が、唇を通して彼に伝わっていく。
魔力が熱となり、光となって、彼の体内を駆け巡る。
ドクン。
彼の心臓が大きく跳ねたのがわかった。
次の瞬間、カッと目を見開いたアレクセイが、私の背中に腕を回し、強引に抱き寄せた。
受動的だったキスが、能動的で情熱的なものに変わる。
貪るように、すがりつくように。
彼の体から凄まじい熱気が溢れ出し、部屋中の氷が一瞬で蒸発して白い霧となった。
「んっ……!」
息ができないほど長く、深い口づけ。
体内の氷がすべて溶け落ち、彼の血が熱くたぎるのがわかる。
呪いの核が砕け散り、光の粒子となって消えていく。
ようやく唇が離れた時、私たちは二人とも息を切らしていた。
アレクセイの瞳は潤み、頬には健康的な赤みが差していた。
もう、蒼白な公爵ではない。
「……解けた」
彼は自分の胸に手を当て、信じられないという顔をした。
「重苦しかったものが、消えた。体の芯まで温かい。……いや、熱いな」
彼は熱っぽい視線で私を見つめ、再び私を引き寄せた。
「リリアナ。お前は料理だけでなく、俺の魂まで美味しくしてくれるのか」
「……もう、変な言い方しないでください」
私は顔を真っ赤にして彼の胸に顔を埋めた。
「ありがとう。……愛している」
「私もです、アレクセイ様」
私たちは、白い霧に包まれた部屋で、今度こそ永遠の愛を誓い合った。
呪いは完全に消滅した。
これからは、彼自身の強大な魔力も、彼を傷つけることなく、守る力として使えるだろう。
翌朝、私たちは清々しい気分で宿を出発した。
空は驚くほど青く晴れ渡り、冬の太陽が雪原をキラキラと照らしている。
スノーが元気よく雪の中を駆け回り、それをアレクセイが笑顔で見守っている。
その笑顔は、かつての氷の公爵からは想像もできないほど、優しく、温かいものだった。
ミレーヌとエドワードは幽閉塔へ送られ、王都の復興は国王と有能な臣下たちの手で進められることになった。
私の作った「浄化のスパイス」のレシピを残してきたので、しばらくすれば土地も回復するだろう。
馬車の中は平和そのものだった。
アレクセイは相変わらず私の隣にぴったりとくっついて離れず、スノーも足元でゴロゴロと喉を鳴らしている。
しかし、ヴォルガード領に入ったあたりから、アレクセイの様子がおかしくなった。
顔色が青白く、呼吸が浅い。
触れると、肌が異常に熱い。いや、熱いのに冷たいという矛盾した感覚だ。
「アレクセイ様? どうされましたか?」
「……大丈夫だ。少し、魔力のバランスが崩れているだけだ」
彼は強がったが、明らかに異常だった。
王都での戦闘で大量の瘴気を吸収し、それを私の浄化の光で強引に抑え込んだ反動が出ているのだ。
抑圧されていた呪いが、最後の悪あがきをするかのように暴れ始めている。
その夜、私たちは道中の宿場町にある屋敷に泊まることになった。
アレクセイはすぐにベッドに倒れ込んだ。
彼の体からは、パキパキと音を立てて氷の結晶が生え始めていた。
今までの比ではない速度だ。
「寒い……熱い……」
彼はうなされ、苦しげに胸をかきむしる。
彼の心臓部分を中心に、どす黒い氷が広がっていく。
これは「永久凍土の呪い」。
彼の生命そのものを凍結させようとする、最強の呪いだ。
「アレクセイ様! しっかりしてください!」
私は必死に温めたスープを口に含ませようとしたが、彼の唇は氷のように固く閉ざされ、受け付けない。
魔法薬も、治癒魔法も弾かれる。
物理的な干渉を拒絶しているのだ。
『どうすれば……このままじゃ、彼が死んでしまう』
恐怖で手が震える。
私がどんなに美味しい料理を作っても、食べてもらえなければ意味がない。
彼を内側から温める方法。
もっと直接的に、魂に熱を届ける方法。
ふと、図書室で見つけた古い本の記述が脳裏をよぎった。
『真の聖女は、愛する者との口づけにより、その魔力を最大化させ、あらゆる呪いを浄化する光となる』
口づけ。
粘膜接触による魔力の直接譲渡。
そして、愛という感情が触媒となる。
私は覚悟を決めた。
羞恥心など捨てよう。
彼を救えるなら、何だってする。
私はアレクセイの顔を両手で包み込んだ。
氷のように冷たい頬。
私は自分の口に、とっておきの「蜂蜜と生姜のシロップ」を少し含んだ。
そして、震える彼の唇に、自分の唇を重ねた。
冷たい。
まるで氷像にキスをしているようだ。
でも、私は退かない。
舌先で彼の唇をこじ開け、温かいシロップと共に、私の全魔力と、ありったけの想いを注ぎ込む。
『生きて! アレクセイ様! 貴方がいない世界なんて、美味しくないわ!』
私の心臓が激しく脈打つ。
その鼓動が、唇を通して彼に伝わっていく。
魔力が熱となり、光となって、彼の体内を駆け巡る。
ドクン。
彼の心臓が大きく跳ねたのがわかった。
次の瞬間、カッと目を見開いたアレクセイが、私の背中に腕を回し、強引に抱き寄せた。
受動的だったキスが、能動的で情熱的なものに変わる。
貪るように、すがりつくように。
彼の体から凄まじい熱気が溢れ出し、部屋中の氷が一瞬で蒸発して白い霧となった。
「んっ……!」
息ができないほど長く、深い口づけ。
体内の氷がすべて溶け落ち、彼の血が熱くたぎるのがわかる。
呪いの核が砕け散り、光の粒子となって消えていく。
ようやく唇が離れた時、私たちは二人とも息を切らしていた。
アレクセイの瞳は潤み、頬には健康的な赤みが差していた。
もう、蒼白な公爵ではない。
「……解けた」
彼は自分の胸に手を当て、信じられないという顔をした。
「重苦しかったものが、消えた。体の芯まで温かい。……いや、熱いな」
彼は熱っぽい視線で私を見つめ、再び私を引き寄せた。
「リリアナ。お前は料理だけでなく、俺の魂まで美味しくしてくれるのか」
「……もう、変な言い方しないでください」
私は顔を真っ赤にして彼の胸に顔を埋めた。
「ありがとう。……愛している」
「私もです、アレクセイ様」
私たちは、白い霧に包まれた部屋で、今度こそ永遠の愛を誓い合った。
呪いは完全に消滅した。
これからは、彼自身の強大な魔力も、彼を傷つけることなく、守る力として使えるだろう。
翌朝、私たちは清々しい気分で宿を出発した。
空は驚くほど青く晴れ渡り、冬の太陽が雪原をキラキラと照らしている。
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その笑顔は、かつての氷の公爵からは想像もできないほど、優しく、温かいものだった。
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