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第四章:領主のお仕事、まずは水と土から
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翌日、私は村の広場に小さな掲示板を立て、職人たちの助手を募集する旨を張り出した。日当は、銀貨数枚。飢える寸前の彼らにとっては、破格の条件だった。
最初は誰もが半信半疑だった。昨日絡んできた若者たちも、遠くから腕を組んで様子を窺っているだけ。しかし、私が本当に報酬を前払いするのを見ると、一人、また一人と、おずおずと名乗りを上げてきた。
こうして、ヴァイス辺境伯領で、史上初となる大規模な公共事業が始まった。
私の挑戦は、まず、この地の全ての元凶である治水の悪さから正すことだった。領地を蛇行する川は、雨が降るたびに氾濫を繰り返し、ただでさえぬかるんだ土地をさらに湿地帯へと変えていた。
「川の流れを、ここで大きく変えます。あちらの岩盤にぶつかるように水路を曲げ、勢いを殺してから、緩やかに平野部へ流すのです」
私は記憶の中にある豊臣政権下の治水技術――『霞堤(かすみてい)』や『瀬割(せわり)堤』の概念を応用し、この世界の職人たちにも分かるように説明しながら、自らも測量縄を持って泥の中に足を踏み入れた。
「そして、川底を浚渫(しゅんせつ)し、掘り出した土砂で堤防を築きます。堤防はただ高くすれば良いというものではありません。水の力を受け流すための『角度』が重要なのです」
公爵令嬢が、汚れることも厭わずに泥にまみれ、的確な指示を出す。その姿は、領民たちにとって信じられない光景だった。初めは「お姫様の道楽」と遠巻きに見ていた彼らも、私の指示通りに進められた工事が、目に見えて効果を上げていくのを目の当たりにするにつれ、その目から嘲りの色が消えていった。
私が示した場所に井戸を掘れば、今まで見たこともないような清らかな水が湧き出た。私が設計した水路は、淀みなく村へと水を運び、女たちの水汲みの労力を劇的に減らした。
アランは、そんな私の姿を常に傍らで見守り、時に警護し、時に自らも鍬を持って土を掘り起こした。彼は元騎士団長でありながら、貴族社会の理不尽さに絶望して野に下った男だ。だからこそ、身分を笠に着ず、領民と同じ目線で汗を流す私の姿に、彼は驚きと、そして新たな希望を見出しているようだった。
「シャーロット様は、一体何者なのですか。その知識も、その指導力も、ただの公爵令嬢とは思えません」
ある日の夕暮れ、二人で堤防の上を歩いている時、アランがぽつりと尋ねた。
「さあ、何でしょうね。ただの、城を失った女、とでも言っておきましょうか」
私は夕日に染まる工事現場を見ながら、そう言って微笑んだ。
一月が過ぎる頃には、奇跡が起きていた。あれほど暴れ狂っていた川は、まるで巨大な獣が鎖に繋がれたかのように、穏やかな流れを取り戻していた。そして、水が引いた後には、川が運んできた栄養をたっぷりと含んだ、広大で肥沃な農地が姿を現したのだ。
その光景を見た時、領民たちの中から、誰からともなく歓声が上がった。それはやがて大きな興奮の渦となり、彼らは泥だらけの私を担ぎ上げ、口々に感謝の言葉を叫んだ。
「領主様、万歳!」
「俺たちの領主様だ!」
彼らの目に、もはや不信感はなかった。そこにあるのは、絶対的な信頼と尊敬の念。
この瞬間、私は確信した。私の城の、一番強固な石垣が築かれたのだと。
そしてアランは、民に担がれて少し戸惑いながらも嬉しそうに笑う私の姿を、熱い眼差しで見つめ、この人に生涯を捧げようと、静かに心に誓うのだった。
最初は誰もが半信半疑だった。昨日絡んできた若者たちも、遠くから腕を組んで様子を窺っているだけ。しかし、私が本当に報酬を前払いするのを見ると、一人、また一人と、おずおずと名乗りを上げてきた。
こうして、ヴァイス辺境伯領で、史上初となる大規模な公共事業が始まった。
私の挑戦は、まず、この地の全ての元凶である治水の悪さから正すことだった。領地を蛇行する川は、雨が降るたびに氾濫を繰り返し、ただでさえぬかるんだ土地をさらに湿地帯へと変えていた。
「川の流れを、ここで大きく変えます。あちらの岩盤にぶつかるように水路を曲げ、勢いを殺してから、緩やかに平野部へ流すのです」
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私が示した場所に井戸を掘れば、今まで見たこともないような清らかな水が湧き出た。私が設計した水路は、淀みなく村へと水を運び、女たちの水汲みの労力を劇的に減らした。
アランは、そんな私の姿を常に傍らで見守り、時に警護し、時に自らも鍬を持って土を掘り起こした。彼は元騎士団長でありながら、貴族社会の理不尽さに絶望して野に下った男だ。だからこそ、身分を笠に着ず、領民と同じ目線で汗を流す私の姿に、彼は驚きと、そして新たな希望を見出しているようだった。
「シャーロット様は、一体何者なのですか。その知識も、その指導力も、ただの公爵令嬢とは思えません」
ある日の夕暮れ、二人で堤防の上を歩いている時、アランがぽつりと尋ねた。
「さあ、何でしょうね。ただの、城を失った女、とでも言っておきましょうか」
私は夕日に染まる工事現場を見ながら、そう言って微笑んだ。
一月が過ぎる頃には、奇跡が起きていた。あれほど暴れ狂っていた川は、まるで巨大な獣が鎖に繋がれたかのように、穏やかな流れを取り戻していた。そして、水が引いた後には、川が運んできた栄養をたっぷりと含んだ、広大で肥沃な農地が姿を現したのだ。
その光景を見た時、領民たちの中から、誰からともなく歓声が上がった。それはやがて大きな興奮の渦となり、彼らは泥だらけの私を担ぎ上げ、口々に感謝の言葉を叫んだ。
「領主様、万歳!」
「俺たちの領主様だ!」
彼らの目に、もはや不信感はなかった。そこにあるのは、絶対的な信頼と尊敬の念。
この瞬間、私は確信した。私の城の、一番強固な石垣が築かれたのだと。
そしてアランは、民に担がれて少し戸惑いながらも嬉しそうに笑う私の姿を、熱い眼差しで見つめ、この人に生涯を捧げようと、静かに心に誓うのだった。
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