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第12章:花の色は、愛に満ちて
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あれから、数年の月日が流れた。
かつては灰色で荒涼としていたヴォルフガング領は、今では見違えるように緑豊かな美しい土地へと生まれ変わっていた。緩やかな丘の上には、色とりどりの花が咲き乱れている。
その丘の上で、私たちはピクニックをしていた。私の隣には、素顔のまま穏やかに微笑むカイウス様。そして、彼の膝の上では、二人の間に生まれた愛らしい娘、セレスティナがきゃっきゃと笑い声を上げている。金色の髪はカイウス様に、そして輝くような青い瞳は私に似ていた。
「まあ、セレスティナ。お口の周りがジャムだらけですわよ」
私が開発した、この土地で採れるベリーを使った特製のジャム。それを塗ったパンを、娘は夢中で頬張っている。
穏やかな風が、私たちの髪を優しく撫でていく。私はふと、前世の、あの有名な歌を口ずさんだ。
「花の色は、うつりにけりな、いたづらに……」
(美しい花の色も、虚しく色褪せてしまった。私がこの世の物思いに耽っている間に、長雨が降り続いていたように)
美しさの儚さ、そして孤独を詠んだ、小野小町の歌。
かつての私は、この歌に自分の境遇を重ね、心を痛めていた。美貌という、いずれは失われるものに囚われ、本当の自分を見てもらえない孤独。
だが、今は違う。
私の心は、枯れることのない愛と幸せに満ちている。
外見の美しさに囚われず、自らの知識と意志で運命を切り拓いてきた。そして、何よりも代えがたい、愛する家族と、守るべき領民たちが、ここにいる。
「どうしたんだ、レティシア?」
カイウス様が、私の手を優しく握った。ゴツゴツとしているけれど、大きくて温かい、安心する手。
「昔の歌を思い出しておりましたの。でも、今の私には、少し違って聞こえます」
私は彼に微笑みかけた。
「君と出会えて、色のなかった俺の世界は、こんなにも鮮やかに色づいた」
彼が、宝物を見るような目で私を見つめ、そう囁く。
その言葉だけで、私の心は春の日だまりのように温かくなる。
「私もですわ、愛しい旦那様」
私は最高の笑顔で、彼に応えた。
花の色は、いつか移ろうかもしれない。けれど、私たちが育んできたこの愛の色は、決して色褪せることはないだろう。
私たちの物語は、破滅でもなければ、終わりでもない。この北の地で、愛する人々と共に、これからもずっと続いていくのだ。
かつては灰色で荒涼としていたヴォルフガング領は、今では見違えるように緑豊かな美しい土地へと生まれ変わっていた。緩やかな丘の上には、色とりどりの花が咲き乱れている。
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「まあ、セレスティナ。お口の周りがジャムだらけですわよ」
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穏やかな風が、私たちの髪を優しく撫でていく。私はふと、前世の、あの有名な歌を口ずさんだ。
「花の色は、うつりにけりな、いたづらに……」
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だが、今は違う。
私の心は、枯れることのない愛と幸せに満ちている。
外見の美しさに囚われず、自らの知識と意志で運命を切り拓いてきた。そして、何よりも代えがたい、愛する家族と、守るべき領民たちが、ここにいる。
「どうしたんだ、レティシア?」
カイウス様が、私の手を優しく握った。ゴツゴツとしているけれど、大きくて温かい、安心する手。
「昔の歌を思い出しておりましたの。でも、今の私には、少し違って聞こえます」
私は彼に微笑みかけた。
「君と出会えて、色のなかった俺の世界は、こんなにも鮮やかに色づいた」
彼が、宝物を見るような目で私を見つめ、そう囁く。
その言葉だけで、私の心は春の日だまりのように温かくなる。
「私もですわ、愛しい旦那様」
私は最高の笑顔で、彼に応えた。
花の色は、いつか移ろうかもしれない。けれど、私たちが育んできたこの愛の色は、決して色褪せることはないだろう。
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