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第3話「伝説の魔獣は腹ペコだった」
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振り返ると、そこには「犬」がいた。
いや、犬にしては大きい。大型犬くらいのサイズだが、全身が銀色の毛並みに覆われ、額には小さな角のような突起がある。
そして何より、その瞳は知性を宿した深い蒼色をしていた。
(狼……?いや、魔獣か)
僕は緊張して身構えた。
ここは魔物の領域だ。たとえ美しくても、襲いかかってくるなら迎撃しなければならない。
僕には武器がないが、【植物使役】で足元の草を鋼鉄のように硬化させて拘束することはできるはずだ。
だが、その銀色の獣は、襲いかかってくる様子がなかった。
フラフラと頼りない足取りで近づいてくると、僕の手元――焼き上がったばかりの芋をじっと見つめ、クゥン、と小さく鳴いたのだ。
そのお腹が、ギュルルル、と大きな音を立てる。
「……なんだ、お腹が空いてるのか?」
警戒を解き、僕は残っていた焼きジャガイモを一つ、放り投げた。
獣は空中でそれをパクりとくわえ、着地と同時にハフハフと咀嚼する。
瞬間、その蒼い瞳が見開かれた。
そして次の瞬間には、僕の足元に猛ダッシュで駆け寄り、尻尾を千切れんばかりに振り始めたのだ。
「わっ、ちょ、落ち着けって!」
その顔は、まるで「もっとくれ!それ最高に美味い!神!」と言わんばかりだ。
僕は苦笑しながら、残りのジャガイモをすべて彼(彼女?)に与えた。
あっという間に平らげた獣は、満足げに僕の足に体を擦り付けてくる。
その毛並みは驚くほど柔らかく、温かかった。
『我が名は、フェンリル。誇り高き、銀狼の王なり』
突然、頭の中に直接、幼いが凛とした声が響いた。
僕は驚いて周囲を見渡すが、誰もいない。
目の前の銀色の獣が、じっと僕を見上げている。
「え、お前が喋ってるの?」
『然り。主よ、感謝する。あの黄金の芋は、我が魂を震わせる絶品であった』
「フェンリルって……あの伝説の?」
フェンリル。神話級の魔獣で、成長すれば山をも砕く力を持ち、天候すら操ると言われる最強の狼。
そんな存在が、どうしてこんな所に?しかも、ジャガイモに釣られて。
『我は親とはぐれ、この不毛の地で飢えておった。もはや死を待つのみかと思っておったが……主の芋が、我に力をくれた』
フェンリル――と名乗る幼獣は、僕の手をペロリと舐めた。
『主よ、我は決めた。汝に生涯従おう。汝の作る飯がある限り、我は汝の盾となり、矛となろう』
「飯がある限り、なんだ……」
なんとも現金な契約だが、頼もしいことには変わりない。
この広大な農地(予定)を一人で守るのは骨が折れると思っていたところだ。
「わかった。よろしくな、フェンリル。名前、長いから『フェン』でいいか?」
『フェン……悪くない響きだ。主よ、次はトマトがいい。赤くて瑞々しいやつだ』
「要求が具体的だな!」
こうして、僕の追放スローライフに、最強にして最優の「食いしん坊」な相棒が加わったのだった。
***
フェンを仲間に加えて数日が経った。
僕の農園は急速に拡大していた。
トマト、ナス、キュウリ、トウモロコシ。
カボチャハウスの周りには、色とりどりの野菜畑が広がっている。
【土壌完全浄化】で浄められた土地は、魔素をたっぷりと含んでいるため、育つ野菜はどれも巨大で味が濃く、そして栄養価が異常に高い。
フェンは毎日畑を駆け回り、害獣(主に巨大なモグラや暴走イノシシ)を追い払っては、報酬のトマトをねだってくる。
「さて、今日は少し遠くまで探索してみるか」
ある日、僕はフェンの背中に跨り、農園の外周へ向かった。
浄化したエリアの端まで来ると、そこから先はまだ赤茶けた荒野が続いている。
その境界線付近に、黒い影が見えた。
フェンが低く唸る。
『主よ、血の匂いがします』
「行こう!」
フェンが大地を蹴る。
風のような速さで接近すると、そこには一台の豪奢な馬車が横転していた。
車輪は砕け、御者らしき人の姿はない。
そして、馬車の陰で、一人の少女が剣を構え、数匹の「影狼(シャドウウルフ)」と対峙していた。
少女の銀色の髪は泥と血で汚れ、白いドレスはボロボロに裂けている。
呼吸は荒く、足元もおぼつかない。
明らかに限界だ。
一匹の影狼が、少女の隙を突いて飛びかかった。
「しまっ――!」
「フェン!」
『心得た!』
僕の合図と共に、フェンが咆哮を上げる。
その声だけで衝撃波が発生し、飛びかかった影狼が吹き飛ばされた。
僕はフェンの背から飛び降りると、地面に手を叩きつける。
「【植物使役】、拘束荊棘(バインド・ソーン)!」
ズズズッ!
