『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人

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第三章:民を守る令嬢、逆転の改革が始まる

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 腐敗の根源を断ち切った翌日から、私の本当の戦いが始まった。最初の課題は、民の命を脅かす水不足の解決だ。
 私は代官たちが私利私欲のために計画した無意味な水路の建設計画を白紙に戻し、代わりに、領地に古くからある複数の井戸の調査を命じた。
「クラリス様、これらの井戸はもう何年も前に枯れてしまい……」
 古参の村長が、諦め顔で報告する。だが、私は父から受け継いだ地質学の知識と、古い地図を頼りに、ある可能性に気づいていた。
「いいえ、枯れたのではありません。地下水脈の流れが変わり、井戸の底に土砂が溜まっているだけのはず。より深く掘り進めれば、必ず水は湧き出ます」
 私は自ら図面を引き、効率的な掘削方法と土砂を排出するための滑車の設計まで行った。剣術の鍛錬で培った体力で、時には自らも土にまみれて作業を手伝う。その姿に、最初は遠巻きに見ていた領民たちも、次第に半信半疑ながらも手を貸し始めた。
 そして、改革開始から十日後。ついにその瞬間は訪れた。
「水だ! 水が出たぞ!」
 男たちの歓声が響き渡る。乾ききった井戸の底から、泥を押し分けるようにして、清らかな水が勢いよく湧き出してきたのだ。人々は歓声を上げ、互いに抱き合い、涙を流して喜んだ。その輪の中心で、泥だらけの私を見て、村長の目が驚きと、そして確かな尊敬の色に変わったのが分かった。
 水の確保の次は、食糧問題だ。私は私財を投じて隣領から最低限の食糧を買い付け、民に配給すると同時に、大胆な税制改革を発表した。
「今年度の収穫に対する税は、一律で三割軽減します。さらに、新たに開墾した土地に関しては、三年間、税を免除します」
 この布告は、領民たちに大きな衝撃を与えた。搾取されることに慣れきっていた彼らは、すぐには私の言葉を信じられないようだった。
「だが、条件があります。それは、私の指導に従って、新たな農法を試してもらうこと」
 私は父の書斎に残されていた農業に関する書物を読み解き、この土地の土壌に適した輪作や、干ばつに強い作物の栽培法を提案した。さらに、騎士団の指揮経験を活かし、農作業の分担や効率的な人員配置を指示する。それはまさに、畑を戦場に見立てた緻密な戦略だった。
 最初は戸惑い、私の指示を「お嬢様の戯言」と揶揄する者もいた。だが、修復された井戸から水が安定して供給され、私の予測通りに作物の芽が力強く育ち始めると、彼らの態度は明らかに変わっていった。
 領民たちの目に、私に対する不信感の代わりに、かすかな希望の光が灯り始める。
「クラリス様は、俺たちのことを見捨てねえ」
「ああ。口先だけじゃなく、本当に俺たちのために動いてくださる」
 そんな囁きが、私の耳にも届くようになった。
 だが、改革はまだ道半ばだ。作物が育っても、それを売り、領地全体の経済を回さなければ、真の復興とは言えない。私には、この領地の産物を王都、ひいては国全体に流通させるための、強力な協力者が必要だった。
 その出会いが、すぐそこに迫っていることを、この時の私はまだ知らなかった。
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