過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人

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第9話「新たな脅威~魔の大旱魃~」

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 俺とヴァルド伯爵の農業生産競争が始まって半年が過ぎた。ローレンツ領では、魔導稲を始めとする俺の農法が順調に成果を上げており、生産量は計画通りに伸びていた。このままいけば、競争に勝利するのは間違いない。誰もがそう確信していた。
 しかし、神は、俺たちに新たな試練を与えた。

「雨が……降らない」

 誰かがポツリとつぶやいた。
 最初は、単なる空梅雨のようなものだと思っていた。だが、一週間、二週間と過ぎても、空は青く澄み渡るばかりで、一滴の雨も降らなかった。
 それは、ローレンツ領だけではない。王国全土を襲う、未曾有の「大旱魃」の始まりだった。

 川の水位は目に見えて下がり、井戸は次々と枯れていく。緑豊かだった大地は、乾いてひび割れ、茶色い素肌を晒し始めた。
 王国中の領地から、悲鳴が上がり始める。作物は次々と枯れ、家畜は喉の渇きで倒れていく。あのヴァルド伯爵の領地も例外ではなく、自慢の広大な畑が、見るも無残な姿に変わっていくという報せが届いた。

「ケンイチ様、このままでは、うちの畑も……!」

 シルヴィアが焦りの色を浮かべる。ローレンツ領は、用水路の整備が進んでいたため、他の領地よりはまだマシだった。しかし、その水源である川の水自体が枯渇しつつある今、危機的な状況であることに変わりはない。
 競争の勝利など、もはやどうでもいい。このままでは、王国全体が飢饉に逆戻りだ。

「……まだ、手はある」

 俺は、王都から急ぎ領地に戻ると、すぐに新たな計画に取り掛かった。それは、これまで構想だけはしていたものの、あまりに大規模で実行に移せずにいたプロジェクトだった。

「『魔法灌漑システム』の開発だ」

 俺のアイデアはこうだ。領地の地下深くに流れている「マナの水脈」――魔法的なエネルギーを豊富に含んだ地下水――を、地上に汲み上げるのだ。しかし、普通の方法では汲み上げることはできない。そこで、またしても魔法の力を借りる。

「ガレンさんには、領内で一番腕の立つドワーフの鉱夫たちを集めてもらう。彼らに、マナ水脈まで届く深い縦穴を掘ってもらうんだ」

「シルヴィアには、その縦穴の底に、特殊な魔法陣を描いてもらう。水を強制的に上へ押し上げる『揚水』の魔法陣だ」

「そして、汲み上げた水を領内全域に行き渡らせるための、大規模な水路ネットワークを建設する。これは、領民総出で取り組む必要がある」

 途方もない計画だった。時間も、金も、労力もかかる。だが、これしか王国を救う道はない。
 俺の号令のもと、ローレンツ領の全ての人々が立ち上がった。ドワーフたちは、驚異的な速さで大地を掘り進み、ガレン率いる警備隊がその安全を確保する。シルヴィアは、自身の魔力を注ぎ込み、複雑な揚水魔法陣を完成させた。そして、領民たちは一丸となって、石を運び、水路を築いていった。

 そして、計画開始から一ヶ月後。ついにシステムが完成する日が来た。
 シルヴィアが、縦穴の底の魔法陣に最後の仕上げを施し、起動の呪文を唱える。すると、大地がゴゴゴゴと静かに震え始めた。
 次の瞬間、縦穴の口から、凄まじい勢いで水柱が噴き上がった!
 それは、ただの水ではなかった。マナの力を帯びた水は、キラキラと七色に輝き、周囲に満ちるだけで植物が活性化するのを感じるほどだった。

「やった……!やったぞ!」

 噴き上がった水は、新たに建設された水路ネットワークを流れ、乾ききった畑へと注がれていく。茶色かった大地は、みるみるうちに潤いを取り戻し、しなびていた作物が再び顔を上げた。
 歓声が、領地中に響き渡った。皆が抱き合い、涙を流して喜んだ。

 ローレンツ領だけが、大旱魃の中で、青々とした緑を保つ奇跡のオアシスとなった。

 この噂は、瞬く間に王国中に広まった。そして、新たな問題を引き起こす。
 食料と水を求め、他の領地から、大量の難民がローレンツ領へと押し寄せ始めたのだ。
 痩せこけ、絶望の表情を浮かべた人々が、日増しに増えていく。彼らを追い返すことは、俺にはできなかった。

「……来る者は拒まない。全員、受け入れよう」

 俺は、避難民キャンプを設置し、隠し倉庫から食糧を放出して、彼らに炊き出しを行った。ガレンと警備隊は、不眠不休で治安維持にあたった。
 ローレンツ領は、かつてないほどに人口が膨れ上がり、もはや一つの都市国家のような様相を呈し始めていた。

 ヴァルド伯爵との競争は、彼が領地の維持すら困難になったことで、事実上、俺の勝利に終わった。だが、そんなことはどうでもよかった。
 俺は、押し寄せる難民の群れを見ながら、この異常気象の背後にある、もっと大きな存在の影を感じていた。
 ただの自然現象ではない。まるで、この世界そのものが、生命を拒絶しているかのようだ。
 新たな脅威は、静かに、しかし確実に、俺たちの足元に迫っていた。
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