5 / 16
第4話「氷の聖女と太陽のトマト」
しおりを挟む
少女をカボチャハウスに運び込み、ベッド(藁と高級コットン草で作ったフカフカ仕様)に寝かせた。
改めて見ると、驚くほど整った顔立ちをしている。
透き通るような白い肌に、長い銀髪。その美しさは、泥にまみれていても隠しきれない。
だが、その顔色は悪く、苦しそうに呼吸を繰り返している。
「強力な衰弱の呪いだな。生命力をじわじわと削り取るタイプだ」
鑑定すると、彼女の状態異常欄には【呪毒:蝕み(中度)】とあった。
通常のポーションでは解呪できない、厄介な代物だ。
フェンが心配そうにベッドの横で鼻を鳴らす。
『主よ、この娘、死ぬのか?』
「死なせないよ。僕の畑がある限りね」
僕は畑へ走り、真っ赤に完熟したトマトを一つもぎ取った。
【太陽の恵みトマト】。
日光を極限まで濃縮して蓄えたこの品種は、強力な浄化作用と生命力回復効果を持つ。聖水をそのまま果実にしたようなものだ。
キッチンへ戻り、トマトを丁寧に湯剥きし、果肉を潰してジュース状にする。さらに、薬効を高めるミントの葉を一枚浮かべた。
濃厚な赤色が、まるで宝石のように輝いている。
ベッドに戻り、少女の上半身を優しく起こす。
「飲めるかな?少しずつでいいから」
スプーンで赤い液体をすくい、彼女の薄い唇に流し込む。
最初は喉が受け付けないようだったが、一滴入り込むと、そのあまりの生命力に身体が反応したのか、彼女は無意識にゴクリと飲み込んだ。
二口、三口。
最後は自らカップに口を寄せ、一気に飲み干した。
「ぷはっ……」
カップが空になると同時に、彼女の身体が淡い光に包まれる。
左腕のドス黒いあざが、蒸発するように消えていく。
荒かった呼吸が静まり、頬に赤みが差してきた。
「ん……」
長い睫毛が震え、彼女がゆっくりと目を開けた。
そこには、澄み切ったアメジストのような瞳があった。
「ここは……?」
「気がついた?ここは僕の家だよ。荒野で行き倒れていたのを連れてきたんだ」
彼女は周囲を見渡し、最後に僕を見て、ハッと息を呑んだ。
慌てて居住まいを正そうとするが、まだ力が入らないようだ。
「無理しないで。呪いは解けたけど、体力は落ちてるから」
「あなたが、助けてくれたのですか……?」
「まあ、僕とフェンでね」
『礼には及ばんぞ、娘』
ベッドの脇からフェンが顔を出すと、彼女は驚きで固まった。
「フェ、フェンリル……!?伝説の、災厄の魔獣が……どうして……」
『災厄とは失礼な。我は主の忠実な騎士だ』
「騎士……?」
混乱する彼女に、僕は自己紹介をした。
「僕はカイル。ただの農夫さ。この子はフェン。君の名前は?」
彼女は一瞬、躊躇うように視線を伏せたが、意を決したように顔を上げた。
「……ソフィア。ソフィア・エル・アレクサンドラと申します」
アレクサンドラ。
それは、僕を追放したあの王国の、王家の姓だった。
彼女は、第三王女ソフィア。
社交界ではその冷徹なまでの美しさから「氷の聖女」と呼ばれ、同時に、王家が重視する攻撃魔法の才能がなかったため『無能』として冷遇されているという噂の姫君だった。
まさか、こんな辺境で出会うことになるとは。
改めて見ると、驚くほど整った顔立ちをしている。
透き通るような白い肌に、長い銀髪。その美しさは、泥にまみれていても隠しきれない。
だが、その顔色は悪く、苦しそうに呼吸を繰り返している。
「強力な衰弱の呪いだな。生命力をじわじわと削り取るタイプだ」
鑑定すると、彼女の状態異常欄には【呪毒:蝕み(中度)】とあった。
通常のポーションでは解呪できない、厄介な代物だ。
フェンが心配そうにベッドの横で鼻を鳴らす。
『主よ、この娘、死ぬのか?』
「死なせないよ。僕の畑がある限りね」
僕は畑へ走り、真っ赤に完熟したトマトを一つもぎ取った。
【太陽の恵みトマト】。
日光を極限まで濃縮して蓄えたこの品種は、強力な浄化作用と生命力回復効果を持つ。聖水をそのまま果実にしたようなものだ。
キッチンへ戻り、トマトを丁寧に湯剥きし、果肉を潰してジュース状にする。さらに、薬効を高めるミントの葉を一枚浮かべた。
濃厚な赤色が、まるで宝石のように輝いている。
ベッドに戻り、少女の上半身を優しく起こす。
「飲めるかな?少しずつでいいから」
スプーンで赤い液体をすくい、彼女の薄い唇に流し込む。
最初は喉が受け付けないようだったが、一滴入り込むと、そのあまりの生命力に身体が反応したのか、彼女は無意識にゴクリと飲み込んだ。
二口、三口。
最後は自らカップに口を寄せ、一気に飲み干した。
「ぷはっ……」
カップが空になると同時に、彼女の身体が淡い光に包まれる。
左腕のドス黒いあざが、蒸発するように消えていく。
荒かった呼吸が静まり、頬に赤みが差してきた。
「ん……」
長い睫毛が震え、彼女がゆっくりと目を開けた。
そこには、澄み切ったアメジストのような瞳があった。
「ここは……?」
「気がついた?ここは僕の家だよ。荒野で行き倒れていたのを連れてきたんだ」
彼女は周囲を見渡し、最後に僕を見て、ハッと息を呑んだ。
慌てて居住まいを正そうとするが、まだ力が入らないようだ。
「無理しないで。呪いは解けたけど、体力は落ちてるから」
「あなたが、助けてくれたのですか……?」
「まあ、僕とフェンでね」
『礼には及ばんぞ、娘』
ベッドの脇からフェンが顔を出すと、彼女は驚きで固まった。
「フェ、フェンリル……!?伝説の、災厄の魔獣が……どうして……」
『災厄とは失礼な。我は主の忠実な騎士だ』
「騎士……?」
混乱する彼女に、僕は自己紹介をした。
「僕はカイル。ただの農夫さ。この子はフェン。君の名前は?」
彼女は一瞬、躊躇うように視線を伏せたが、意を決したように顔を上げた。
「……ソフィア。ソフィア・エル・アレクサンドラと申します」
アレクサンドラ。
それは、僕を追放したあの王国の、王家の姓だった。
彼女は、第三王女ソフィア。
社交界ではその冷徹なまでの美しさから「氷の聖女」と呼ばれ、同時に、王家が重視する攻撃魔法の才能がなかったため『無能』として冷遇されているという噂の姫君だった。
まさか、こんな辺境で出会うことになるとは。
164
あなたにおすすめの小説
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。
しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。
永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。
追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。
「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」
その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。
実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。
一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。
これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。
彼女が最後に選択する《最適解》とは――。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~
日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。
田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。
成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。
「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」
彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で……
一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。
国王や王女は気づいていない。
自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。
小説家になろうでも短編として投稿してます。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる