「役立たず」と追放された調香師、覚醒した【魔香】スキルで聖女もエルフも完全支配する

黒崎隼人

文字の大きさ
8 / 13

第7話「絶望の谷と崩壊する心」

しおりを挟む
 俺たちはテトラが開発した最新鋭の「香り拡散装置」を携え、絶望の谷へと向かった。谷を見下ろす崖の上に装置を設置し、ミナが持ち帰った勇者パーティの進軍予測ルートに照準を合わせる。

「準備完了だ、レン殿。いつでもいけるぞ」

 テトラが装置のレバーを握り、俺に合図を送る。

「よし、頼む」

 俺はうなずき、完成したばかりの「絶望のレクイエム」の小瓶を装置にセットした。テトラがレバーを倒すと、装置から無色透明の気体が噴射され、風に乗って谷底へと流れていく。目には見えないが、あの谷は今、俺が創り出した悪意に満ちた香りで満たされているはずだ。

「さて、あとは客人の到着を待つだけだな」

 俺たちは崖の上から、谷底へと続く一本道を静かに見下ろしていた。
 数時間後、谷の入り口に見覚えのある一団が姿を現した。先頭を歩くのは、聖剣を肩に担いだガイアス。その後ろに聖女セレスと、見慣れない顔ぶれの仲間たちが続く。以前のパーティメンバーは度重なる苦戦で脱落したのだろう。
 彼らの顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。俺の間接的な妨害工作が、着実に効果を現している証拠だ。

「さあ、ショーの始まりだ」

 俺はほくそ笑み、谷底へと意識を集中させた。
 ガイアス一行が谷の中ほどまで進んだ時、異変が起き始めた。先陣を切っていた戦士の一人が突然叫び声を上げて頭を抱え、その場にうずくまったのだ。

「うわあああ!来るな!俺のせいじゃない!」
「おい、どうした!しっかりしろ!」

 ガイアスが駆け寄るが、男は完全に錯乱している。他のメンバーも次々と同じような状態に陥っていった。

「やめろ……もう謝ったじゃないか……!」
「母さん、俺を見捨てないでくれ……!」

 彼らはそれぞれが抱える過去のトラウマや罪悪感の幻覚を見ているのだ。これが「絶望のレクイエム」の効果だった。

「な、なんだこれは……!瘴気のせいか……?セレス、解呪を!」

 ガイアスが焦ったように叫ぶ。セレスは青ざめた顔で杖を構え、聖魔法を唱え始めた。だが杖から放たれた光は、仲間たちの狂気を癒すことなく虚しく霧散していく。

「だめです、ガイアス様!私の魔法が効きません……!これは、ただの瘴気では……」

 セレスの声は恐怖に震えていた。
 その中で唯一正気を保っているのはガイアスだけだった。さすがは聖剣の勇者、精神力だけは人並み外れているらしい。だが彼の顔にも焦りの色が浮かんでいた。仲間たちが次々と戦闘不能になり、パーティは崩壊寸前だ。

「くそっ……!一体、何が起きているんだ……!」

 ガイアスが苛立たしげに聖剣を地面に突き立てた、その時だった。
 俺は崖の上からゆっくりと姿を現した。俺の両脇には絶世の美女であるフィリアとミナ、そしてテトラが控えている。

「久しぶりだな、ガイアス」

 俺の声にガイアスは弾かれたように顔を上げた。そして俺の姿を認めると、信じられないといった表情で目を見開いた。

「れ……レン……!?なぜ、お前がここに……!」
「お前たちが捨てた無能がどうして生きているのか、不思議か?」

 俺は冷たく笑い、崖から軽やかに飛び降りた。手なずけたグリフォンが俺を受け止め、ゆっくりとガイアスの前に降り立つ。見違えるほど精悍になった俺の姿と、俺を慕う美女たち、そして伝説の魔獣を従える様に、ガイアスは完全に気圧されていた。

「貴様……その女たちはなんだ!魔物まで従えて……一体、何をした!」

 嫉妬と困惑に満ちた声でガイアスが叫ぶ。

「お前には関係のないことだ。それより、自分の心配をした方がいいんじゃないか?お前の大事な仲間たちは、もう誰も戦えないようだが」

 俺が嘲笑うと、ガイアスの顔が怒りで赤く染まった。

「黙れ、無能が!調子に乗るなよ!」

 ガイアスは聖剣を抜き放ち、俺に斬りかかってきた。だが、その動きは精彩を欠いている。彼もまた「絶望のレクイエム」の影響を完全に逃れられているわけではないのだ。
 俺はグリフォンからひらりと降り、ガイアスと対峙する。

「残念だったな。お前の聖剣は、もう俺には届かない」

 俺が指を鳴らすと、周囲の岩陰から俺が「支配の魔香」で操るオーガやミノタウロスといった強力な魔物たちが、次々と姿を現した。

「なっ……!?」

 ガイアスは完全に包囲されたことに気づき、愕然とする。
 さらに俺は懐からもう一つの小瓶を取り出した。これは聖なる力を無力化する「聖気封じの香」だ。蓋を開けると硫黄のようなツンとした香りが広がり、ガイアスの聖剣から輝きが失われていく。

「俺の力が……消えていく……!?貴様、何をした!」
「言ったはずだ。お前はもう、終わりだと」

 俺の合図で魔物たちが一斉にガイアスに襲いかかった。聖なる力を失った彼はもはやただの人だ。為す術なく魔物の猛攻を受け、鎧は砕け、その身体はボロボロになっていく。

「ぐはっ……!がっ……!」

 地面に倒れ伏し、無様に呻く勇者。かつての傲慢な態度は見る影もない。
 俺はその惨めな姿を冷たい目で見下ろしていた。
 一方フィリアたちは、錯乱する仲間たちをいなしながらセレスの元へと向かっていた。セレスは腰を抜かしてその場にへたり込み、恐怖に染まった顔で俺たちを交互に見ている。
 やがて彼女は意を決したように俺の前に這い出てきて、土下座をした。

「ごめんなさい……!レンさん、ごめんなさい!あの時は、私が間違っていました……!どうか、お許しください!」

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、彼女は必死に許しを請う。かつての慈愛に満ちた聖女の面影はどこにもない。

『今更謝ったところで、遅いんだよ』

 俺は心の中で吐き捨て、冷たく微笑んだ。

「許してほしいか?なら、お前が聖女のプライドを捨てて俺の奴隷になると誓えるなら、考えてやってもいい」
「え……?」

 俺の言葉にセレスは顔を上げた。その瞳には葛藤の色が浮かんでいる。聖女としての誇りと、目の前の男への恐怖。
 俺はそんな彼女に追い打ちをかけるように、最後の切り札を取り出した。理性を失わせ、本能的な欲求のままに行動するようになる「獣性の香」だ。

「さあ、選べ。この香りを浴びて俺の玩具になるか、それともここでこいつらと一緒に、狂ったまま死ぬか」

 俺が小瓶を差し出すと、セレスは絶望の表情でそれを見つめた。
 崩壊した勇者パーティ。ひれ伏す聖女。そして、彼女たちを絶望の淵から見下ろす俺。
 復讐の舞台は、最高潮を迎えようとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

処理中です...