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第4話「氷の聖女と太陽のトマト」
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少女をカボチャハウスに運び込み、ベッド(藁と高級コットン草で作ったフカフカ仕様)に寝かせた。
改めて見ると、驚くほど整った顔立ちをしている。
透き通るような白い肌に、長い銀髪。その美しさは、泥にまみれていても隠しきれない。
だが、その顔色は悪く、苦しそうに呼吸を繰り返している。
「強力な衰弱の呪いだな。生命力をじわじわと削り取るタイプだ」
鑑定すると、彼女の状態異常欄には【呪毒:蝕み(中度)】とあった。
通常のポーションでは解呪できない、厄介な代物だ。
フェンが心配そうにベッドの横で鼻を鳴らす。
『主よ、この娘、死ぬのか?』
「死なせないよ。僕の畑がある限りね」
僕は畑へ走り、真っ赤に完熟したトマトを一つもぎ取った。
【太陽の恵みトマト】。
日光を極限まで濃縮して蓄えたこの品種は、強力な浄化作用と生命力回復効果を持つ。聖水をそのまま果実にしたようなものだ。
キッチンへ戻り、トマトを丁寧に湯剥きし、果肉を潰してジュース状にする。さらに、薬効を高めるミントの葉を一枚浮かべた。
濃厚な赤色が、まるで宝石のように輝いている。
ベッドに戻り、少女の上半身を優しく起こす。
「飲めるかな?少しずつでいいから」
スプーンで赤い液体をすくい、彼女の薄い唇に流し込む。
最初は喉が受け付けないようだったが、一滴入り込むと、そのあまりの生命力に身体が反応したのか、彼女は無意識にゴクリと飲み込んだ。
二口、三口。
最後は自らカップに口を寄せ、一気に飲み干した。
「ぷはっ……」
カップが空になると同時に、彼女の身体が淡い光に包まれる。
左腕のドス黒いあざが、蒸発するように消えていく。
荒かった呼吸が静まり、頬に赤みが差してきた。
「ん……」
長い睫毛が震え、彼女がゆっくりと目を開けた。
そこには、澄み切ったアメジストのような瞳があった。
「ここは……?」
「気がついた?ここは僕の家だよ。荒野で行き倒れていたのを連れてきたんだ」
彼女は周囲を見渡し、最後に僕を見て、ハッと息を呑んだ。
慌てて居住まいを正そうとするが、まだ力が入らないようだ。
「無理しないで。呪いは解けたけど、体力は落ちてるから」
「あなたが、助けてくれたのですか……?」
「まあ、僕とフェンでね」
『礼には及ばんぞ、娘』
ベッドの脇からフェンが顔を出すと、彼女は驚きで固まった。
「フェ、フェンリル……!?伝説の、災厄の魔獣が……どうして……」
『災厄とは失礼な。我は主の忠実な騎士だ』
「騎士……?」
混乱する彼女に、僕は自己紹介をした。
「僕はカイル。ただの農夫さ。この子はフェン。君の名前は?」
彼女は一瞬、躊躇うように視線を伏せたが、意を決したように顔を上げた。
「……ソフィア。ソフィア・エル・アレクサンドラと申します」
アレクサンドラ。
それは、僕を追放したあの王国の、王家の姓だった。
彼女は、第三王女ソフィア。
社交界ではその冷徹なまでの美しさから「氷の聖女」と呼ばれ、同時に、王家が重視する攻撃魔法の才能がなかったため『無能』として冷遇されているという噂の姫君だった。
まさか、こんな辺境で出会うことになるとは。
改めて見ると、驚くほど整った顔立ちをしている。
透き通るような白い肌に、長い銀髪。その美しさは、泥にまみれていても隠しきれない。
だが、その顔色は悪く、苦しそうに呼吸を繰り返している。
「強力な衰弱の呪いだな。生命力をじわじわと削り取るタイプだ」
鑑定すると、彼女の状態異常欄には【呪毒:蝕み(中度)】とあった。
通常のポーションでは解呪できない、厄介な代物だ。
フェンが心配そうにベッドの横で鼻を鳴らす。
『主よ、この娘、死ぬのか?』
「死なせないよ。僕の畑がある限りね」
僕は畑へ走り、真っ赤に完熟したトマトを一つもぎ取った。
【太陽の恵みトマト】。
日光を極限まで濃縮して蓄えたこの品種は、強力な浄化作用と生命力回復効果を持つ。聖水をそのまま果実にしたようなものだ。
キッチンへ戻り、トマトを丁寧に湯剥きし、果肉を潰してジュース状にする。さらに、薬効を高めるミントの葉を一枚浮かべた。
濃厚な赤色が、まるで宝石のように輝いている。
ベッドに戻り、少女の上半身を優しく起こす。
「飲めるかな?少しずつでいいから」
スプーンで赤い液体をすくい、彼女の薄い唇に流し込む。
最初は喉が受け付けないようだったが、一滴入り込むと、そのあまりの生命力に身体が反応したのか、彼女は無意識にゴクリと飲み込んだ。
二口、三口。
最後は自らカップに口を寄せ、一気に飲み干した。
「ぷはっ……」
カップが空になると同時に、彼女の身体が淡い光に包まれる。
左腕のドス黒いあざが、蒸発するように消えていく。
荒かった呼吸が静まり、頬に赤みが差してきた。
「ん……」
長い睫毛が震え、彼女がゆっくりと目を開けた。
そこには、澄み切ったアメジストのような瞳があった。
「ここは……?」
「気がついた?ここは僕の家だよ。荒野で行き倒れていたのを連れてきたんだ」
彼女は周囲を見渡し、最後に僕を見て、ハッと息を呑んだ。
慌てて居住まいを正そうとするが、まだ力が入らないようだ。
「無理しないで。呪いは解けたけど、体力は落ちてるから」
「あなたが、助けてくれたのですか……?」
「まあ、僕とフェンでね」
『礼には及ばんぞ、娘』
ベッドの脇からフェンが顔を出すと、彼女は驚きで固まった。
「フェ、フェンリル……!?伝説の、災厄の魔獣が……どうして……」
『災厄とは失礼な。我は主の忠実な騎士だ』
「騎士……?」
混乱する彼女に、僕は自己紹介をした。
「僕はカイル。ただの農夫さ。この子はフェン。君の名前は?」
彼女は一瞬、躊躇うように視線を伏せたが、意を決したように顔を上げた。
「……ソフィア。ソフィア・エル・アレクサンドラと申します」
アレクサンドラ。
それは、僕を追放したあの王国の、王家の姓だった。
彼女は、第三王女ソフィア。
社交界ではその冷徹なまでの美しさから「氷の聖女」と呼ばれ、同時に、王家が重視する攻撃魔法の才能がなかったため『無能』として冷遇されているという噂の姫君だった。
まさか、こんな辺境で出会うことになるとは。
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