役立たずスキル再翻訳で追放されたけど、世界の概念を書き換える最強チートでした。辺境の貧乏村を最高の楽園に開拓します

黒崎隼人

文字の大きさ
10 / 16

第9話「後悔の足音とは、過去からの請求書である」

しおりを挟む
 アルクライト公爵家の騎士が、希望の谷の門前に現れた。
 その報告を受けた時、僕は一瞬、時が止まったかのような感覚に陥った。

『……なぜ、今さら』

 僕を追放した、あの家が。
 僕のことなど、とうに忘れていると思っていたのに。

「カイリ、どうする?」

 報告に来たリリアが、心配そうな顔で僕を見ている。
 彼女は、僕が貴族の出身であることは知らない。ただ、僕が何か複雑な事情を抱えていることには、薄々気づいているだろう。

「……会ってみるしかないな」

 逃げるわけにはいかない。
 それに、彼らが何の目的でここに来たのか、確かめる必要があった。

 僕は、リリアと村長さんと共に、門へと向かった。
 門の上から下を見下ろすと、そこには、一人の壮年の騎士が、馬に乗ったまま、こちらを見上げていた。その鎧は、見覚えがある。アルクライト家に仕える、近衛騎士団のものだ。

「我々は、アルクライト公爵家よりの使者である!この谷の責任者との面会を求める!」

 騎士は、朗々とした声で言った。
 その声には、貴族に仕える者特有の、傲慢さが滲んでいた。

 僕は、村長さんと顔を見合わせた。
 村長さんは、僕にどうすべきか、目で問いかけてくる。

「僕が話します」

 僕は、覚悟を決めて、門の上に立った。

「僕が、この谷の責任者代理のカイリだ。アルクライト公爵家に、何の用かな?」

 僕の姿を認めると、騎士は少し意外そうな顔をした。
 こんな若い少年が責任者だとは、思ってもみなかったのだろう。

「ほう、貴殿が……。失礼、私は、アルクライト公爵家騎士団副団長のバルトと申す」

 バルトと名乗る騎士は、馬上から軽く頭を下げた。

「近頃、この辺境の地に、『希望の谷』なる、奇跡の村が存在するという噂を耳にした。にわかには信じがたい話だが、あまりにその噂が広まっているため、真偽を確かめるべく、当主様より命を受け、参上した次第」

『……噂か』

 やはり、行商人たちが行商人たちが広めた噂が、貴族たちの耳にまで届いたらしい。
 しかも、よりにもよって、アルクライト家に。

「見ての通り、噂は事実だ。だが、それが何か?」

 僕は、できるだけ平静を装って、答えた。

「ふむ……。その城壁、そして、その門の向こうに広がるという豊かな土地。それを、わずかな期間で作り上げたと?にわかには信じがたい。もしや、何か、特別な力を持つ者が、この谷にはいるのではかな?」

 バルトは、探るような目で僕を見つめてくる。
 どうやら、ただの噂の真偽を確かめに来ただけではないらしい。この奇跡の裏にある「何か」を探りに来たのだ。

「特別な力、ね。まあ、この谷の土が、たまたま作物を育てるのに適していた。それだけのことだ」

 僕は、しらを切った。
 ここで【再翻訳】の存在を明かすのは、あまりにも危険すぎる。

「ほう。偶然、と?」

 バルトは、納得していない様子だった。
 しばらくの沈黙の後、彼は、不意に、全く別の話題を切り出してきた。

「……ところで、カイリ殿。その名、どこかで聞いたことがあるような気がするのだが……。特に、その灰色の髪と、金の瞳。アルクライト家の……いや、まさかな」

 バルトは、何かを言いかけて、首を振った。
 彼の言葉に、僕の心臓が、どきりと音を立てた。

 バルトは、僕が幼い頃、剣術の稽古をつけてくれたことがある。僕の顔を、覚えているのかもしれない。

『まずいな。長居はさせられない』

「用件はそれだけか?我々は、これから忙しい。お引き取り願おう」

 僕が、話を打ち切ろうとすると、バルトは、にやりと不気味な笑みを浮かべた。

「まあ、そう焦りなさるな。実は、もう一人、貴殿に会わせたい方が、こちらに来ておられるのだ」

 バルトが、後方を振り返って合図をすると、森の陰から、もう一台の馬車が現れた。
 それは、豪華な装飾が施された、貴族用の馬車だった。
 そして、その扉に描かれているのは、紛れもなく、アルクライト家の紋章。

