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第6話「広がる名声と落ちぶれた勇者たち」
リリアが「真眼堂」の店員になってから、数週間が過ぎた。彼女は驚くほど仕事の覚えが早く、すぐに俺の片腕として活躍してくれるようになった。明るさを取り戻した彼女の笑顔は、殺風景だった店の中に華を添えてくれている。なにより、誰かと一緒に食事をするのがこんなに楽しいことだとは、一人で暮らしていた時には気づかなかった。
「アキラ様、今日の依頼品です」
リリアがカウンターに持ってきたのは、一つの古びた指輪だった。依頼主は、最近名を上げてきているBランクパーティのリーダーらしい。
「ありがとう、リリア。ちょっと見てみるか」
俺は指輪を受け取り、【万物解析】を発動させる。
【万物解析】
真名:俊敏の指輪
ランク:B
詳細:風の精霊の力が宿った指輪。装着者の素早さを向上させる。
隠された能力:二段加速(ダブルアクセル)
能力解放条件:『風よ、我が足となれ』と詠唱し、魔力を注ぐ。
制作者の思念:『これを持つ者が、疾風の如く戦場を駆けられんことを』
「なるほどな。ただの俊敏の指輪じゃない。隠された能力がある」
俺は鑑定結果を依頼主に説明した。彼は半信半疑だったが、俺が教えた詠唱を試してみると、その身体が目にも留まらぬ速さで動いたことに、腰を抜かすほど驚いていた。
「す、すげぇ! この指輪にこんな力が眠っていたなんて! あんた、神か!?」
大げさに感謝する依頼主を見送りながら、俺は自分の力に改めて自信を深めていた。どんなアイテムにも、作られた背景があり、製作者の思いが込められている。俺のスキルは、その全てを読み解くことができるのだ。
噂は噂を呼び、「真眼堂」には、ひっきりなしに依頼が舞い込むようになった。呪われた武具の解呪、伝説のアイテムの修復、未発見の魔法道具の能力解放。俺とリリアは、来る日も来る日も依頼に追われたが、その毎日はとても充実していた。
そんなある日、俺はリリアと一緒に、素材の買い出しのために王都の市場を訪れていた。その帰り道のことだ。人だかりができているのに気づき、何事かと覗き込んでみた。
その中心にいたのは、見知った顔だった。
「この通りだ! 誰か、ポーションを恵んでくれ!」
「この傷じゃ、もう戦えないんだ……」
冒険者たちが、通行人に物乞いをしている。そのみすぼらしい姿は、かつてSランクパーティとして栄華を誇った「紅蓮の牙」のメンバー、魔法使いのグレイとヒーラーのセシリアだった。二人ともあちこちに怪我を負い、その装備はボロボロだった。
(いったい、何があったんだ……?)
俺がパーティにいた頃は、彼らはいつも最新鋭の輝く装備に身を包んでいたはずだ。それが、どうしてこんなことに。
近くにいた商人たちの会話が、俺の耳に入ってきた。
「見たかい、あれが元Sランクの『紅蓮の牙』のなれの果てだってさ」
「ああ、聞いた聞いた。リーダーのゼノンが、大事な聖剣をダンジョンで失くしちまったらしいじゃないか」
「なんでも、宝箱に化けたミミックに食われちまったんだと。アホだよな、Sランクにもなってそんな初歩的な罠に引っかかるなんて」
「鑑定士を追い出したのが運の尽きだったのさ。装備の管理も、情報の精査も、全部その鑑定士がやってたらしいからな」
ミミック……。その言葉に、俺は自分が追放された日のことを思い出していた。あの時、俺は確かに警告したはずだ。あの宝箱は罠だと。だが、ゼノンはそれを無視した。その結果が、これか。
自業自得だ。そう思う一方で、かつての仲間(と呼べるほど良い関係ではなかったが)の哀れな姿に、少しだけ胸が痛んだ。
「アキラ様……?」
俺の様子を心配してか、リリアが不安そうな顔でこちらを見ている。
「いや、なんでもない。行こう」
俺は彼らに気づかれないように、そっとその場を離れた。彼らがどうなろうと、もう俺には関係のないことだ。俺には、俺の新しい人生がある。守るべき仲間がいる。
店に戻ると、ゴウが小さな身体で健気に留守番をしていた。
《マスター、お帰りなさいませ》
「ああ、ただいま。ゴウ」
俺はゴウの小さな頭を撫でた。リリアがいて、ゴウがいる。このささやかな日常が、今の俺にとっては、何物にも代えがたい宝物だった。