地面から太いイバラの蔦が一斉に噴出し、残りの影狼たちを瞬時に絡め取った。
トゲには強力な麻痺毒を含ませてある(品種改良済み)。影狼たちは数回痙攣したあと、動かなくなった。
「大丈夫ですか?」
僕が声をかけると、少女は虚ろな目でこちらを見上げ、
「……天使……様……?」
とつぶやいて、糸が切れたように崩れ落ちた。
僕は慌てて彼女を抱き留める。
羽のように軽い。そして、体温が異常に高かった。
彼女の左腕には、ドス黒いあざのような文様が浮かび上がっている。
これは怪我じゃない。呪いだ。
いや、犬にしては大きい。大型犬くらいのサイズだが、全身が銀色の毛並みに覆われ、額には小さな角のような突起がある。
そして何より、その瞳は知性を宿した深い蒼色をしていた。
(狼……?いや、魔獣か)
僕は緊張して身構えた。
ここは魔物の領域だ。たとえ美しくても、襲いかかってくるなら迎撃しなければならない。
僕には武器がないが、【植物使役】で足元の草を鋼鉄のように硬化させて拘束することはできるはずだ。
だが、その銀色の獣は、襲いかかってくる様子がなかった。
フラフラと頼りない足取りで近づいてくると、僕の手元――焼き上がったばかりの芋をじっと見つめ、クゥン、と小さく鳴いたのだ。
そのお腹が、ギュルルル、と大きな音を立てる。
「……なんだ、お腹が空いてるのか?」
警戒を解き、僕は残っていた焼きジャガイモを一つ、放り投げた。
獣は空中でそれをパクりとくわえ、着地と同時にハフハフと咀嚼する。
瞬間、その蒼い瞳が見開かれた。
そして次の瞬間には、僕の足元に猛ダッシュで駆け寄り、尻尾を千切れんばかりに振り始めたのだ。
「わっ、ちょ、落ち着けって!」
その顔は、まるで「もっとくれ!それ最高に美味い!神!」と言わんばかりだ。
僕は苦笑しながら、残りのジャガイモをすべて彼(彼女?)に与えた。
あっという間に平らげた獣は、満足げに僕の足に体を擦り付けてくる。
その毛並みは驚くほど柔らかく、温かかった。
『我が名は、フェンリル。誇り高き、銀狼の王なり』
突然、頭の中に直接、幼いが凛とした声が響いた。
僕は驚いて周囲を見渡すが、誰もいない。
目の前の銀色の獣が、じっと僕を見上げている。
「え、お前が喋ってるの?」
『然り。主よ、感謝する。あの黄金の芋は、我が魂を震わせる絶品であった』
「フェンリルって……あの伝説の?」
フェンリル。神話級の魔獣で、成長すれば山をも砕く力を持ち、天候すら操ると言われる最強の狼。
そんな存在が、どうしてこんな所に?しかも、ジャガイモに釣られて。
『我は親とはぐれ、この不毛の地で飢えておった。もはや死を待つのみかと思っておったが……主の芋が、我に力をくれた』
フェンリル――と名乗る幼獣は、僕の手をペロリと舐めた。
『主よ、我は決めた。汝に生涯従おう。汝の作る飯がある限り、我は汝の盾となり、矛となろう』
「飯がある限り、なんだ……」
なんとも現金な契約だが、頼もしいことには変わりない。
この広大な農地(予定)を一人で守るのは骨が折れると思っていたところだ。
「わかった。よろしくな、フェンリル。名前、長いから『フェン』でいいか?」
『フェン……悪くない響きだ。主よ、次はトマトがいい。赤くて瑞々しいやつだ』
「要求が具体的だな!」
こうして、僕の追放スローライフに、最強にして最優の「食いしん坊」な相棒が加わったのだった。
***
フェンを仲間に加えて数日が経った。
僕の農園は急速に拡大していた。
トマト、ナス、キュウリ、トウモロコシ。
カボチャハウスの周りには、色とりどりの野菜畑が広がっている。
【土壌完全浄化】で浄められた土地は、魔素をたっぷりと含んでいるため、育つ野菜はどれも巨大で味が濃く、そして栄養価が異常に高い。
フェンは毎日畑を駆け回り、害獣(主に巨大なモグラや暴走イノシシ)を追い払っては、報酬のトマトをねだってくる。
「さて、今日は少し遠くまで探索してみるか」
ある日、僕はフェンの背中に跨り、農園の外周へ向かった。
浄化したエリアの端まで来ると、そこから先はまだ赤茶けた荒野が続いている。
その境界線付近に、黒い影が見えた。
フェンが低く唸る。
『主よ、血の匂いがします』
「行こう!」
フェンが大地を蹴る。
風のような速さで接近すると、そこには一台の豪奢な馬車が横転していた。
車輪は砕け、御者らしき人の姿はない。
そして、馬車の陰で、一人の少女が剣を構え、数匹の「影狼(シャドウウルフ)」と対峙していた。
少女の銀色の髪は泥と血で汚れ、白いドレスはボロボロに裂けている。
呼吸は荒く、足元もおぼつかない。
明らかに限界だ。
一匹の影狼が、少女の隙を突いて飛びかかった。
「しまっ――!」
「フェン!」
『心得た!』
僕の合図と共に、フェンが咆哮を上げる。
その声だけで衝撃波が発生し、飛びかかった影狼が吹き飛ばされた。
僕はフェンの背から飛び降りると、地面に手を叩きつける。
「【植物使役】、拘束荊棘(バインド・ソーン)!」
ズズズッ!
地面から太いイバラの蔦が一斉に噴出し、残りの影狼たちを瞬時に絡め取った。
トゲには強力な麻痺毒を含ませてある(品種改良済み)。影狼たちは数回痙攣したあと、動かなくなった。
「大丈夫ですか?」
僕が声をかけると、少女は虚ろな目でこちらを見上げ、
「……天使……様……?」
とつぶやいて、糸が切れたように崩れ落ちた。
僕は慌てて彼女を抱き留める。
羽のように軽い。そして、体温が異常に高かった。
彼女の左腕には、ドス黒いあざのような文様が浮かび上がっている。
これは怪我じゃない。呪いだ。
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