 馬車の扉が開き、中から一人の青年が降りてきた。
 プラチナブロンドの髪、整った顔立ち、そして、僕を見下すかのような、冷たい青い瞳。

「……兄さん」

 僕は、思わず、その名を呟いていた。
 そこに立っていたのは、僕を追放した張本人、僕の兄、アルフレッド・フォン・アルクライトだった。

 アルフレッドは、僕の顔を見るなり、驚愕に目を見開いた。

「……カイリ!?なぜ、お前が、こんなところに……!?」

 彼は、信じられない、という表情で、僕と、僕が立つ城壁を交互に見ている。

「それは、こちらの台詞だよ、兄さん。何の用だ?出来損ないの弟が、辺境でどう生きているか、見物に来たとでも?」

 僕は、精一杯の皮肉を込めて、言った。
 兄の顔を見た途端、心の奥底にしまい込んでいた、どす黒い感情が、鎌首をもたげてくるのを感じた。

「……やはり、お前だったか」

 アルフレッドは、歯ぎしりしながら、僕を睨みつけた。

「この谷の奇跡、というのも、お前の仕業か?あの、役立たずのスキルで、一体、何をした?」

「役立たず?さて、何のことかな。僕のスキルは、見ての通り、村を発展させるのに、大いに役立っているが?」

 僕の挑発に、アルフレッドの顔が、怒りで赤く染まった。

「ふざけるな!ゴミスキルで、こんなことができるはずがない!何か、隠しているんだろう!」

 彼は、感情的に叫んだ。
 その様子を見て、僕は確信した。

『ああ、こいつは、何も分かっていない』

 彼は、僕のスキルの価値を、今も理解できていない。
 ただ、自分の理解を超えた現象を前にして、苛立ち、混乱しているだけだ。

「隠していることなど、何もない。これが、僕の力の全てだ。君たちが、理解できなかっただけの話さ」

 僕は、静かに、そしてはっきりと告げた。

「……っ!」

 アルフレッドは、言葉に詰まったようだった。
 彼のプライドが、僕の言葉によって、深く傷つけられたのが分かった。

 しばらくの睨み合いの後、アルフレッドは、ふう、と長い息を吐いて、冷静さを取り戻そうと努めているようだった。

「……カイリ。話がある。中に入れてもらおう」

「断る。君たちを、この谷に入れるわけにはいかない」

「何だと?」

「ここは、僕の大切な場所だ。君たちのような人間に、土足で踏み荒らされたくはない」

 僕のきっぱりとした拒絶に、アルフレッドの眉が、ぴくりと動いた。

「……いいだろう。ならば、ここで話すまでだ。カイリ、家に帰ってこい」

「……は?」

 僕は、自分の耳を疑った。
 今、こいつは、何と言った?

「お前のスキルのことは、まだよく分からん。だが、それが、何らかの有用な力であることは、理解した。父上も、お前の力を、家のために役立てるべきだとお考えだ。今までのことは、水に流そう。お前が家に戻れば、勘当も解き、再び、アルクライト家の一員として、迎え入れてやろう」

 アルフレッドは、さも当然のように、そう言った。
 まるで、僕がその言葉に、泣いて喜ぶとでも思っているかのような、傲慢な口ぶりだった。

 僕は、その言葉を聞いて、怒りを通り越して、もはや笑いさえ込み上げてきた。

「は、はは……。あはははは!」

 僕の突然の笑い声に、アルフレッドも、リリアたちも、驚いた顔をしている。

「……何がおかしい」

 アルフレッドが、不機嫌そうに尋ねた。

「いや、あまりにも、都合が良すぎると思ってね。さんざん僕をゴミ扱いして、追い出しておいて、今さら、役に立つと分かったから、帰ってこい?冗談も、大概にしてくれ」

 僕は、笑うのをやめ、氷のように冷たい声で、言い放った。

「断る。僕は、もう、アルクライト家の人間じゃない。ただの、カイリだ。そして、僕の居場所は、ここだ。2度と、君たちの家に戻るつもりはない」

 僕の言葉は、アルフレッドにとって、予想外のものだったらしい。
 彼は、信じられない、という顔で、僕を見ていた。

「……正気か、お前。公爵家の地位を捨てるというのか?こんな、辺境の泥にまみれた生活のために?」

「ああ、正気だとも。僕にとって、この泥にまみれた生活は、君たちの豪華絢爛な屋敷で暮らすより、何百倍も価値がある」

「……貴様……!」

 アルフレッドの顔が、再び怒りに染まる。
 彼は、僕が自分の申し出を、当然、受け入れると思っていたのだろう。
 その思い上がりが、打ち砕かれたのだ。

 後悔。
 彼の瞳の中に、初めて、その色が浮かんだのを、僕は見逃さなかった。
 僕という存在を、僕のスキルを、安易に切り捨ててしまったことへの、遅すぎた後悔。

 それは、僕がずっと、心のどこかで望んでいたものだったのかもしれない。
 でも、いざそれを目の当たりにしても、僕の心は、少しも晴れなかった。
 ただ、虚しさが、広がるだけだった。

「話は、それだけか?なら、もう帰ってくれ。僕たちは、忙しいんだ」

 僕は、アルフレッドに背を向けた。
 これ以上、彼と話すことは、何もない。

「……待て、カイリ!」

 アルフレッドの、悲痛な叫びが、背後から聞こえた。
 しかし、僕は、もう振り返らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

処理中です...