過去を振り返っている暇はない。俺は前を向いて、自分の道を歩んでいくだけだ。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。落ちぶれた彼らと、最悪の形で再会することになるなんて。そして、彼らが失ったという聖剣が、俺の運命を大きく左右することになるということも。
「アキラ様、今日の依頼品です」
リリアがカウンターに持ってきたのは、一つの古びた指輪だった。依頼主は、最近名を上げてきているBランクパーティのリーダーらしい。
「ありがとう、リリア。ちょっと見てみるか」
俺は指輪を受け取り、【万物解析】を発動させる。
【万物解析】
真名:俊敏の指輪
ランク:B
詳細:風の精霊の力が宿った指輪。装着者の素早さを向上させる。
隠された能力:二段加速(ダブルアクセル)
能力解放条件:『風よ、我が足となれ』と詠唱し、魔力を注ぐ。
制作者の思念:『これを持つ者が、疾風の如く戦場を駆けられんことを』
「なるほどな。ただの俊敏の指輪じゃない。隠された能力がある」
俺は鑑定結果を依頼主に説明した。彼は半信半疑だったが、俺が教えた詠唱を試してみると、その身体が目にも留まらぬ速さで動いたことに、腰を抜かすほど驚いていた。
「す、すげぇ! この指輪にこんな力が眠っていたなんて! あんた、神か!?」
大げさに感謝する依頼主を見送りながら、俺は自分の力に改めて自信を深めていた。どんなアイテムにも、作られた背景があり、製作者の思いが込められている。俺のスキルは、その全てを読み解くことができるのだ。
噂は噂を呼び、「真眼堂」には、ひっきりなしに依頼が舞い込むようになった。呪われた武具の解呪、伝説のアイテムの修復、未発見の魔法道具の能力解放。俺とリリアは、来る日も来る日も依頼に追われたが、その毎日はとても充実していた。
そんなある日、俺はリリアと一緒に、素材の買い出しのために王都の市場を訪れていた。その帰り道のことだ。人だかりができているのに気づき、何事かと覗き込んでみた。
その中心にいたのは、見知った顔だった。
「この通りだ! 誰か、ポーションを恵んでくれ!」
「この傷じゃ、もう戦えないんだ……」
冒険者たちが、通行人に物乞いをしている。そのみすぼらしい姿は、かつてSランクパーティとして栄華を誇った「紅蓮の牙」のメンバー、魔法使いのグレイとヒーラーのセシリアだった。二人ともあちこちに怪我を負い、その装備はボロボロだった。
(いったい、何があったんだ……?)
俺がパーティにいた頃は、彼らはいつも最新鋭の輝く装備に身を包んでいたはずだ。それが、どうしてこんなことに。
近くにいた商人たちの会話が、俺の耳に入ってきた。
「見たかい、あれが元Sランクの『紅蓮の牙』のなれの果てだってさ」
「ああ、聞いた聞いた。リーダーのゼノンが、大事な聖剣をダンジョンで失くしちまったらしいじゃないか」
「なんでも、宝箱に化けたミミックに食われちまったんだと。アホだよな、Sランクにもなってそんな初歩的な罠に引っかかるなんて」
「鑑定士を追い出したのが運の尽きだったのさ。装備の管理も、情報の精査も、全部その鑑定士がやってたらしいからな」
ミミック……。その言葉に、俺は自分が追放された日のことを思い出していた。あの時、俺は確かに警告したはずだ。あの宝箱は罠だと。だが、ゼノンはそれを無視した。その結果が、これか。
自業自得だ。そう思う一方で、かつての仲間(と呼べるほど良い関係ではなかったが)の哀れな姿に、少しだけ胸が痛んだ。
「アキラ様……?」
俺の様子を心配してか、リリアが不安そうな顔でこちらを見ている。
「いや、なんでもない。行こう」
俺は彼らに気づかれないように、そっとその場を離れた。彼らがどうなろうと、もう俺には関係のないことだ。俺には、俺の新しい人生がある。守るべき仲間がいる。
店に戻ると、ゴウが小さな身体で健気に留守番をしていた。
《マスター、お帰りなさいませ》
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過去を振り返っている暇はない。俺は前を向いて、自分の道を歩んでいくだけだ。
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