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第7話:過去への訣別、未来への誓い
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俺たちの目の前に現れたのは、紛れもなくベルクだった。だが、その雰囲気は俺たちが知る気弱な荷物持ちとはまるで違う。背筋は伸び、その瞳には静かな自信が満ちている。隣には、まるで女神のように美しい銀髪のエルフが、親密そうに寄り添っていた。
「……ベルク、なのか?」
ガイが、絞り出すような声で尋ねる。
ベルクは俺たちを一瞥すると、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに落ち着き払った表情に戻った。
「……ああ、勇者様御一行。お久しぶりです。そんなところで、何かご用ですか?」
その落ち着き払った態度が、俺たちの神経を逆なでした。
「な、なぜお前がこんな所に! こんな豪邸に住んで……!」
リナが金切り声を上げる。
ガイは、はっと我に返ると、慌ててその場に駆け寄った。そして、信じられないことに、プライドの高いこの俺が、地面に膝をついたのだ。
「ベ、ベルク! すまなかった! あの時は、俺たちが間違っていたんだ!」
土下座。人生で初めての経験だった。だが、今はそんなプライドなどどうでもよかった。こいつの力さえあれば、俺たちは返り咲ける。
「お前の力が必要なんだ! 頼む、俺たちのパーティーに戻ってきてくれ! これまでのことは水に流す! 待遇も最高のものを用意する!」
ゴードンもリナも、慌てて俺の隣で頭を下げる。
「そうよ! 私、あなたのこと、見直したわ! 戻ってきてちょうだい!」
「頼む、ベルク! 俺たちを助けてくれ!」
必死の懇願。みっともないとわかっていた。だが、これしか道はなかった。
しかし、ベルクの反応は、俺たちの期待とはまったく違うものだった。
彼は、隣に立つ銀髪のエルフ――ルナの手を、優しく握りしめた。そして、俺たちを静かな、しかし氷のように冷たい目で見下ろして言った。
「断る」
たった三文字。だが、そこには一切の揺らぎも、迷いもなかった。
「俺にはもう、守るべき大切な人がいる。この町での穏やかな暮らしがある。君たちと関わるつもりは、もうないんだ」
ベルクは、かつて俺たちが彼に向けたのと同じ、見下すような視線を俺たちに向けた。
「それに……」
彼は、一拍置いて、決定的な言葉を告げた。
「もう遅いんだよ」
その言葉が、俺たちの最後の望みを打ち砕いた。
「なっ……ふざけないでよ! 誰のおかげでここまで来れたと思ってるの!? この恩知らず!」
逆上したリナが、ベルクに向けて炎の魔法を放った。
しかし、その魔法がベルクに届くことはなかった。彼を守るように前に立ったルナが、軽く手をかざす。すると、神々しい光の壁が現れ、リナの炎をいともたやすく弾き返したのだ。
「ベルク様を、傷つけることは許しません」
聖女の威厳に満ちた声に、俺たちは気圧される。
さらに、ベルクの屋敷の門から、ゴツゴツとした岩石のゴーレムが二体現れ、俺たちを取り囲んだ。その圧倒的な威圧感に、俺たちは腰を抜かしてしまった。
「悪いが、もう帰ってくれ。二度と、俺たちの前に現れないでほしい」
ベルクは冷たく言い放つと、ルナと共に屋敷の中へ消えていった。残された俺たちは、ゴーレムに文字通り叩きのめされ、町から追い出された。
地面に転がり、遠ざかっていくアークライトの町並みを眺めながら、俺は呆然とつぶやくことしかできなかった。
「……なぜだ。なぜ、こうなった……」
過去を完全に清算したベルク。しかし、彼が手に入れた力と名声は、平穏な生活だけでは終わらない、新たな脅威を引き寄せようとしていた。
「……ベルク、なのか?」
ガイが、絞り出すような声で尋ねる。
ベルクは俺たちを一瞥すると、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに落ち着き払った表情に戻った。
「……ああ、勇者様御一行。お久しぶりです。そんなところで、何かご用ですか?」
その落ち着き払った態度が、俺たちの神経を逆なでした。
「な、なぜお前がこんな所に! こんな豪邸に住んで……!」
リナが金切り声を上げる。
ガイは、はっと我に返ると、慌ててその場に駆け寄った。そして、信じられないことに、プライドの高いこの俺が、地面に膝をついたのだ。
「ベ、ベルク! すまなかった! あの時は、俺たちが間違っていたんだ!」
土下座。人生で初めての経験だった。だが、今はそんなプライドなどどうでもよかった。こいつの力さえあれば、俺たちは返り咲ける。
「お前の力が必要なんだ! 頼む、俺たちのパーティーに戻ってきてくれ! これまでのことは水に流す! 待遇も最高のものを用意する!」
ゴードンもリナも、慌てて俺の隣で頭を下げる。
「そうよ! 私、あなたのこと、見直したわ! 戻ってきてちょうだい!」
「頼む、ベルク! 俺たちを助けてくれ!」
必死の懇願。みっともないとわかっていた。だが、これしか道はなかった。
しかし、ベルクの反応は、俺たちの期待とはまったく違うものだった。
彼は、隣に立つ銀髪のエルフ――ルナの手を、優しく握りしめた。そして、俺たちを静かな、しかし氷のように冷たい目で見下ろして言った。
「断る」
たった三文字。だが、そこには一切の揺らぎも、迷いもなかった。
「俺にはもう、守るべき大切な人がいる。この町での穏やかな暮らしがある。君たちと関わるつもりは、もうないんだ」
ベルクは、かつて俺たちが彼に向けたのと同じ、見下すような視線を俺たちに向けた。
「それに……」
彼は、一拍置いて、決定的な言葉を告げた。
「もう遅いんだよ」
その言葉が、俺たちの最後の望みを打ち砕いた。
「なっ……ふざけないでよ! 誰のおかげでここまで来れたと思ってるの!? この恩知らず!」
逆上したリナが、ベルクに向けて炎の魔法を放った。
しかし、その魔法がベルクに届くことはなかった。彼を守るように前に立ったルナが、軽く手をかざす。すると、神々しい光の壁が現れ、リナの炎をいともたやすく弾き返したのだ。
「ベルク様を、傷つけることは許しません」
聖女の威厳に満ちた声に、俺たちは気圧される。
さらに、ベルクの屋敷の門から、ゴツゴツとした岩石のゴーレムが二体現れ、俺たちを取り囲んだ。その圧倒的な威圧感に、俺たちは腰を抜かしてしまった。
「悪いが、もう帰ってくれ。二度と、俺たちの前に現れないでほしい」
ベルクは冷たく言い放つと、ルナと共に屋敷の中へ消えていった。残された俺たちは、ゴーレムに文字通り叩きのめされ、町から追い出された。
地面に転がり、遠ざかっていくアークライトの町並みを眺めながら、俺は呆然とつぶやくことしかできなかった。
「……なぜだ。なぜ、こうなった……」
過去を完全に清算したベルク。しかし、彼が手に入れた力と名声は、平穏な生活だけでは終わらない、新たな脅威を引き寄せようとしていた。
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