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第八章:裁きの舞台、王宮に響く真実の声
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王都に到着した私は、一切の躊躇なく王宮の門を叩き、国王陛下への謁見を求めた。そして、父から受け継いだ辺境伯としての権利を行使し、王太子妃ミレーユに対する弾劾裁判の開催を正式に申し出た。
「王太子妃に、殺人未遂の容疑あり」
私の訴えは、王宮に激震を走らせた。民衆に愛される“聖女”が、追放された“悪役令嬢”を殺そうとした。にわかには信じがたいスキャンダルに、王都中が騒然となった。
数日後、王宮内の特別法廷で、前代未聞の裁判が開かれることになった。傍聴席は、固唾を飲んで成り行きを見守る貴族たちで埋め尽くされている。
被告席には、純白のドレスに身を包み、悲劇のヒロインのように涙を浮かべるミレーユ。その隣では、夫であるアルベルト殿下が、怒りに満ちた顔で私を睨みつけている。
「罪人クラリスめ! ミレーユを陥れるために、どれほど卑劣な嘘を並べるつもりだ!」
法廷に響き渡るアルベルト殿下の罵声。だが、今の私には、その言葉は空虚にしか聞こえない。私はただ静かに、裁判長である国王陛下に一礼した。
「陛下。私がここにいるのは、私怨を晴らすためではありません。王家の、そしてこの国の安寧を脅かす元凶を断ち切るためです」
裁判が始まると、ミレーユの弁護人は、私が逆恨みから聖女様を貶めようとしているのだと声高に主張した。傍聴席の空気も、やはり「平民の聖女VS悪役令嬢」という分かりやすい構図に流れ、私に同情的な者はほとんどいなかった。
だが、私は慌てない。
「では、最初の証拠を提出いたします」
私が合図すると、護衛騎士が毒の入った祝いの酒瓶を法廷に運び込んだ。鑑定官による厳密な検査の結果、中に猛毒『黒き涙』が混入されていたことが、公式に証明される。
「この酒は、国王陛下の名の下に、私に贈られたもの。しかし、その手配をしたのは、王太子妃殿下だと聞いております」
ミレーユは「そんなことは知らない」と、か細い声で否定する。
だが、私は次々とカードを切っていった。ルシアンの情報網と密偵が掴んだ、数々の証拠。ミレーユがこの毒を闇市場の商人から購入したという証言。彼女が私に送る品に毒を仕込むよう、侍女に命じたという侍女自身の告白。そして、彼女が集めた寄付金の不正な金の流れを示す、完璧な帳簿。
一つ、また一つと真実が暴かれていくたびに、法廷の空気は劇的に変わっていった。ミレーユの顔からは血の気が失せ、傍聴席の貴族たちは、囁き声からあからさまな非難の声へと変わっていく。
「なんてことだ……聖女様が、そんな……」
「いや、もはや聖女などではない。ただの悪女だ」
理詰めと、揺るがぬ証拠、そして真実の言葉が、これまで人々が抱いていた評判という名の虚像を、粉々に打ち砕いていく。
追い詰められたミレーユは、ついに金切り声を上げた。
「違う! 私は悪くない! 全部、この女が悪いのよ! この悪役令嬢が、アルベルト様をたぶらかして……!」
その見苦しい姿に、人々は侮蔑の視線を送るだけだった。勝敗は、もはや誰の目にも明らかだった。
「王太子妃に、殺人未遂の容疑あり」
私の訴えは、王宮に激震を走らせた。民衆に愛される“聖女”が、追放された“悪役令嬢”を殺そうとした。にわかには信じがたいスキャンダルに、王都中が騒然となった。
数日後、王宮内の特別法廷で、前代未聞の裁判が開かれることになった。傍聴席は、固唾を飲んで成り行きを見守る貴族たちで埋め尽くされている。
被告席には、純白のドレスに身を包み、悲劇のヒロインのように涙を浮かべるミレーユ。その隣では、夫であるアルベルト殿下が、怒りに満ちた顔で私を睨みつけている。
「罪人クラリスめ! ミレーユを陥れるために、どれほど卑劣な嘘を並べるつもりだ!」
法廷に響き渡るアルベルト殿下の罵声。だが、今の私には、その言葉は空虚にしか聞こえない。私はただ静かに、裁判長である国王陛下に一礼した。
「陛下。私がここにいるのは、私怨を晴らすためではありません。王家の、そしてこの国の安寧を脅かす元凶を断ち切るためです」
裁判が始まると、ミレーユの弁護人は、私が逆恨みから聖女様を貶めようとしているのだと声高に主張した。傍聴席の空気も、やはり「平民の聖女VS悪役令嬢」という分かりやすい構図に流れ、私に同情的な者はほとんどいなかった。
だが、私は慌てない。
「では、最初の証拠を提出いたします」
私が合図すると、護衛騎士が毒の入った祝いの酒瓶を法廷に運び込んだ。鑑定官による厳密な検査の結果、中に猛毒『黒き涙』が混入されていたことが、公式に証明される。
「この酒は、国王陛下の名の下に、私に贈られたもの。しかし、その手配をしたのは、王太子妃殿下だと聞いております」
ミレーユは「そんなことは知らない」と、か細い声で否定する。
だが、私は次々とカードを切っていった。ルシアンの情報網と密偵が掴んだ、数々の証拠。ミレーユがこの毒を闇市場の商人から購入したという証言。彼女が私に送る品に毒を仕込むよう、侍女に命じたという侍女自身の告白。そして、彼女が集めた寄付金の不正な金の流れを示す、完璧な帳簿。
一つ、また一つと真実が暴かれていくたびに、法廷の空気は劇的に変わっていった。ミレーユの顔からは血の気が失せ、傍聴席の貴族たちは、囁き声からあからさまな非難の声へと変わっていく。
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