追放された“呪われ令嬢”を鑑定したら【豊穣の聖女】だったので、一緒に最高のすき焼きを作って幸せになります

黒崎隼人

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第7話「食卓の上の最終決戦」

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 静まり返った広場に、鉄鍋から立ち上る甘辛い香りが満ちていく。
 アルフォンス王子は、目の前の皿に盛られた、艶やかに輝く肉を疑わしげに見ていた。

「フン、見た目は悪くないが……所詮は田舎料理。こんなもので我らの舌を満足させられるとでも?」

 彼はそう言いながらも、その香りに抗うことはできず、箸を手に取った。
 隣のリリアナは、「まあ、お肉の色が綺麗ですわ」と上品ぶっているが、その目は完全に肉に釘付けになっている。

 俺は彼らの前に立ち、静かに言った。

「その肉は、セレスティーナの『豊穣の祝福』の力で育った牧草を食べた魔香牛のものです。その野菜もまた、彼女の力がなければ決してこれほど瑞々しく、味豊かには育ちませんでした。この料理は、彼女の力が祝福であることの、何よりの証拠です」

 アルフォンスは俺の言葉を鼻で笑い、肉を溶き卵にくぐらせると、大げさな仕草で口へと運んだ。

 その瞬間、アルフォンスの動きが、ピタリと止まった。
 彼の見開かれた目には、信じられない、という色が浮かんでいる。
 口の中で何が起きているのか、理解が追いつかないといった表情だ。

「な……こ、これは……」

 肉が、とろける。
 噛むまでもなく、舌の上でほどけていく。
 溢れ出す濃厚な旨味と、割り下の甘辛さ、そして卵のまろやかさが一体となり、経験したことのない味の波が、彼の脳を直接揺さぶる。

「……う、美味い……」

 王子の口から、絞り出すような声が漏れた。
 プライドも、見栄も、全てを吹き飛ばすほどの、圧倒的な美味しさ。

「ば、馬鹿な……こんな、こんな味が……あってたまるか……!」

 彼は我を忘れたように、二枚目、三枚目と肉を口に運ぶ。
 その隣で、リリアナも、一口食べた瞬間から淑女の仮面をかなぐり捨てていた。

「おいしい……! なにこれ、王子様、王宮のどんな料理よりも、ずっとずっと美味しいですわ!」

 彼女は涙目になりながら、肉と野菜を夢中で頬張っている。

 そして、一番の変化を見せたのは、あの宮廷魔術師ゲオルグだった。
 彼はすき焼きを一口食べると、ハッと何かに気づいたように目を見開き、セレスティーナの方をまじまじと見つめた。

「こ、この料理……! 食べているだけで、体の中から力がみなぎってくる……! この野菜に含まれる魔力、そしてこの肉から感じる生命エネルギー……なんと清浄で、温かい力だ……!」

 彼は、がばりとその場に膝をついた。

「王子! 私の目は節穴でございました! このご令嬢の力は、断じて呪いなどではございません! これは、大地そのものに愛された、聖なる祝福の力! 『豊穣の聖女』と呼ぶにふさわしい、偉大な御力ですぞ!」

 魔術師の叫びに、アルフォンスは呆然と肉を口に運ぶ手を止めた。

「豊穣の……聖女……?」

「左様です! この味こそが、何よりの証拠! 邪な呪いが、これほどまでに人々を幸せにする味を生み出せるはずがございません!」

 ゲオルグの言葉は、絶対的な説得力を持っていた。
 権威ある宮廷魔術師が、自らの過ちを認め、ひれ伏している。
 そして何より、このすき焼きの味が、彼の言葉が真実であることを物語っていた。

 アルフォンスは、皿の上の肉と、セレスティーナの顔を交互に見た。
 彼の顔から、急速に血の気が引いていく。
 自分が何をしたのか、今さらながらに理解したのだ。
 国にとって、どれほど貴重な宝を、自分の嫉妬と浅はかな判断で手放してしまったのかを。

 追い打ちをかけるように、リリアナが致命的な一言を口にした。

「そ、そんな……じゃあ、セレスティーナ様が植物を枯らしたりしてたのは……」

 その言葉に、俺は待ってましたとばかりに割って入った。

「ああ、それなら説明がつきますよ。彼女の力が強すぎたせいで、普通の植物は力の制御が未熟だった彼女の魔力に耐えられなかった。ただ、それだけのことだ。それを、あんたが『呪い』だなんだと王子に吹き込んだんだろう、リリアナ?」

 リリアナの顔が、真っ青になる。

「そ、そんなことは……」

「嘘をつくな!」

 アルフォンスが、リリアナに向かって怒鳴った。彼は全てを悟ったのだ。

「貴様が、私を騙していたのだな! 嫉妬心から、セレスティーナを陥れるために!」

 追い詰められたリリアナは、ヒステリックに叫んだ。

「だって、王子は私を選んだじゃないですか! あんな気味の悪い女より、私の方が……!」

 その言葉が、彼女の罪を決定づけた。

 勝負は、決した。
 食卓の上で繰り広げられた最終決戦は、俺たちの完全勝利に終わった。
 すき焼きという、最高に平和で、最高に美味しい料理が、全ての真実を明らかにしたのだ。
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