過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました

黒崎隼人

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第8話「忍び寄る本当の脅威。平和ボケしてる場合じゃなかった……!」

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 アグリトピア建国宣言から、半年が過ぎた。

 王国は、順調すぎるほどに発展を続けていた。人口は千人を超え、荒野だった土地には、整然とした街並みが広がっている。

 俺、相川大地は、国王という柄にもない役職に就いたものの、やっていることは以前とあまり変わらない。朝は畑に出て神農具を振るい、昼はガンツやミミたちと国の運営について話し合い、夜は仲間たちと食卓を囲む。

 国王というより、村長に近いかもしれない。だが、その方が俺には性に合っていた。

 国が豊かになるにつれ、様々な制度も整ってきた。

 ガンツが管理する鉱山からは、豊富な資源が産出され、それを元にした他国との交易も始まった。俺たちの国が作る高品質な食料や、ドワーフ謹製の武具や工芸品は、面白いように売れた。

 ミミが鍛え上げた警備隊は、今や『王国騎士団』となり、国の安全を盤石なものにしている。

 シルフィは、薬草学と魔法の知識を活かして、治療院を開設した。彼女の作るポーションは、どんな怪我もたちまち治すと評判だ。

 コロはすっかり大きくなり、成犬くらいのサイズになった。相変わらず俺にべったりだが、その力は国の守りの要だ。コロが遠吠えをすれば、数キロ先にいる魔物さえ震え上がって逃げていく。

 平和だった。誰もが、この幸せな日々が永遠に続くと信じていた。

 だが、この世界を蝕む、本当の脅威は、静かに、だが着実に、俺たちの足元に迫っていたのだ。

 ***

 異変の兆候は、些細なことから始まった。

「最近、凶暴な魔物が増えた気がする」

 騎士団の定例報告で、ミミが眉をひそめて言った。

「今までは森の奥にしかいなかったような奴らが、国の近くまで出てくるようになったんだ。それに、なんだか様子がおかしい。前よりもずっと、凶暴になってる感じがする」

 それと時を同じくして、他国から来た商人たちが、不穏な噂を口にするようになった。

『北の大陸で、魔王が復活したらしい』
『魔王軍の侵攻が始まり、いくつもの国が既に滅ぼされたとか……』

 最初は、ただの噂話だと軽く考えていた。

 だが、アグリトピアに、ボロボロになったエルフの一団が逃げ込んできたことで、それがただの噂ではないことを、俺たちは思い知らされる。

 彼らは、北の森に住んでいたエルフの生き残りだった。

「……黒い鎧の軍団が、突然、森を……。炎が、悲鳴が……」

 リーダー格のエルフは、震えながら語った。

 魔王軍。

 それは、この世界を創造した女神セレスティアが、俺をこの世界に呼んだ理由。

 この世界を、荒廃させている元凶。

「遂に、来たか……」

 俺は、覚悟を決めた。スローライフだの、平和な国づくりだの、そんな甘いことを言っていられる段階は、もう終わったのだ。

 俺はすぐに、国の幹部――シルフィ、ミミ、ガンツ――を招集し、緊急会議を開いた。

「魔王軍が、すぐそこまで迫っている。俺たちは、戦わなければならない」

 俺の言葉に、三人の表情が引き締まる。

「分かってる。あたしたちの国は、あたしたちで守る!」

 ミミが力強く言う。

「うむ。ドワーフの技術の全てを、この国の防衛のために注ぎ込もう。奴らに、鉄槌を下してくれるわ」

 ガンツも、決意を固めている。

 シルフィだけが、悲しそうな顔で俯いていた。

「……また、戦いが始まるのですね。私の故郷のように、この国が焼かれてしまうのは……もう、見たくありません」

 故郷を魔物に滅ぼされた彼女にとって、戦いは何よりも辛い記憶を呼び起こすのだろう。

 俺は、そんなシルフィの肩に、そっと手を置いた。

「大丈夫だ、シルフィ。今度は、一人じゃない。俺たちがいる。絶対に、この国を、第二の故郷を、お前から奪わせたりはしない」

「……ダイチ様」

 シルフィが、潤んだ瞳で俺を見上げる。

 そうだ。俺には、守るべきものがある。この国と、ここに住む仲間たちの笑顔。そのために、俺は王になったんだ。

 会議の後、アグリトピアは、一気に臨戦態勢に入った。

 ガンツの指揮のもと、国の周りには、俺が『開墾のクワ』で生み出した土壁よりも、さらに強固な城壁の建設が急ピッチで進められた。壁には、ドワーフ製の弩(いしゆみ)や投石機が設置される。

 ミミは騎士団を再編成し、昼夜を問わず厳しい訓練を始めた。獣人だけでなく、人間やドワーフの若者も、義勇兵として次々と騎士団に志願した。

 シルフィは、治療院の設備を拡充し、野戦病院の準備を整えた。彼女の元には、エルフたちが集まり、回復魔法や補助魔法の訓練を始める。

 国全体が、一つの意志の元に動き出していた。

『この国を、自分たちの手で守り抜く』という、固い意志だ。

 俺は、そんな仲間たちの姿を頼もしく思うと同時に、自分の力の未熟さを感じていた。

 神農具には、まだ俺の知らない力が眠っているはずだ。大地を操り、植物を操り、地震を起こす。それだけじゃない、もっと根源的な力が。

 女神セレスティアは言った。『この世界を、かつての緑豊かな姿に戻してほしい』と。

 それは、ただ魔王軍を倒すだけでは、達成できない願いのはずだ。

 答えは、この神農具と、俺自身の中にある。

 決戦の日は、近い。

 俺は、夕日に染まる自らの王国を見下ろしながら、静かに闘志を燃やしていた。

 農民にだって、守りたいもののために、世界を相手に戦う権利があるはずだ。
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